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3Dプリンター始めたいけど…という方へ

3Dプリンターで何かを出力したいと思った時、当たり前のことですが3Dモデルデータが必要です。

「3Dプリンターで印刷可能なデータ」でウェブを検索すると様々なデータは見つかりますが、そもそも「3Dプリンターで出力したい」と思っているのは自分の望むものなわけですから、都合よくぴったりのデータが見つかることはまずありません。よってデータは自分で作る必要があるわけですが、そのためには3Dモデルを作るソフトウェアの使い方を学ぶ必要があります。そのためのソフトウェアは無料のものから有料のものまでさまざまありますが、まずもって「コンピュータグラフィクス(3D-CG)」の知識がないと「3D-CGわからない」+「ソフトの使い方わからない」のダブルパンチになって途方に暮れることになってしまします。この記事はまず「3D-CGわからない」をどうにかしたい時の参考になればということで書いています。

広範囲に「CG」というとイラストなど絵的なものもコンピュータを使って描けば「CG」というわけですが、とりあえず今は「3DのCG」を前提としてそのあたりを記事の中心に置いています。何にせよ基本的な意味合いは同じかと思うので、広い意味で読んでいただいてもよいかと思います。


何を勉強すればいいの?

実際のところ勉強しておいて損になるものはほとんどありません。あなたが学生さんなら、今は勉強だけしていればいいという素晴らしく恵まれた環境なので、出来る限り勉強してください。勉強しているときは「こんなもの何の役にたつのかわからない」と思いがちで、私もそう思っていましたが、歳をかさねて思うのは「創造する」ということは「なんだかわからないものを繋げてみたらすごいものができた」ということなんじゃないかと思います。自分から出てくるものの質や量は、自分が取り込んだものの量に比例する、これは割と真理なんじゃないかと思います。

社会人の方は今の仕事をしている上に勉強する時間を取るのはなかなかハードルが高いですが、全部理解してからでなければ始められないなどということはないので、必要そうなところを随時取り込んでいくのがおすすめです。

英語

さて、一般的な話は置いておくとしても、とにかく必要なのは「英語」です。近年は日本語で3DCG関係の書籍やウェブサイトがたくさんありますから、昔より日本語だけで見つかる情報量は増えました。しかしながら、一次情報は圧倒的に英語のことが多く、英語を避けていると、情報の検索に壁と遅れができてしまい、もったいないです。英語での調べ物をためらわない、という心構えが必要です。

ただ、どの程度の英語が必要かというと、高校生レベルの英語があれば十分です。マニュアルや論文などの英語は基本的にはお行儀の良い文章で書かれているので、知らない単語がでてきたら調べる程度で問題ないですし、最近は機械翻訳もかなりの精度で日本語にしてくれますので、必要な情報を英語で探すハードルはそんなに高くはないでしょう。ただし、機械翻訳などで出てきた日本語の文章を読んで終わりにしてしまうともったいないです。必ず元の英語の文章に戻って、わからなかった元の英語の文章を読み返してください。そのうち読めなかった文が少しずつ減っていくと思います。

英語を学ぶことに関してもっと一般的な話をすれば、日本人が学校でかなりの年月を英語学習に費やしているにもかかわらず、英語を扱えない大きな理由は「英語で話す機会がないから」だと思います。まあ日本で普通に暮らしていて英語を話す機会のたくさんある人はあまりいませんから、無理からぬことでしょう。しかしながら英語を身につけようと思った時にしょうがないでは済まされませんから、そこは何とかするしかありません。

「英語を話す機会」といえば、留学、英会話教室などいくつか手はあると思いますが、イマイチハードル高いですよね。思うに「英語を話す機会」が必要な理由は、脳に言語を定着させるためには「見る」「聞く」「話す」の一体化が必要だからだと思います。つまりそれさえこなせば実際に誰かと英語で話さなくても同じ効果を得られるのではないかと思います。

そこでオススメなのが海外ドラマの英語字幕の活用です。最近はさまざまな配信サイトで英語圏のドラマが豊富に配信されています。英語の字幕を選べるものも少なくないです。まず登場人物を選んで、字幕を英語にして、できるだけ一緒にしゃべってみましょう。できるだけ口調やイントネーション、強弱なんかも真似してみるといいと思います。意味はわからなくてもオッケー(後で日本語吹き替えを見て納得すればいいです)。実は正しく英単語を発音してなくても音合わせで登場人物と同じように話してみてください。

おすすめのドラマは「フレンズ」のように主人公が1人ではなく、いろいろな登場人物がさまざまな会話をする種類のドラマがオススメです。しばらくすると「英語を話す度胸」が身につきます。「英語を話すのがなんか恥ずかしいな」と思う気持ちが最大の敵です。恥ずかしいと思うのは「間違った英語の文章を話してしまったらどうしよう」とか思ってしまうからで、実際にドラマの登場人物と一緒にしゃべってみると整った英文法に従った会話などしていないことに気がつくでしょう。よくよく考えてみれば、日本を訪れた外国人の方が多少間違った日本語で質問してきても、それを笑ったりしないでできるだけ意味を汲んであげようとするでしょう。それと同じで自分が多少間違った英語を話しても、英語圏の人は何とか意味を汲んでくれようとします。繰り返しますが「英語を話すのがなんか恥ずかしいな」と思う気持ちが最大の敵です。

