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真夜中の庭で

 あるところに、照明が大好きな男が住んでいました。
 男は、自分の家の門灯や前庭を明るく照らすのが大好きでした。妻と自分の車を置いているガレージも明るく照らし、向かいの息子一家の家と貸し駐車場まで明るくしていました。
 困ったのは、息子一家の家のお隣の植物達でした。
 植物達は、夜はぐっすり眠って、昼は太陽の光を思いっきり浴びたいのに、照明が大好きで、隣近所まで照らさずにはいられない男のせいで、一晩中、照らさられ続けていました。
 男に、植物達の言葉が分かるかどうかは分かりませんが、男に直接、「やめて下さい」と伝えようにも、植物達は庭を動くことが出来ず、ストレスをためていました。
「せめて、男の家まで歩いていける足があればなあ……」
 と、黄色い花が言いました。
「あら、足がなくても、蔓を伸ばせばいいだけじゃない?」
 横や縦に伸びることの出来る緑の植物が言いました。
「それはそうだけどさ。君は、そこに固定されてて動けないじゃないか」
 伸びることが得意な植物は、勝手気ままに伸びていかないように、黒い棒で固定されていました。
「それに、君がお隣へ届く日が来るのを待っているうちに、僕らは寿命を終えてしまうよ……」
「それは、そうだけど……」
 男の家までは無理でも、いつか、自分が緑のカーテンとなって、隣の、男の息子一家の家を照らすたくさんの明かりから、この家の人達や、庭の植物達を守ることを夢見ていた緑の植物は、がっかりした様子で、しょんぼり下を向いてしまいました。
「本当に、どうにかならないものかね……」
 門の近くに植えられて、まともに外灯の光を浴びている紫の花達が、不機嫌極まりない様子で言いました。
 それに深く同意したように、近くに植えられた松の木が頷きます。
「せめて、彼らと話すことが出来ればいいのになあ……」
 ため息交じりに、赤い花が言いました。
 男の家の植物達も、一晩中、外灯に照らされています。男の息子一家の家の植物達も、塀の照明や、駐車場の照明灯に照らされています。
「ダメダメ!あんなやつらに、僕達の気持ちが分かるわけがないんだから!」
「それもそうね。向こうは照らしている側の植物で、私達は照らされている側の植物だもの」
「それもそうだけどさ。話してみる前から、向こうとは話が出来ないって決めつけるなよ」
 黄色い花と緑の植物の話を聞いていた白い花が、軽くたしなめるように言いました。
 あちらの植物達は、だんまりをきめこんだままです。
「でも、あなたも見たでしょ?この家の人達が、根気よく、照明が大好きな男と話をして、こないだやっと、男の会社の職人達がやってきたのに、何も改善されなかったどころか、「この家の方を向いているから」という理由で、切ってもらっていた息子一家の門の照明まで、再びつけられちゃったのを……」
 植物達は、途方にくれてしまいました。
「……こないだ、平塚に落ちたとかいうあれ、ここにも落ちて来ないかしら?」
「隕石のことかい?」
「そう、それよ!」
「そんなもんが落っこちてきたら、僕達も無事じゃ済まないよ!」
 仰天したように、黄色い花が叫びました。
「でも、このままよりはマシよ」
 半ばヤケクソ交じりで、緑の植物が答えました。
「数は少ないそうだけど、オリオン座流星群とやらに願ってみてはどうだろう?」
 緑の植物と黄色い花のやり取りを見守っていた赤い花が、おずおずと切り出しました。
「星に願いを?!」
「そんなのおとぎ話の中の世界だけの話だよ!」
「10月21日って、今日?わぁ~~、曇っていて星が見えない!」
 緑の植物と黄色い花だけでなく、この庭の植物達はみんな疲れ切っていました。
「頼むから、夜眠らせてくれ……」
「一晩中明かりを浴びていると、体内時計が狂う」
「あんた達の趣味に、こっちを付き合わせんじゃないわよ!」
「光害反対!」
「ようやく朝になって、照明が消えたと思ったら、6時前に出て行く駐車場利用者がいるし……」
「あのおっさん、出てくのだんだん早くなってないか?」
「こっちは、もう少し休みたいのに……。5時40分過ぎに出て行ったこともあったわよ……」
「排ガス、あっちじゃなくて、みんなこっちにかかってくるし……」
「ほんま、カナン……」

 植物達はみんな途方にくれて、歌い出しました。

 困ったな。
 困ったな。

 向かいと隣家の照明困ったな。

 人の庭を照らしておいて、あんたらは、暗闇の中でグッスリか!
 妖精に女王はいるけど、植物にはいない。

 困ったな。
 困ったな。

 どんどん早く出て行くおっさん困ったな。
 排ガスかかって困ったな。

 植物達の大合唱は、朝まで続きました。


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