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ボラクレ市場の現状 格付視点で見てみよう(2)

Calyx Globalによる、市場動向データと500を超えるプロジェクトに対する自社のレーティングを組み合わせてVCM(Voluntary Credit Market ボラクレ市場)を分析したレポート。

Carbon Creditの、サマリー記事を参照して、内容を簡単に紹介したいます。

前回は、クレジットのレーティング毎の年別発行量推移についての考察まで行いました。

今回は、今後のクレジットの質(レーティング)の変化について説明します。
クレジットは、「玉石混交」どころか、依然として「石」だけの状況であることが、前回ご案内した内容でした。

クレジット動向は何度もお届けしているますが、あくまでも「これから」に着目しており「いま」は疎かになっていたかもしれません。反省点ですね。

スタンダードセッターは、ウォッシュを駆逐するべく、ストック(既に発行しているクレジット)対策と新規クレジット対策(方法論の見直し)に奔走していますが、レポートは「VCMの質が向上する方向にシフトしているにもかかわらず、明確で一貫したトレンドはまだ現れていない」とバッサリ。

ACRやCAR、GS、VCS等の主要ボラクレに新規に登録されたクレジットの75%以上は、森林・土地セクターと家計・地域セクターからのものであるところ、Calyx Globalの評価システムでは、結果はまちまち。

その理由の一つとして、一部の低品質クレジットは、先渡契約に縛られているものが多いことを挙げています。恐らく、ウォッシュ批判が高まる以前に着手した案件で、青田買いしていたのではないでしょうか。

低品質クレジットは、安い価格で大量に仕込むものなので、いよいよという状況にならないと、ステークホルダーの手前、放棄できないのでは?(レピュテーションリスクと損失リスクでは、比較する土俵が異なるとは思いますが)

このような背景の下、現状を見る限り、低品質クレジットがシステムから完全に淘汰されるには時間がかかると分析しています。


レポートは、格付とは別の視点も提示していました。
それは「クレジット創生とSDGsへのインパクト」です。

つまり「BVCMはSDGs達成に寄与するのか」というもの。
「両者はトレードオフの関係なのか」という論点。

この記事を見て、「そのような見方もあるのか」とは思っていましたが、レポートを読んで、改めて考えることになりました。

レポートでは、次のように述べています。

理想的なクレジットは、GHG排出量削減効果とSDGs達成に対する大きな寄与両方を併せ持つべきだという意見もあるが、Calyx Globalの調査結果によれば、そのようなクレジットを見つけることは現在困難である。現在の市場では、トレードオフの関係にあるようだ。

現状ではトレードオフの関係にあることは認めた上で、REDD+やクッキングストーブ・プロジェクトなど、SDGsに最も高い影響をもたらす多くのプロジェクトが、過剰なクレジット付けという問題を抱えているためであると説明しています。

つまり、前回お伝えしたように、Cランクのクレジットが多い傾向にある「クックストーブ導入」がボラクレ全体の大部分を占めていることが要因であるということなので、逆に言うと、これらのプロジェクトが「高品質」になれば良い訳です。

その対策として、ゴールド・スタンダードやVerraが、プロジェクトごとに少なくとも3つのSDGsを報告、監視、検証するという要件を設けていることを評価、将来的にトレードオフの関係を断ち切ることが可能になるだろうと、今後に期待している様子がうかがえます。

森林・土地セクターは、改善された森林管理(IFM)と植林・森林再生(AR)プロジェクトが主流であり、その有効性と完全性を高めることを目的とした方法論の変更が行われている

家庭・コミュニティ部門では、調理ストーブ・プロジェクトが新規登録の大半を占めている。また、その質と影響を改善するために、調理ストーブの方法論を改良する取り組みが進行中である。

以上の分析により、Calyx Globalは「VCMは進化を続け、バージョン2.0に向かっている」と結論づけています。

バージョン1.0は「玉石混交状態のVCM」、バージョン2.0は「高品質なクレジットのみからなるVCM」といったところでしょう。

そして、「高品質であるか否かは格付により明らかになることで、VCMバージョン2.0の健全性が担保される」。だから「格付プラットフォームであるCalyx Globalはその役割を果たしていきます」ということが伝えたいメッセージだった、というオチだったのでしょう(笑)


ということで、レポートを参照しながら、格付視点で見たVCMの現状をレビューしてみましたが、いかがだったでしょうか。

気候変動対策では、バックキャストで語られることが多いとは思いますが、現在及び過去のパスの先に未来があることも事実。

これまで積み上げてきた知見も十二分に活かしながら、2050年ネットゼロを達成すべく、選択肢を狭めることなく、活動していきたいものです。

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