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算定と検証の実際

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躓きやすい算定ルールや検証の現場の話を紹介します。
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JIS Q14064-1 どう変わったの?(その2)

GHGに関するJISの「ファミリー規格」 その中で、算定に関わる3つの規格「JIS Q14064-1」「JIS Q14064-2」「JIS Q14064-3」が、ISO規格の改訂を受けて「ようやく」改訂されました。 前回から、企業のサスティナビリティ担当として算定に携わっている方を前提に、「JIS Q14064−1(組織の排出量)」の変更点を説明しています。 殆ど影響が無いと思われるところ、1ヵ所だけ懸念されるところがありますので、紹介しておこうと思います。それは、次の項

検証と監査・審査を区別しよう(2)

「細かいことを突っ込んで説明する」シリーズ、2回目。 前回は、背景から監査と審査についてご案内しました。 今回は、本丸の「検証」の説明をしていきます。 検証の手順を規定している「JIS Q 14064-3:2023」に、ズバリ「検証」の定義がありますので、見てみましょう。 つまり「データ」が「手順」に従って、正しく計算されているかを評価するのが「検証」なのです。 それでは、GHG排出量の算定に使用するデータは、何があるでしょう。 スコープ1やスコープ2であれば、請求書

検証と監査・審査を区別しよう(1)

2022年4月4日には、東京証券取引所(JPX)が、それまでの、一部、二部、マザーズ及びJASDAQという4区分から、プライム、スタンダード及びグロースという3区分に改編したことは、よくご存知かと思います。 プライム上場企業は、上場基準として、「ガバナンス・コード(一段高い水準の内容を含む)全原則の適用」が求められました。 上場基準の「ガバナンス」にある「ガバナンス・コード(一段高い水準の内容を含む)全原則の適用」というのが、分かりにくいですね。 つまり、「一段高い水準

各国CPにおけるクレジットの扱いについて(1)

先日、世界銀行がリリースした「State and Trends of Carbon Pricing 2024」によると、全世界において、75の炭素税及び排出権取引(ETS)が実運用されており、過去12ヶ月で2国・地域増加しているそうです。 日本では「地球温暖化対策税」が相当しますが、燃料の供給段階で課税されるため、直截的には燃料を供給する事業者が納税義務を負います。 最終的なエンドユーザーには、燃料価格に税が転嫁される形になるのですが、過程が不明瞭ですし、転嫁できていなか

JIS Q14064-1 どう変わったの?(その1)

GHGに関するJISは複数存在します。 「ファミリー規格」とくくられますが、それぞれの関係については、このように整理されています。(それぞれの規格に同じ図が掲載されています) その中でも、算定に関わるISOは、通称「64シリーズ」と呼ばれる3規格。 検証に関わるISOは、ISO14065及び14066が代表的な規格です。 企業のサスティナビリティ担当の方が多くお越し頂いていると思いますので、検証を受ける側についてご案内していこうと思います。また、製品のライフサイクル排出量

SHK制度 「排出係数」にご用心

皆さん馴染み深い「排出係数」 GHG排出量算定において、スコープ3については、無償で利用できる環境省のDBか、IDEAのような有償のDBか、はたまた、自社あるいは業界団体で独自に算出した係数か、などなど悩みは尽きませんよね。 さらに、粒度を上げようと思うと、サプライヤーから一次データを取得したいところ、第三者検証を受審しようとすると、エビデンスの確からしさの確認の容易さから、敢えて、汎用DBを採用せざるを得なかったり。 検証の場面でも悩ましいところではあり、お互いの落と

サステナ担当悩みどころ(2 )

サス担の方々が、日々の実務の中で直面するお悩み事、様々ありますよね。 前回単発で書いたところ、また、色々と質問を受けました。 なので、時折ご案内していこうと思います。 2回目の今回は、「検証を受けるときのデータ」についてです。 SSBJが日本版S1・S2の確定基準を今年度末までに公表することに加え、金融庁が、有価証券報告書において、財務情報と併せてサスティナビリティ関連情報についても開示義務化を目指しているなど、開示周りが俄然盛り上がっているのは、ご案内の通り。 自主開