数学

3DCGをやろうと思う時にもう一つ避けて通れないのが「数学」です。一口に数学といっても数学の学問としての範囲は膨大ですが、こと3DCGに限って言えば、三角関数、ベクトル、行列、3次くらいまでの方程式、欲を言えば基本的な微積分くらいがあると色々と取り回しが効くようになります。

自分が高校生の時に、先生が「三角関数を勉強すればこんなCGがつくれるようになるぞ!」と言ってくれてさえいれば、もう少し楽しく三角関数の勉強できただろうにと思いますね。以前「三角関数なんて何の役に立つのか」と言った政治家の方がいらっしゃったと思いますが、すごく役に立ちますよ、本当に(笑)。

その上に法線ベクトル、スプライン、ベジエ曲線などに使われる多次元多項式曲線などをサラッとでいいので知っているといいのではと思います。

3Dプリント用のモデルを作るだけであればあまり関係ありませんが、レンダリングした絵を作ることをゴールにした場合、質感を設定するためのシェーダーは法線ベクトルと深く関わっているので、この辺の理解は重要です。シェーダーに対する理解を深めようとすると、今度は「物体の色とはなんぞや」ということを学ぶ必要が出てきて、その辺は物理の分野ですが、それをCG上の質感として表すためには光の物理現象の数学的な表現というあたりを学ぶ必要があります。

車のモデリングをしようとした時には、スプライン曲線や曲面、曲率や曲率の連続性といった概念があると少しレベルの高い成果物が得られますが、この辺はおいおい学べばいいことなので、いきなり全部勉強してから始めなければいけないわけではありません。

物理

3DCGで物理的な知識が必要になるのは主に「アニメーション」と「シェーディング」でしょう。「アニメーション」には物体の運動に関する知識が不可欠で、放物線やふりこ運動など、一般的に目にする「物の動き」が物理的にどう表現されるのか知っている必要があります。もちろん、映像作品としては完全に物理的に正しいことだけが必要なわけではありませんが、実際にあり得ないフィクショナルな動きでも、「物理的な正しさ+誇張」といった組み立てでないと「それらしさ」を出すことができません。

「シェーディング」に関しては、光と物体の色に関する知識が必要になります。ここで質問です。

光は何色(なんしょく)でしょうか?

光の三原色というから3色?
虹は7色に見えるので7色でしょうか?
国によっては虹の色の数が違うところもあるらしいですがどうなっているのでしょうか?

答えは「光そのものには色はない」です。もっと驚くことは実は「物体の色」というものもありません。色というのはあなたの目の奥で光を感じる細胞が脳に送る信号とそれを処理する脳の働きで生まれます。人間と猫や犬、鳥では見える色が違うというような話を聞いたことはありませんか?

光は連続した波長を持った波で、それを人間の目が認識する際、3つの異なる波長に反応する細胞が脳に信号を送ります。それが三原色の赤緑青(RGB)の正体です。動物の種類によっては対応する波長やその数に差があるので、見える色が異なります。人間でも稀に4種類の波長に対応する細胞を持つ方もいて、より詳細に色を見分けられる方もいるようです。

そんなわけで昔はシェーダーで物体の色を設定する際にRGBの値を設定して、拡散反射や鏡面反射を特定の数式で計算するという方法でレンダリングしていましたが、それなりのそれらしさは出せたものの、かなりざっくりとしたやり方だったため、いわゆる「CGっぽい絵」にしかなりませんでした。

近年ではより物体表面(場合によっては内部も)物理特性を正確に表現するための手法が一般的になっています。BRDF(Bidirectional Reflectance Distribution Function) といったもので、日本語では「双方向反射率分布関数」といった感じになりますか、より詳細に入射光と反射光の関係を数学的に記述する方法です。レンダリングした絵をゴールにする方はこの辺も知っておくと、「やりたいこと」を「どうやってやればいいのか」が整理されると思います。

観察のススメ

いわゆる「知識」を得るための勉強以外におすすめなのは「観察」です。とにかく作りたいと思う対象物に対する理解が何よりあなたの創造を助けます。車を作りたいと思えば、車の構造に対する理解、さらに車が走るアニメーションを作りたいと思えば、車の運動に対する理解は欠かせません。キャラクターアニメーションを作りたいと思えば、人の体がどのように動くのか、バレエやダンス、歌舞伎や能などの動きがなぜ美しさや躍動感を感じさせるのか、ロボットを作りたいと思った時に実物は存在しませんが、実際の機械部品がどのように組み合わさって動くのか、それに多少のフィクションを加えて本当らしいロボットの構造にするにはどうするべきか、全ては観察から始まります。

以前、CG制作会社の新入社員の研修を手伝った時に「なぜ影の輪郭が柔らかい場合とくっきりしている場合があるのか」という質問をしてみたことがありますが、なかなか正解が返ってきませんでした。それどころか「影の輪郭がくっきりしている場合とぼやけている場合がある」という事象を認識していない人もいたほどです。つまり見ているつもりでも意外と見えていないことが多いのです。「目に入っている」ことと「認識している」ことの差は大きいです。「観察」のススメはそういう意味でもあります。対象物をよく観察する習慣をつけましょう。

おわりに

さて、結果的にかなりの長文になってしまいまして、ここまで読んでくださった方には感謝しかありません。

何かを始めようと思えば、何事も一朝一夕で出来るものではありませんが、道筋を知って進むのとそうでないではかなりの違いがあると思います。具体的な3DCGソフトウェアの使い方を学ぶ段になると、そのベースになっている知識があるかないかで、全然理解度が違ってくると思います。CGやってみたいけどどうすればいいかなと思っている方の参考になれば幸いです。

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