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パリ協定 第6条クレジットの現状(2)

AlliedOffsetsのレポートについて、お届けしています。

前回は、こちらです。

さて、第6条クレジットに関して注目すべき動きがあったのは、ルワンダ、ガイアナ、タンザニアの3カ国でした。

ルワンダは、GSとVerraによって認証されたクレジットに対して最初の認可書(LOA)を発行。 両者とも、前回ご案内したように、創出が容易な「クックストーブ・プロジェクト」です。

ちなみに、LOAとは、ホスト国がその国内で行われるカーボンオフセットプロジェクトを公式に承認し、そのプロジェクトが国の法律や国際的な環境協定に適合していることを認めるものです。

つまり、ルワンダで今後実施される、Verra及びGSのクックストーブ・プロジェクトによるクレジットは、政府から同様にLOA発行を受けることができ、国内で創生・流通できることになると考えられます。

LOAの発行を受けて実施されたプロジェクトのクレジットであれば、「高品質なクレジット」と見なされるため、ホスト国がCAを承認すれば、「第6条クレジット」となる道筋がつく、可能性が高まると言えると思います。

さらに、当該プロジェクトのデベロッパーである、デルアグア・グループは、 シエラレオネ、 リベリア、ガンビアの各政府と覚書(MoU)を締結し、新たに3つのパートナーシップを結んだといいますから、今後の案件増加が期待できそうです。

ガイアナはARTの「TREESクレジット」で、2024年1月1日に開始された CORSIAの第一フェーズの適格要件を満たすそうです。CORSIAで使用できるクレジット(CORSIA Eligible Emissions Units)はまだ限られていることから、今後需要が高まっていくと予想されています。

ARTは、REDD+プロジェクトに対して、714万のクレジットを発行。 ガイアナ政府はその後、このクレジットをCORSIAを含むパリ協定第6条に基づく様々なコンプライアンスや自主的な目的に使用することを承認したそうなので、自国内の脱炭素にうまく利用し始めていると言えますね。

CORSIAは、パイロットフェーズ(2021~2023)、第1フェーズ(2024~2026)、第2フェーズ(2027~2035)からなり、第2フェーズからは、参加が義務化されます)

タンザニアについては、2024年4月、第6条に基づくCAのための史上初の認可を発行したとのこと。 対象は、こちらもまた「クックストーブ・プロジェクト」でした。

社会的企業であるアップエナジー社に対し、42万5千台の調理用コンロの配布を計画するエネルギー効率化プロジェクトからのクレジットに対する最初の認可書を確保したとされます。

このように、先進的(野心的?)な取り組みが見られる一方で、クレジットの供給が限定的なのは、「政府がプロジェクトの認可に慎重になっていることが主な原因である」というのが、AlliedOffsetsの見立てです。

CDMは消える運命なので無視するとして、発行されたクレジット数(Issued credits)に対し、各国の承認を得て発行されたクレジット数(Art 6 authorized credits)の少なさを見ると一目瞭然。

AlliedOffsetsは、要因は次の4点に絞られると分析しています。

1.VCMの「高品質」「完全性」の定義が明確でないことへの懸念
2.MRVやトラッキングのためのインフラ未成熟
3.NDCを満たすための条件が不明確
4.COPでの第6条に関連する決定の採択の遅れ

とは言え、状況は、京都議定書のときのCDMと同じ。

CDM自体は、1997年のCOP3で決まっていたものの、具体的な実施方法と規則を定めるマラケシュアコードは、2001年の第7回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP7)でようやく採択されました。

この間は、まさしく上記のような状態に陥っていて、一部の国以外、CDMプロジェクトに乗り出そうという希有な国はありませんでした。

なので、「今から」ではあるのですが、COP27、COP28において決定されたのは、実施に当たって最低限の事項のみで、細部は曖昧な点が多く、予見可能性があるとは言えないような状態。

先日開催されたボン気候変動会議 では、4.の改善が期待されたものの、限られた進展しか見られなかったとのこと。

4つの交渉と5つのサイドイベントが開催されたにもかかわらず、会議ではパリ協定の下での国際炭素クレジット市場の運用面に関するコンセンサスを得ることができなかったとのこと。全くもって、明確性の欠如は改善されていないのですね。

今年、2024年11月のCOP29を目前にした現段階での未解決の懸念事項は、こちらにまとめられています。

じゃぁ、どうすればよいかというと、以下の7点を明記することで、認可に関する明確性を高めることができる、と整理されていました。

1.認可を必要とする活動
2.承認に必要な最小限のスコープとフォーマット
3.認可のタイミングと手順
4.承認申請の審査基準
5.認可を修正または取り消すことができる状況
6.CAまたは取消しが実施される条件
7.NDC)またはその他の国際的に合意された緩和計画に向けた、ITMOの承認プロセス
8.データインフラ情報へのアクセスを容易にすること

課題認識と、その解決策を示した形の、AlliedOffsetsのレポート。
ただ、分かっちゃいるけど、というのが現実。
国益がぶつかる交渉のため、文字通り「言うは易し」

気が付けば、今年の、COP29 バクー会議まで5ヶ月あまり。
COP28 と同様、産油国での開催となりましたが、交渉官の同窓会・お祭りに終始せず、具体的な成果が得られるのか、見守っていたいと思います。

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