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左官屋はみた 上巻【note de ショート】

はじめまして。
僕は國武洋一といいます。
よろしうたのんます。

國武左官工業の3代目です。
じい様の代からここ奈良県で左官業を
営んでます。

よそ様はどうなのか、よく
わかんないんですけど、奈良とか
周辺の畿内ではまだ左官の仕事が
多いんです。

じい様が興した左官業。
親父やじい様から社長業を引き継いで
頑張ってます。

ですが僕の仕事は寺社仏閣の修復とかでは
ないんです。嫌いなんですよ、そういうの。
なんとかの慣習がどうの、とか。

だもんで
もっぱら新築住宅の外壁を施工する左官業
として飯食ってます。


左官

この言葉を聞いてみなさんあまりよく
わからないと思うんです。

例えば・・・
ヨーロッパの家にみるおしゃれな家の壁
っていうとよくわかるんじゃないかな?
そう、コテで塗っていきます。パターンも
さまざま。

オウギ型で無造作に施工している壁って
よく見ません?
それ、左官の仕事のひとつです。

じい様や親父は、というと
まだ昔からの仕事してますわ。
寺の土塀の修復とかを漆喰(しっくい)で。

それに嫌気がさした跳ねっ返り。
これが國武洋一、そう僕っすわ。

とはいえ、こんな僕は生粋の左官職人。
小学校に入る前からじい様から
左官のすべてを叩き込まれて今に至ります。

漆喰だって自分で作るんすよ。
最近は塗料メーカーから漆喰塗料っていうのが
出てますね。アレ、邪道っすわ。

漆喰は職人の感性と手間ヒマで作るもの。
まずは水からこだわる。
ワラをざく切りにして混ぜ合わせる
しかもこだわり抜いた水を使って。
そのまま何年も寝かせるんですわ。

これがほんとの漆喰なんす。
これがほんとの左官業です。

こだわるから左官業は手間受けが高い。
仕事がどんどんなくなっていくんですね。
ペンキ屋が代わりに安く仕上げてまうんで
純粋な左官の仕事っていうたらあんま
ないんすわ。

でもね、僕。
全国でも指折りの左官職人と言わせて
もらいます。自他共に認めていただいてます。

その証拠に僕、家が日本中にあって
仕事で全国をまわってるんすわ。
僕の選んだ左官屋チームつれて
北は北海道、南は・・・鹿児島。
沖縄はまだいったこと無いんちゃうかな。

大手のハウスメーカーさんからの受注から
こだわりの地元の工務店までオファーがあれば
伺わせていただいてます。

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そんな折、
実家から呼び出されたんすわ。
おかんからでした。

「洋一、アンタいまどこおるん?
とうちゃんからLineあったんか?

とうちゃん、足場から落っこちてな
ちょっとだけ入院や。
今日電話したげてなー」

気づいたらメッセではなく着信が。
まったく気づいてませんでした。


その夜、親父に電話をすると
帰郷命令の内容でした。

「おぉ、洋一。
実はな、わし足くじいてん。
せやさけ、おまえに頼まれてほしい
仕事あんねや。帰ってこれるか?」

「ホンマ大丈夫なんけ、親父?
おかんに聞いたら境内から派手に
落っこったらしいやん。後生やで、ほんま」

「アホか。こんなんなんともない。
ただのからだの痛みや。親鸞さんかて
守ってくれはるわ」

そんなこんなの話のあと
親父が切り出しました。

「あんな。わしらんとこにオハチが回って
きてん。誰にも頼めんし任せられへん仕事や。
仕事内容、現場そのた一切漏らしたらアカン

すべて極秘の仕事や。でもなこれ、断れへん。
国から見初められた、ってのもあるけどな
ちゃうねん、断れんねん。避けられんさかい。
せやから、洋一。おまえこっち帰ってこい」


ほら、コレですわ。
極秘の、とか自治体の、とか左官、宮大工さん
こんなんばっかっすわ。
それがいやで半ば家でてんのに・・・

でも、いまここ福島県郡山の新築工事j。
外壁を思いっきりピンクのコテ塗り仕上げ。
明日にでも終わりそうやったし、僕がおらん
でもできるようにメンバー達になってもらい
たいし、なんか実家が大変そうやったし
親父も心配やし、で実家に帰ろうと思いました。


車では時間かかるんで始めて飛行機にのりましたわ。


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JR東北本線の仙台行きの電車にのり仙台空港まで
そのまま伊丹には朝に郡山でて夕方前に着きました。

