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月子と太一

 忘れ物市が開催されている様子を見たのは、朝のニュース番組の特集だった。

 結婚が決まり、昨日寿退社した月子は、婚約者である太一の部屋で、出勤時間に煩わされることなく、優雅な朝を満喫していた。

 電子タバコを吸いながら、見るともなしにテレビを見ていると、電車に忘れられた様々な物どもが、「忘れ物市」と称されて売られている様子が映し出されていた。

 「そんなのがあるんだ」と、月子が画面に食い入ると、実に面白いものが並んでいた。

 傘やバックは当たり前で、ヴイッグや毛皮のコート、額入りの絵画、どうしたらそんなものを忘れられるのかと不思議な物が、所狭しと並んでいる。

 中でも月子が釘付けになったのは、真っ白なウェディングドレスだった。
数ヶ月前から何十着も試着しているウェディングドレスを思い浮かべながら、月子は忘れられたウェディングドレスに想いを馳せた。

「どうやって忘れたんだろ」
思わず独り言を呟きながら、いくつもの想像が頭をよぎった。

 小さく折りたたんでカバンに詰めてそれを忘れたのか。それとも都会じゃウェディングドレスを電車でそのまま運ぶのが普通なのかも。
 色々と考えてみたが、月子が最終的に下した結論は、花嫁がわざと忘れていった説、だった。

 月子が想像したストーリーは全くベタなもので、花嫁が、何らかの事情で式場を抜け出し、どこかで着替え電車にドレスを置いていった。そして、その「何らかの事情」は、花婿以外の別の男とのカケオチに違いない。と、月子は確信した。

 自分の考えに満足した月子は、すでに出勤していった太一が残したトーストを咥え、再びベッドに潜り込んだ。

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