『アリー/スター誕生』が頭から離れない理由
Lady Gagaは私の憧れの人で、彼女の歌やパフォーマンスやインタビューにはいつも勇気づけられてきた。そんな彼女が初主演する話題の映画『アリー/スター誕生』を年末に見てから、言葉にならない「哀しみ」のようなものがいつまでも押し寄せてくる。
少し時間も経ったので、何が心をさざ波立てているのかを考えてみたい。
※映画に関するネタバレを含みますので、映画未鑑賞の方はご注意ください。
あらすじ
有名ミュージシャンのJack (Bradley Cooper)と出会った歌手志望のAlly (Lady Gaga)は、Jackに歌の才能を見出されたことにより、一気にスターへの道を駆け上がっていく。2人は激しく惹かれ合い愛し合うが、大物プロデューサーにより「時の人」となって輝きを放つAllyに対し、全盛期を過ぎて「過去の人」となりつつあるJackは次第に自分を見失っていき、2人の人生は翻弄される。
1. とにかく劇中の音楽に鳥肌
映画初主演とは思えないGagaの演技、熱唱はとにかく素晴らしかった。特にJackが初めて自分のステージにAllyを強引に招き入れるシーンは圧巻。重なる2人の歌声に、文字通り鳥肌が立って止まらなかった。
映画が終わり、時間が経った今も冷めない余韻がある。人生が変わる瞬間、道が拓ける瞬間、運命が激しく動き出す瞬間。映画館ではそういう熱い気持ち、激しい衝動が心を埋め尽くした。そして今、何度もこの曲を聞いていると、過ぎ去った時間の美しさ、2人が築いた強い絆、人を深く愛することへの畏敬が重なり、激しさの中に物哀しさが燃えるような気持ちになる。
Shallow - Lady Gaga and Bradley Cooper
In all the good times I find myself longing for change
- 上手くいっているときにはいつも、自分の中で変わることに焦がれていて
And in the bad times I fear myself
- 思うようにいかないと、自分を信じるのが怖くなる
I’m off the deep end, watch as I dive in
- 思い切って深く飛び込むから、ちゃんと見ていて
I’ll never meet the ground
- 決して後戻りはしない
Crash through the surface, where they can’t hurt us
- この地面を突き破って、誰にも私たちを傷つけられない場所へ
We’re far from the shallow now
- 私たちはもう、浅瀬から遠く離れた深いところまで来ている
2. 破滅を招く人の弱さと後悔の記憶
劇中でJackは序盤からアルコールとドラッグに溺れがちだった。そのことが心に影を落としたのは、個人的な思い入れによるものかもしれない。
私の実の親がギャンブル依存、借金依存だった。「何かに依存する人」というのを間近で見て育ったからか、「抗えない破滅」には敏感に反応してしまうし、複雑な気持ちがある。
「そんなものはない、運命は自ら切り拓ける」と思うようにしてきた一方で、どうにも止められない力で落ちていってしまうことが人にはあるのだと、目の前で見てきたから想像しやすいのだろう。
JackのAllyへの愛に嘘はないと思う。それでも、愛するAllyのためであっても、抜け出せない何かがあるのか。ラストシーンはとにかく哀しい。悲しいとは少し違う、さざ波のように感情が後まで残る曲と歌声。止められない破滅を思う苦しさと、自分にできることがもっとあったのではないか?という救いのない後悔が蘇った。
3. 愛し抜く力への憧れと焦燥
終盤に向かってJackのアルコール依存、ドラッグ依存は破滅に向かって加速していく。途中で何度もぶつかったり、傷つけ合ったりする2人だが、AllyがJackを見捨てることはなかった。
相手が変わっても、変わらなくても、とんでもない失敗をしても、かつての輝きを失っても、私ならこんなにも深く一人の人間を愛せるだろうかと、ひたむきなAllyの姿を見ていて目眩がしてきた。順調にスターへの階段を登っていくAllyが、かつて自分に手を差し伸べてくれたとはいえ、今は栄光の面影もなくキャリアの足を引っ張る存在となってしまったJackを見限らずにいるのは、並大抵のことではないと思う。
人を愛し抜く力って、限られた人間にしか与えられていない能力なんじゃないかという気さえしてくる。Jackもまた、最後の選択を見るにつけても、Allyへの愛が深いがゆえの行動なのだと思わせる。
人生で誰かとこんなにも深い絆を結べたとしたら、他人に何と言われようと得がたい財産だと思う。私もそんな絆を夫と築いていきたい。