見出し画像

Fontaines D.C. 『Skinty Fia』 (2022)

画像1

9/10
★★★★★★★★★☆


トゥトゥトゥ、ラララ。とにかく暗い。そしてその暗さにこそ、ロックがロックであるべき理由が詰まっている。

前作はまだポストパンク、ガレージロックの枠の中にある音だったが、しかし本作ではもうよく分からなくなってきている。テクスチャが溶出し、まるで火傷痕から体液が滲み出るような、剥き出しの表現そのもの、ムードそのものが溢れ出す。

凍てついたバラが砕け散る"Big Shot"、濁った聖水を撒き散らす"Bloomsday"、無垢の精神が壊れゆく"Roman Holiday"、地獄の底で咲くたんぽぽのような"The Couple Across The Way"、青白い焔が慟哭の魂を静かに燃やす"I Love You"。このあたりは特に壮絶。"Would I Lie ?"より痛切な叫びは久しく聴いていない。

ボーカルはIceageのElliasやKing Kruleのように気難しさと神秘的な崇高さを併せ持つ。カリスマの塊。ドラムはルーズなBPMの上でシンバルを多用することでジワジワと追い詰められる焦燥を的確に表現し切っている。ベースは浮つくことはなく終始ロウフレット上で塒をまいている。ポストパンクの通奏低音。2本のギターは奇抜なことはせず、リズム隊の作るロウな雰囲気に則り、多彩なエフェクトでポストパンク特有の濁りと無垢を同時に表現する。

サウスロンドン勢とは異なり、奇天烈な演奏は一切ない。よくある基本のフレーズをここまで鬼気迫る必然性を以て鳴らせるのはセンス以外の何物でもない。逆に言えば、一見どこにでもある音だが、実はどこにも無い音になっている。

全てを殺す目つき。アイデンティティと革新性の狭間を突き進む。ロックがセレブやアイドルのおもちゃとなりつつある時代に、これほどロウでグロテスクな真のロックに出会えたことが嬉しい。年間ベストアルバム1〜5位レベルの傑作。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?