そこからJR奈良駅まで。あとは・・・
それにしても乗り継ぎ乗り継ぎで難儀しましたわ。


そこから大学病院へ。
親父の入院先です。


おかんとじい様に
病院の売店であいました。

「おぉ、洋一、久しいな。
帰ったか!おまえ漆喰がいい頃合いやで。」

声のでかさは昔から。
職人は元来声がでかい生き物なんす。
病院のなかでもお構い無し。

「洋ちゃん。はやかったね。
現場は大丈夫なんか。ほんまごめんねー」

おかん、また太ったな。

僕は二人につれられて親父の病室へ。

そこで親父と会って話を聞く用意はできてましたが・・・


なんだ、こいつら?
病室にいたのは3人の背広を着た男達。
なんだ保険屋にしてはモノモノし過ぎる。

僕は一応ペコリと挨拶をすると病室の椅子に
腰かけようとしました。

すると彼らのうちの一人が話を霧だしました。

「國武・・・あなたは棟梁のご子息の
國武洋一さんですね?

お見舞いの最中、お邪魔してしまい大変
申し訳ございません。

私たちは政府の密命を帯びて本日お邪魔して
いるのです。

詳しい話はお父様からお聞きですか?
今回の一件は、極めて非常に・・・」

「なんすか、アンタら?こんなとこ来て
いきなり。他の患者さんやっておるねん。
もうちょっと何とかあるやろ。
例えば、うちに来てもらうとか?」

「はい、申し訳ないとは思います。
ですが我々の姿はあまり白昼にさらすべき
ではない。ご了承ください。」

「せやかて公務員やろ?
なんぼでも大手振って歩けるやん。
公務員なんてめっちゃ人気ある仕事やし。」

「・・・私たちはすこし違います。実は・・」

と男が話始めた時、もう一人から遮られた。

「洋一さん、もしよろしければ二階のカフェでお話を
させていただけないでしょうか?」

この標準語。そう。標準語もさることながら
眉毛ひとつ動かさない仕草。パリッパリに固めた
アタマ。
うん、まるでこいつらは



公安の人間。
国家公安委員会の人間。

苦手なタイプ・・

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病院の二階にあるカフェ。
僕と3人の男達という異様な光景。

彼らは所属は結局明らかには
しよりませんでしたね。

ていうよりも僕と話してるってのも
オフレコらしいですわ。

せやったらサングラスつけてマトリックスの
URGENTSMITHみたいなんもええのにな・・・
まぁ、余計に目立つしNGなんやろけどね。

「お父様から今回の件については
お聞き及びと思います。
ですが詳しいことは聞いていらっしゃらないと
思いますがいかがですか?」

そう、まさにそうなんだ。
さっきも親父に電話で見せた元気はなかった

それどころか嫌に萎縮して
なんか遠慮がちだったように見えた。

気のせい、ではなさそうですわ。
これ、なんかありますわ。

「今晩、お電話します。3コール以内に
必ずとってください。
詳しいことはその時改めてお話いたします」

そういうと公安さん達は病院を後にして帰りました。

そのあと改めて親父を見舞ったんすけど
やっぱちょっとよそよそしかったんです。
1回たりとも目を会わすことがありません
でしたわ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その夜、僕は実家に泊まりました。
福島の現場も問題ないとの連絡もあったんで
ほっとしてます。
でも気が抜けませんねぇ。

公安さんの連絡待ちやし・・・

僕は浸けておいた漆喰にご挨拶。
僕のかわいい子供達。

うんうん、それぞれの壺のなかで
いまかいまかと待っています。
早く外壁に塗られたいらしいです。

そうかそうかおまえらが・・・
RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!

僕が悦に浸っているところに着信です。
公安でしょうか?


違います。親父?
なんでしょう。

「おぉ、洋一か。
すまんだな。
わしも・・・なんも話して
やれんけど・・・

そうや。
これだけ守れ!
これだけや。

それはな・・・



日光東照宮のエテ公みたいに
エテ公みたいに・・・・

どっかで盗聴されるんかもしれん・・・


せやさかい。
守れ。ZZZZZZZZ・・守れ。



GGGGGGGGZZZZZZZZZZZZ////!」


ここで電話が切れた。
親父からの電話。

なんかこれヤバくねぇっすか?


ここに来て始めて感じちゃいましたよ
恐怖を!


その時また。
RRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・

非通知設定。
今度はやはり。

「もしもし、國武です」

案の定、公安からでした。



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中巻に続く。

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