ESRSとGRIとInteroperability
3月1日に、SBBJ主催で、EFRAGとの公開セミナーが行われました。
3月7日に開催された日本版S1・S2のセミナーの影にひっそりと隠れる形になってしまった感がありますが、こちらも劣らず内容盛り沢山でした。
特に、後半の対談では、川西委員長が企業の忌憚ない質問を投げかけ、EFRAGでESRSの開発を担当した主要メンバーが、バックグラウンドや自身の経験を踏まえて、具体的に回答していました。
また、前半の川西委員長のESRSの理解や、SRB議長のEFRAGの位置づけ、SR-TEG議長のESRSの内容説明など盛り沢山。
YouTubeで全セクション公開されていますので、是非とも視聴されてみて下さい。残念ながら、レジュメは川西委員長のもののみですが、YouTubeでは字幕表示ができますので、各メンバーのレジュメを参照することで、十分理解することができると思います。
たくさんの「Takeaways」があったのですが、何よりもまずお届けしたいのが、川西委員長のセクションでの発言です。
EFRAG、ISSB、GRIなどの、いわゆる「Standard Setter」における昨今のホットなキーワードは「Interoperability(相互運用可能性)」であることは、皆さんもご承知のことと思います。
私も、繰り返しご案内してきました。
SSBJも当然のように、IFRS財団(ISSB)はもちろん、GRIなどとも連携して、日本版S1・S2の開発に当たっています。その説明の中で出てきたのが、上記の発言でした。
つまり、GRIに準拠した報告を行っている企業は、そのまま報告内容をEU当局へ提出することで足りると、公言しているのです。ここまで言っていいのか?と思いましたが、EFRAGとの対談の中で、かなりの程度内容が見えてきました。
まず、かなりの程度真実だと言うことです。
3名が異口同音で「GRI採用企業はよいスタート位置にいる」と言及。
GRIとESRSの違いは20%だというのです。
これは安心ですね。
ただ、GRIとESRSはほとんどオーバーラップするものの、materialityについて、次のような注意喚起をしていました。
企業が環境から受ける影響については、相違があるということ。
また、税金に関する報告事項も差があるようですので、宛名書きだけ変えるだけでOKとはならず、報告の際には再検証が必須ということですね。
なお、環境に影響を与えるインパクトの同定(impact materiality)に関しては、両者は極めて同じと説明がありました。
ちなみに、名称は異なってます。
ESRS:material impacts
GRI:significant impacts
Interoperabilityについては、さらに説明が続きました。
提出企業(preparers)にとって過大な負担とならないよう、相当の注意を払っている旨が伝わってきました。
その一つが、「自社がどのセクターに属するか?」問題。
EUにおけるセクターの定義と、ISSBの元となっているSASB基準におけるセクターの定義が異なっており、また、同じ名称でも異なる場合があるとか。SASBが77である一方、ESRSが40ですので、確かに悩みそうですよね。
でも、ご安心下さい。
EFRAGは、ISSBとのreconciliation table、対照表を作っているのです。
また、SASBは現在「国際適用可能性(International applicability)向上プロジェクト」推進中ですので、EFRSGはそちらにも期待を示していました。
さて、2024年1月に発効したESRSは「sector agnostic standard」
つまり、クロスセクター向けESRS。
現在、セクター別ESRS「sector specific standard」を」開発中です。
こちらも、重点を置いて説明されました。
また、案内はありませんでしたが、上場中小企業(Listed SMEs)向け、自主的に報告する中小企業(Voluntary SMEs)向け及びEU域外企業向けのESRSも開発しています。
これらのESRSシリーズも、全て、提出企業の負荷を減らすための施策です。
報告することが目的ではなく、サスティナブルな社会を実現するのが目的であれば、幅広い企業がこの枠組みに入り、具体的な活動を行うことが肝要。
そのためには、どの法域、どのような事業規模の企業でも、対応できる施策であることが必要だと、認識しているが故でしょう。
こと環境に関しては、欧州が「ブリュッセル効果」を発揮して、世界的な影響力を及ぼすことが顕著ですが、最近は「一緒にうまくやっていこう」という一面が、少しだけ見えてきたようにも思います。
日本版S1・S2はまだ任意開示ですが、CSRDは法定開示。
強制度合いは異なるものの、両者からは目が離せません。
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