マネジメントシステム規格「気候変動への追補版」発行

サス担の方の中には、ISO14001(JIS Q 14001:環境マネジメントシステム )の事務局をされている方も多いのではないのでしょうか。 ISO9001(品質)やISO27001(情報セキュリティ)、ISO45001(労働安全衛生)、ISO22000(食品安全)など、他のマネジメントシステム規格(MSS)も担当されている方もいらっしゃるかも。 これら一連の既存及び新規のMSSに影響を及ぼす追補版(Amendments)が、ISOより2024年2月23日に、一斉に発行

追加性(Additionality)を理解しよう

皆さん、「追加性(Additionality)」という用語はご存知ですか? J-クレジットの実施規定において「プロジェクトが満たすべき要件」の一つとして挙げられていますので、クレジットに携わったことのある方なら、当たり前の概念ですよね。 何も国内に限ったものではなく、国際的な概念であり、ボランタリーなGHG排出削減プログラムを推進する非営利団体のICROA(International Carbon Reduction & offset Alliance)は、認証可能なクレ

クレジットと証書の違いを押さえておこう(3)

これまで、2回に亘って、「クレジットと証書の違い」による、取り扱いの相違についてご案内してきました。 最終回は、温対法における報告方法及び証書の購入方法について、簡単に説明しておきたいと思います。 SHK制度で想定している証書は、非化石証書、グリーンエネルギーCO2削減相当量(グリーン電力証書及びグリーン熱証書)です。 温対法の報告では、「第5表の2」に国内認証排出削減量にかかる情報を記入します。グリーンエネルギーCO2削減相当量の例がこちら。 ただ、省エネ法に基づく

SSBJオープンセミナー(1)

3月7日に開催されたSSBJのオープンセミナー、参加してきました。 3月末に、日本版S1・S2の公開草案発表を控え注目が集まっていたことに加え、リアルのみの開催だったこともあり、300人の枠はあっという間に埋まったとか。後日アーカイブ配信を予定とのことですが、やはり、いち早く情報を入したいですよね。 これについては、冒頭の川西SSBJ委員長の趣旨説明で「人数を読み違えた」と謝罪されていました。いずれにせよ、これから毎年、この時期に開催されるとのこと。来年は、確定基準の公開

クレジットと証書の違いを押さえておこう(2)

前回は、カーボン・クレジットと証書違いの、根本的なところをご案内しました。「まずは違うと言うことを知っておいて下さいね」と。 1回目はこちらです。 ただ、理屈ではそうだと思うのですが、個人的には、「高品質なクレジット」であれば、積極的に購入してほしいと思っています。 というのも、バリューチェーン内であれば、製品開発や購買行動、取引先へのエンゲージメント等を通じて、全体の排出削減を図ることができます。 しかしながら、バリューチェーン外では影響力を及ぼすことができないとこ

審査?検証?どうちがうの?

審査(Audit)と検証(Verification)に違いを認識して使い分けている人は、どれくらいいるのでしょうか。ISOの方が歴史がないため「審査」の方が馴染みがあり、GHG排出量においても、同じように使っている人が大半だと思います。 質問されることも多くなってきましたので、簡単に説明しておきますね。 最初に、ISOは「審査」であり、GHG排出量は「検証」と称呼することを抑えておいて下さい。 区別・整理の仕方は様々ですが、個人的には以下のように考えています。 ちがい 

サステナ担当悩みどころ(1)

算定は毎年行って行きますので、否が応でもスキルは向上していきます。 なので、疑問質問といった悩みどころは減っていくかと思われるところ、実は逆に増えてしまう、といったことを経験している方も多いのでは? というのも、当初は言葉の意味すら分からず、算定ルールも分からず、使用するデータが何か、社内のどこにあるかも分からず、といった「何が分からないか分からない」状態から始まります。 以前からサステナ担当であれば、GHG排出量の算定に限って学んでいけばよいのですが、全くの他部署から配