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カーボン・クレジットへの思い

個人的な感覚ですが、カーボン・クレジット(以降クレジット)という言葉が徐々に市民権を得始めているようで、日本における黎明期から携わっている人間からすると、非常に嬉しく思っています。

noteでは繰り返しお伝えしていますが、環境問題に取り組むうえで、クレジットは間違いなく重要なツールの一つです。

ただ、近年参入している(しようとしている)事業者の動き、コメントに接していると、制度が抱える矛盾や疑問を感じずにはいられません。とりわけ、どのようなプロジェクトがクレジットを生み出すのか、その違いに目を向けると、本当に応援したいクレジットとは何なのかを考えざるを得ません。

クレジットには、大きく分けて「削減回避系(Avoidance)」と「吸収除去系(Removal)」の2種類があることは、皆さんもご承知でしょう。

削減回避系は、その名の通り、排出を削減したり回避したりするもので、たとえば工場における高効率機器の導入や、燃料転換などがこれに当たります。一方、吸収除去系は、森林や海域における吸収や、技術的に大気中からCO₂を直接除去するプロジェクトなどです。

この2つは、削減回避系は「排出量を増やさない」取り組みであるのに対し、吸収除去系は「吸収量を増やす」取り組みであるという点で大きく異なっています。

2050年ネットゼロに向かって、自助努力による削減はマストですが、どうしても削減できない量「残余排出量(Residual emissions)」が残ることは、UNも認めているところ。

ですので、ネットゼロ達成には「中和」することが不可避なわけですが、それに用いることができるのは「吸収除去系」であるとされています。

しかし、それまでの道のりでは、削減回避系も重要な役割を果たします。途上国や資金的に余裕のない中小企業などは、クレジット収益により脱炭素を推進することができるからです。

自社のバリューチェーンを超えた削減に寄与することで、地球全体の排出量削減につながるのです。(BVCM:Beyond Value Chain Mitigationと言います)

この考え方については、SBTiが7月にディスカッションペーパーを出しており、noteで詳しく説明しています。よろしければ、参照下さい。

とはいえ、削減回避系の中には疑問を感じるものもあります。本来、事業者が責任を持って実施すべき取り組みが、クレジット化されているケースがあるのです。

例えば、フロンの適切な処理や、埋立地からのCH₄回収などは、生産者責任ではないでしょうか。方法論があるのだから、こうしたクレジットを創生して、利益を得ることが悪いとは言いません。ただ、これが気候変動への真の貢献と言えるのか、自分自身に問い直してしまいます。

一方、吸収除去系のプロジェクトは、その多くが地域社会や自然環境に直接的な利益をもたらします。例えば、森林が再生されることで、炭素が吸収されるだけでなく、生物多様性が保たれたり、水源が守られたりします。

こうしたプロジェクトは、排出量を減らすという環境的な意義だけでなく、地域住民の生活にも良い影響を与えることが多いのです。

私が応援したいクレジットは、このように環境と社会の両方に価値をもたらすもの、「コベネフィット」を生み出すものです。気候変動に寄与することはもちろんですが、その過程で地域の人々の暮らしが良くなる、あるいは自然が守られるような取り組み。それがクレジット化されるなら、私はそれを積極的に支持したいと思います。

もちろん、ビジネスとしてのクレジットにも意義があります。クレジットが市場に出回ることで、気候変動対策が経済的な活動と結びつき、広がりを持つのは良いことです。

ただ、すべてが同じ価値を持つわけではありません。どのようなプロジェクトが生み出したクレジットなのか。その背景や影響を考えた上で、選択することが求められるのではないでしょうか。

クレジットは、未来への投資。どのクレジットを購入し、どのプロジェクトを応援するかは、私たちがどんな未来を望むのかを表す行動でもあります。私は、純粋に吸収を促し、温暖化の抑制に役立ち、さらに地域社会の利益にもつながるプロジェクトを応援したい。その思いを改めて感じています。

選ぶという行為には責任が伴います。だからこそ、何を支持するのかを考えることが、今の私たちに求められているのだと思います。クレジットの未来が、私たちの選択によってより良いものになるよう願っています。

ということで、個人的な思いをつらづらと書いてしまいました。
皆さんの、ご意見、ご感想をお聞かせ頂けると嬉しいです。

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園田隆克@GHG削減サポーター
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