見出し画像

検証と監査・審査を区別しよう(2)

「細かいことを突っ込んで説明する」シリーズ、2回目。
前回は、背景から監査と審査についてご案内しました。
今回は、本丸の「検証」の説明をしていきます。

検証の手順を規定している「JIS Q 14064-3:2023」に、ズバリ「検証」の定義がありますので、見てみましょう。

3.6.2 検証(verification)
過去のデータ及び情報の声明書について,それが実質的に正しく,基準(3.6.10)に適合しているかど うかを判断するために評価するプロセス

3.6.10 基準(criteria)
GHG 声明書(3.4.3)を比較する場合の目安として使われる方針,手順又は要求事項

つまり「データ」が「手順」に従って、正しく計算されているかを評価するのが「検証」なのです。

それでは、GHG排出量の算定に使用するデータは、何があるでしょう。

スコープ1やスコープ2であれば、請求書や領収書が代表的なデータ、エビデンスですね。自社が費用負担していますので、手間はさておき収集はできるはずです。

事業者によっては、場内のタンクに備蓄しておき、都度設備に供給していることがあるかもしれませんね。その場合は、払い出し表や、日報など、在庫量の変化を証明する記録がエビデンスとなります。。

算定手順は、環境省の「温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル」などが代表的かと。この場合は法の要請に基づくものですので、曖昧なところはありません。

ちなみに、GXリーグにおける排出量を報告に当たって、温対法の報告データを使用する場合は、第三者による検証は不要とされます。虚偽報告であれば罰則があるので、「信頼できるデータ」と判断されるのです。

正確なデータと、厳密な手順に従って算定できるので、結果も正確。
ですので、条件が整えば、受審企業は検証機関から「合理的保証」を得ることが可能です。

ところが、スコープ3だとどうでしょう。

上流から下流まで、原料の購買先からお客様、さらにその先の廃棄物事業者などの静脈産業事業者まで、「データ」の提供をお願いする必要があります。

提供してもらえる方が稀なのではないでしょうか。
提供してもらえたとしても、確からしさは推定困難でしょう。

「手順」についても同様です。

GHGプロトコルの「スコープ3基準」が代表的ではありますが、単なるフレームワークです。各社が個別具体的なルールを作成し、それに基づいて算定しているのが実情です。

そのルールについても、例えば、カテゴリー11「販売した製品の使用」などでは、仮定に基づいたシナリオを作成するのが一般的ですが、検証機関がその妥当性を判断するのは困難です。(検証機関が技術専門家を帯同し、助言を求めることがあるかもしれませんが)

真実かつ公正な報告であることを確実にするためには、GHG関連情報が、次の5つの原則を満足する必要があるのです。

「JIS Q 14064-3:2023」の要求事項でもあります。

1. 適切性(Relevance)
2. 完全性(Completeness)
3. 一貫性(Consistency)
4. 精確さ(Accuracy)
5. 透明性(Transparency)

どうでしょうか

スコープ3で使用する「データ」と「手順」について、全てを満たすことが殆ど不可能であることがお分かりになるかと思います。

このため、スコープ3の「検証」では、保証を得ることができたとしても、「限定的保証」が関の山なのです。

他方、「監査」あるいは「審査」はどうでしょうか。

「検証」のように「大本営」がないので、精確な定義づけが難しいのですが、「検証」が「算定結果」を評価するのに対し、「監査」や「審査」は、規格や基準に適合しているか、内部統制が確立されており、真実かつ公正な報告がなされる蓋然性があるかを評価するものと理解しています。

そこで使用される「データ」は、会計監査であれば財務データ、ISO審査であれば、内部監査記録や受入検査記録、校正記録など、自社で作成したデータです。

「手順」は、会計監査であれば、企業会計基準や金融商品取引法など。ISOであれば、品質や環境、労働安全衛生などのマネジメント規格及び社内マニュアルなど。

いずれも、法規法令、国際標準などであり、信頼性を疑われることはありません。このようなエビデンスがあって初めて、「合理的保証」を得ることが可能になるのです。

先に紹介した5つの原則も、全て満足していますよね。
──────────────────
ここまで、「検証」と「監査」「審査」の違いについて見てきましたが、いかがだったでしょうか。

このコラムを通じてお伝えしたいのは、「使い分けろ」ということではありません。(もちろん、他部門からは専門家として見られることになるので、適切に使い分けてもらいたいですが)

それは、「評価対象の質が異なる」「内部統制も評価の対象となる」という点において、「検証」とは大きく異なるということです。

冒頭で述べたように、サスティナビリティ情報は財務情報と一体化して、法定開示化される流れになっています。

ですが、一足飛びに、サスティナビリティ情報が財務情報のような精緻なものになるわけではありません。

流れの中で、悩むことも多いかとおもいますが、それは皆さん同じです。
コツコツと毎年、算定を行い、知見を上げていけばよいのです。
スキルは退化することはありません。

一緒に頑張っていきましょう。
応援しています。

もしよろしければ、是非ともサポートをお願いします! 頂いたサポートは、継続的に皆さんに情報をお届けする活動費に使わせて頂きます。