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F1とクレジットの類似性

極めて個人的な話で恐縮ですが、F1が大好きです。

「FIAフォーミュラ1世界選手権シリーズ」という4輪における世界最高峰の自動車レースで、世界各地を転戦、今年は23戦予定されています。(第6戦 エミリア・ロマーニャGPが豪雨でキャンセルとなったので、以降全戦行われても最大22戦とはなりますが)

で、その第10戦 、7月2日に決勝が行われたオーストリアGPで、物議を醸した事案がありました。

多数のドライバーが、「トラックリミット違反」をとられ、ペナルティを受けたのです。ひと言で言うと、「コースをはみ出して走行した」という違反なのですが、その裁定が厳しすぎるという批判です。

「ルールで決まってるから、当たり前でしょ」と言われれば、確かにそうなのですが…..

71周のレースで、10チーム計20台のマシンで競うので、延べ周回数は、リタイヤが無く、全社完走したとして、1,420ラップある訳です。

その中で、違反が発生した可能性のあるラップは、1,200以上。
実際に、違反を取られ、ラップタイム抹消、ペナルティを受けた数は83件。

ちなみに、「はみ出した」とされるコーナーは、最終コーナー(ターン10)とその一つ前のコーナー(ターン9)に集中しており、それぞれ、36件、28件とのことです。

最終コーナーの先にはストレートがあるので、いかにスピードを乗せることができるかが鍵であり、ドライバーは、立ち上がり重視で、ギリギリを狙っていくのです。

ただ、全ラップの約85%で違反があったかもしれないところ、83件しか違反と認定されなかったということは、違反を取られているドライバーと取られていないドライバーが安定していないということであり、それが不満となっていたのです。

もちろん、「明確」なルールはありました。

コースには白線があり、その外側に縁石があり、その外側に路面の摩擦係数の異なる舗装やグラベル(砂利)などがあるのですが(サーキット、コーナーによって異なりますが)、「白線から4輪とも脱輪したらトラックリミット違反」とレース前に、チームへ通達されていました。

今回は「厳密に取る」と宣言されており、多角度からの映像をリモートで確認し、スチュワードが最終判断したとのことですが、それでも、「怪しい」けども「違反」とされないグレーゾーンがかなりの数に上ったのです。

長年レースディレクターを務めてきたマイケル・マシは、コースによって柔軟に対応してきたところ、退任後は2人の交代制となり、「厳格化」が進んだとも言われています。

ペナルティは5秒の加算ですので、ドライバーとしてはたまったものではありません。勢い、「○○がまたはみ出したよ」などと自警団になったり、「アイツがよくて何で自分がダメなんだ」「あれが許されるなら、自分だって」などなどと、どこかで聞いたようなことが頻発してしまいました。

トドメの一撃が、レース後のアストンマーティンによる「ペナルティが適切に科されていないドライバーがいる」という抗議。この抗議はすぐに認められ、再検証の結果、さまざまな追加のペナルティが認定され、最終結果は少なからず変化してしまいました。

こうなると、ドライバーは、ルールを守るのが至上命令となり、コンサバティブなレースしかできなくなってしまうでしょう。

レース中のバトルも激減、ガチンコ勝負のエキサイティングなレースなど期待できなくなるのは必定。観る側も走る側も、楽しくない、つまらない「世界最高峰の自動車レース」となってしまうかもしれません。


「これってクレジットの世界と一緒だなぁ」とつくづく感じました。

厳しいルールを作成して、厳格に運用するのは、「コンプライアンスクレジット」かなと。取り消しや、認証量カットなどのペナルティーがあるので、冒険はできません。「確実」にクレジットが得られるプロジェクトしか、実行されなくなってしまいます。

事実、京都議定書の下で実施されたCDMにおいては、比較的安価に大量のCERを生成できるという理由で、初期のプロジェクトの一部は「フロンガスの破壊プロジェクト」に集中していました。

しかし、これは数々の問題を引き起こしましたが、ここでは詳細には立ち入りません。ひと言で言うと、多様性に欠けた保守的な、それでいて、認証量は多いクレジットが席巻することとなってしまいました。

他方、明確なルールはあるものの、柔軟に運用するのが「ボランタリークレジット」でしょうか。スキームオーナーも多数存在しますし、コベネフィットを生み出すような方法論も、多数生み出されています。

事業者のノウハウが活かされ、多様なプロジェクトが見込めるのです。

もちろん、昨今の「ウォッシュ」はその「柔軟さ」に付け込んだ、一部の事業者によるものであるのは、否定できない事実です。

だからこそ、ICVCMのCCPや、VCMIのCoPなどの、自主的な共通ルールが生み出されようとしている訳です。

厳しすぎるという意見もありますが、「高品質なクレジット」を謳うのであれば、避けては通れない道でしょう。

なお、鋭意推進中の「ブルーカーボン」では、信頼性を確実にしつつも、多様性を担保できるような、仕組みづくりも併せて行って行きたいと考えています。

国内で試行実施中の「Jブルークレジット」では、現在、クレジット申請を目指している案件については、全サイト、現地訪問を行い、プロジェクト実施者をインタビューし、ウォッシュの波にさらされないよう、慎重に慎重を重ねています。

ボランタリーなクレジットだからこそ、ボランタリーにルールを遵守して、多様なコベネフィットを生み出すプロジェクトを、多数創出していってもらいたいものです。
審議状況を、見守っていたいと思います。

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