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J-クレジットの生い立ち

はっきり言って、およそ殆どの方には関係のない、知ってても意味のないことかもしれませんが、もしかして、知っていたら「なるほどな」と思うことがあるかもしれない、そんなことを書き留めておきたいと思います。

もともとは、「国内クレジット」と「J-VER」という別々の制度でした。

全く同時期に創設され、目的は違えど、CO2量を算定して、それを売買できる制度ですので、混乱した人が多かったと思います。(そもそも、CO2って?という時代でした)

個人的には「また、経産省と環境省がやり合ってるよ」って思ってました。

国内クレジットとJ-VERの比較

私は、国内クレジットの立ち上げ当初から携わっており、方法論や検証方法、検証人資格などを検討するお手伝いをしていました。ただ、推進していく中で明らかになったのは、「やっぱり、補助金ありきの制度なんだな」ということ。

1.削減計画を立てて申請、認証委員会の審査を経て登録
2.実績確認を行って報告書を提出、認証委員会の審査を経て認証量発行

1と2の両ステップとも、回数の制限はありますが補助金で賄えました。
計画を立てるのは「ソフト支援事業」と呼ばれ、削減事業で導入される機器のメーカーやESCO事業者、エネマネのメーカーなどが率先して実施していました。営業ツールみたいなものでしたから。

ある地域のガス会社は、都市ガスのお客様を増やすために、クリーニング店など燃料を多く消費する事業者へ営業攻勢をかけていたり。重油から燃転するだけでクレジットが創出できますから、美味しいものです。

インバーター式の蛍光灯への交換も多かったです。(LEDはまだまだ、とても使えるものはありませんでした)こちらも、交換するだけで着実に使用電力量が減少しますので、CO2量は削減できます。計画を立てるのは容易です。

ただ、そのような由来のクレジットって、あまりイメージがよろしくない。
なので、買いたたかれます。(国内クレジットは売り手と買い手がセットで申請が義務でしたので、売れないことはありませんが)

他方、J-VERは、削減系もありますが、殆どが森林吸収です。適切な施業を実施することにより、森林が光合成によって吸収してくれたCO2量を認証するものです。このクレジットの販売益は、森を守るために使われます。(厳密には、難しいのですが)購入者は、居ながらにして環境保全に貢献できます。

ですので、イメージが非常によろしい。

なので、国内クレジットはよくて1,000円、普通は数百円、時には、売れないので寄付ということもありました。

他方、J-VERは安くて数千円、普通は10,000円、高くて15,000円くらい。
特に、震災後は「東北を応援しよう」ということで、東北地域のクレジットは軒並み買いが集まりました。売り切れたクレジットもあったようです。

他には、佐渡市の「トキの森クレジット」も人気でした。2020年名古屋で開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)のオフセットに使用されたと記憶しています。(間違っていたら、すみません)

このようにJ-VERは生まれた森が明確なので、購入する側も安心なのです。

しかし、日本は京都議定書第二約束期間に参加しない選択をしました。
国内クレジットは、京都議定書目標達成計画(目達計画)のために生まれた制度です。根拠法がなくなってしまいました。

J-クレジット制度事務局ウェブサイトより

しかし、自主的な削減は必須。ということで「地球温暖化対策計画」に衣替えする際に、統合されてできたのが「J-クレジット」というわけです。

全く性格の異なる2つの制度が、同じ屋根の下に入ってしまいました。
見えないところでの経産省と環境省の縄張り争いもあったり、予算も絞られたこともあって補助を受けられる回数も減ったり、震災でそれどころではなくなったり…

事業見直しや距離を置きだした、検証機関やプロバイダー、ソフト支援事業者もあったように思います。仕事の依頼も減少していきました。

それでも、森林吸収系は、「森を応援する」という明確な意味がありましたし、在庫も豊富でしたので、積極的な自治体は販売数を増やす一方、「補助金がもらえたから」という理由で実施した自治体はフェードアウトする、という二極化を辿りました。

この頃私は、カルネコ事業部(当時はカルビーの一事業部、現在はスピンアウトして、カルネコ株式会社)と協業して、J-VERを活用した、地域活性化のお手伝いをしておりました。

さて、そんな「冬の時代」を過ごした、国内におけるクレジット制度。
ですが、潮目が変わってきました。

RE100 SBTi  CDP です。

ボランタリーだった排出量削減が、ある意味法的拘束力を持ち出したのです。もう、これについては、皆さん納得でしょう。

J-クレジットの削減系クレジットも、再エネ系か否かで、さらに価格が二極化しているのも、よくご存知のはず。

今後は、先のnoteで紹介したように、世界的に排出量取引市場が普及し始めるでしょう。SBTiのNET-ZEROを達成するためには、中和クレジットが必要です。炭素国境調整メカニズム(CBAM)の動向も気になります。

クレジットの荒波を乗りこなすお手伝いをして行きたいと思っています。
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