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高橋アキ ピアノリサイタル2019 (2019/10/24)

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『高橋アキ ピアノリサイタル2019』に伺いました。(2019/10/24@豊洲シビックセンターホール)

ピアニストの高橋アキさんは東京藝術大学を経て同大学院修了。大学院在学中に武満徹作品でデビュー。1970年初リサイタル。72年にベルリン芸術週間、パリ秋の芸術祭などで公演、現代音楽グループ「サウンド・スペース・アーク」を結成。各国の作曲家たちから多くの作品の献呈を受け初演されています。今日に至るまで世界各地での演奏活動およびレコーディングにも意欲的に取り組んでいます。2007年度芸術選奨文部科学大臣賞、1973年と2008年には文化庁芸術祭優秀賞を、そして11年秋の紫綬褒章を受章。14年には第23回朝日現代音楽賞を受賞するなど、まさに日本を代表するピアニストの一人です。

プログラム前半はシューベルト作品でした。
最初は「ヒュッテンブレンナーの主題による13の変奏曲 イ短調 D.576(1817)」。ピアノはFazioli(ファツィオリ)です。非常に美しい透明感溢れる音色で、明晰かつ確かな歩みで音楽の陰影が浮かび上がるような演奏でした。
「4つの即興曲 作品90 D.899(1827)」は冒頭の激しい一撃からのppの粒立ちに耳を奪われました。ひそやかさと雄弁さのコントラスト。煌めくような音色。感情的に流されない音楽の構築力と深い洞察。彫刻のように音楽が削り出されるかのような圧倒的な説得力で感銘を受けました。

休憩を挟んで後半は現代作品が並びました。
一柳慧の「ピアノ・メディア(1972)」は高橋さんが72年に初演した楽曲で、パターン化された音型が繰り返されるミニマル・ミュージックでした。驚くほどの正確さと鮮烈さで明快に演奏が進みましたが、唐突に終わりを迎えるという構成で、非常に面白く聴かせていただきました。
間宮芳生の「家が生きていたころ(語り&ピアノ)(2002)」も高橋さんが2002年に初演。当時は野村万禄さんが語りを務められたそうです。今回は高橋さん自身による弾き語りでした。温かな朗読の声と相まって、懐かしい感情が蘇るような音楽でした。
鈴木治行の「句読点VIII(2011)」は、最初に「ピ!」っという電子音が聴こえ、鮮烈な打鍵で短い音価のリズムが連続しました。そして突然「ピピピピ!」とタイマーが鳴り響いて演奏が断ち切られました。
プログラム最後はクセナキスの「ヘルマ(1961)」でした。この楽曲は高橋アキさんの実兄であるピアニストで作曲家の高橋悠治さんが21歳のときに依頼して作曲され、あるピアニストに演奏不可能と言われたこともあるという難曲です。演奏が始まると、鍵盤の両端まで無数に音が散りばめられている楽曲を、まるで4手連弾で弾いているかのように縦横無尽に、そして輝かしく疾走しました。

会場に駆けつけた聴衆から惜しみない拍手が送られ、アンコールとして4曲演奏されました。
まず、湯浅譲二の「レナの子守歌」と「ポンポンてね」は、湯浅さんが娘さんのために書いたという子守唄で、クセナキスの直後ということもあり、ほっとして温かい気持ちになる曲でした。
続いて、武満徹夫人の浅香さんがこの9月に亡くなられたそうで、昨年まで高橋さんのコンサートに来られていた浅香さんが武満作品で一番好きだったという武満徹編曲によるビートルズの「ゴールデン・スランバー」が演奏されました。磨き抜かれた美音で思い入れたっぷりの演奏に魅了されました。
アンコール最後は、プログラム冒頭のシューベルトに戻って「ディアベリによるワルツ」がさらりと弾かれ、とても充実したコンサートの幕が閉じられました。

皆さんもぜひコンパスを使ってコンサートをお楽しみください!


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