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航空会社のSAF利用による排出量削減

7月12日付の日経産業新聞に、ANAがユーザーを巻き込んだ形でSAF(Sustainable Aviation Fuel)を活用した排出量削減に取り組んでいるという記事がありました。

ANA、再生燃料の需要開拓 協力企業増やしコスト低減

全日本空輸(ANA)が廃油や植物を燃料とした環境負荷の少ない航空燃料(SAF)の活用を広げている。航空機を出張で使う企業がSAFのコストを一部負担する代わりに、二酸化炭素(CO2)の削減を示す証書の発行を受けられるプログラムを開始した。脱炭素に欠かせないSAFは世界的に供給が少なくコストが高い。東証プライム市場に上場する大手企業などに参加を促し、協力企業を増やすことで普及を後押しする。
 ANAが開始した「SAFフライトイニシアチブ」のコーポレート・プログラムは、企業の従業員が使ったANAの航空便の飛行距離に応じ、実際にどの程度のCO2削減に貢献したかを算出する。企業は第三者機関の認証を受けたCO2削減の証書が発行され、投資家などに対する情報開示に利用できる。
 2022年度から伊藤忠商事や野村ホールディングス(HD)、運輸総合研究所など4社が参加する。脱炭素の流れが強まるなかで、上場企業は移動でのCO2排出量の情報開示が求められている。東証プライム市場に上場する大手企業などの参加を見込み、業界の枠を超えて参加企業を増やしていく。
 伊藤忠はANAとSAFの輸入調達でも連携している。今後は航空機を利用する立場でもSAFの普及に協力する。サステナビリティ推進部長代行の中村賢司氏は「航空機での出張が再開しつつある中、自社のCO2削減を減らす取り組みの一環として参加を決めた」と話す。
 金融業界やシンクタンクなど、SAFの製造や流通に関わる企業以外も参加する。野村HDは「SAFの普及を進める取り組みに賛同し、参加を決めた」(園部晶子サステナビリティ推進室長)とする。(後略)

7月12日付 日経産業新聞

ANAに限らず、ICAO(国際民間航空機関)に加盟している航空会社は、2020年以降はGHG排出量を増加させないことに合意しており、以下の4つの対策を講じるものとしています。

1.新技術の導入(新型機材等)
2.運行方式の改善
3.代替燃料の活用に向けた取組
4.経済的手法の検討推進

記事にあるANAの取り組みは、3.に当たります。
国際規格として認められているSAFは7種類あり、現在研究開発が続いていますが、やはり課題は「コスト」と「デリバリー」

ANAはその「コスト」を克服するために、スコープ3カテゴリー6「出張」の排出量を削減したいユーザーと協業するということでしょう。

伊藤忠のサスティナビリティ推進部長代行、中村賢司氏の「航空機での出張が再開しつつある中、自社のCO2削減を減らす取り組みの一環として参加を決めた」というコメントが物語っています。

「飛び恥」とも言われるものの、島国の日本としては、飛行機による移動は避けることができません。特に商社のように、海外出張が当たり前のセクターでは切実な問題。

デリバリーに関しても、日本の空港で給油できないとなれば、ANA、JALだけでなく、海外のエアラインも就航することができなくなります。

エアライン、業界の垣根を越えて、この問題に取り組んでもらいたいです。

ただ、ここでふと疑問に思ったのが、SAFによるフライトは「ゼロカウントでよいのだろうか」ということ。

これまで、「カーボンニュートラル○○」はNGですよ、と何度もご案内してきました。SAFも「カーボンニュートラル」でよいのでしょうか。

結果から申しますと、OKです。
決定的な違いは、「クレジットによるオフセット」ではなく「バイオマス由来の直接燃焼」である点です。

GHGプロコトルによると、バイオマスの燃焼による排出量は、スコープに含めず「別途報告」することとしています。ですので、バリューチェーン排出量には含まれないことになります。

有機物性のCO2排出物(例えば、バイオマスの燃焼からのCO2)が報告企業のバリューチェーンで発生する場合には、それは3つのスコープに含めることはせず、公開報告書に含めて別途に報告する必要がある。何らかの GHG除去(例えば、生物学的GHG隔離)がある場合もそれはスコ ープ3に含めず、別途に報告することができる。

スコープ3基準 6.2 境界についての要求条件

「GHGプロトコル事業者排出量算定基準」に従った公表用の GHG 排出報告には、下記の情報を含めなければならない。
(中略)
排出量に関する情報
(中略)
・生物的に固定化された炭素から直接排出されるCO2(バイオマス/生物燃料の燃焼から出るCO2等)についての排出データ(スコープ排出とは別に報告する)。

コーポレート基準 第9章 温室効果ガス排出量の報告

厳密に言うと、SAFを製造するためにCO2を排出することになると思いますので、その分はスコープ3カテゴリー3で算定する必要があります。(再エネで賄えば、これについてもゼロカウントできますが)

ただ、それについては、エアライン(あるいはSAFメーカー)が原単位を公表してくれないと、知りようがありません。CDPの報告に当たっては、全体の排出量の5%に満たなければ「少量排出源」としてカウントしなくても問題ないので、そこまで心配することはないかと。

ということで、海外のエアラインも安心して日本へのフライトを維持してくれるよう、このANAの取り組み、成功してもらいたいものですね。

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