2024.3.30 『私のカレーを食べてください』幸村しゅう

強く生きるために、目に炎を宿らせることは簡単ではない。そのスイッチは誰にでもあるが、押すためにはかなりの勇気や活力が必要だからだ。
主人公の成子は、どんな困難に晒されても人に裏切られても、懸命に、直向きに自分ができることに向き合っていて、その気持ちに胸が打たれた。

成子は良くも悪くも人をしっかりと信じられる力があり、育った環境も手伝って少し控えめな性格をしている。しかしその心の奥底には『美味しいカレーを食べて欲しい』という常に相手を思った確かで優しい炎があったに違いない。

幼き頃に美味しいと感じた味は大人になっても忘れられない。成子も同じように、担任の先生が振る舞ってくれたカレーの味を求めて自ら調理に明け暮れていくうち、隠れた名店「麝香猫」にたどり着く。ここでの店長との出会いから切り開かれた彼女の未来は、順風満帆ではなく辛いほどの困難が重なる。そんな展開でもめげずに前を向こうとする彼女の姿勢はどこまでもまっすぐで、読みながら心が震えた。

どんな時でも、一生懸命な人には光が届くのだろう。改めてそう感じることができた。自分のために、よりも誰かのために。手が届く範囲を照らしたい。その範囲が徐々に広がってゆき、いつしか多くの人の笑顔になる…そんな理想が美しく感じた。
懸命が故に見失うこともあろうとも、大切なことは変わらない。誰でも美味しいご飯が食べたいのは間違いないと思うし、そこに対してまっすぐに力を注げるのは強いと思う。


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