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市場を創る「パブリックアフェアーズ」視点

新しい市場の発生を前もって知る方法があります。

それは法制度の変更です。

民泊、仮想通貨交換所、REITなどは、新法が成立して事業化が可能になり、市場として立ち上がりました。環境規制や過払金のように、何かが禁止されることの代替や補償でできる事業機会もあります。

あるエンジェル投資家が、スタートアップ成功の重要な前提の1つに「不可逆な構造変化により急速に立ち上がる大きな市場を、他の人が気づく前に先行して押さえること」を挙げていました。

市場環境の前提となる外部要因を4つに整理したPEST(Politics:政治・法律、Economy:経済、Society:社会、Technology:技術の頭文字を取ったもの)という分析フレームワークがありますが、この中で唯一法律・規制だけは、明らかな形で先に分かる「不可逆な構造変化」なのです。

それら法律や規制の検討は各省庁で時間をかけて行われ、情報は公開されるので、いつどのような法律が何を目的に成立するか、事前に分かるからです。

法律や政策が直接事業機会を教えてくれる訳ではありませんが、関連する事業の当事者にとってはその影響は明白であり、部外者でも調べて考えれば、事業機会が見出せます。

どんな法律が成立するかは公開情報

法律の作成プロセスは法律案→国会審議→成立→公布・施行とあります。

日本では大多数の法律が各省庁が起案した内閣提出法案です。承認される率も80%超と高く、原案から内容が大きく変わることは殆どないと思います。

省庁での検討内容は大まかに以下の通りで、その情報は公開されています。

・省庁などで官僚が調査・起案
・関係者や有識者による審議会で議論する
・パブリックコメントで幅広い意見を募る
・最終的な取りまとめが、法案として国会で審議される

補助金や税制措置も検討内容が分かる

何かの企業活動にお金を出したり、税金を減額することも政策であり、これも事前に動きが分かります。

いつ何ができるかだけではなく、何のためにどのような支援をするかの狙いを把握することも大事です。

財政的な支援により、特定市場の立ち上がりを加速したり、国際競争力を上げたりという目的で措置されるため、申請の際は、その趣旨に則っていると審査側に伝わるように申請書を書かなければ通らないからです。

政策の狙いが分かれば先も読める

公開されている議事録には、どんな人々が、何について、どんな発言しているか書いてあるので、そこから各者の狙いも分かります。

審議会のような場での発言は思いつきではなく、スタッフが事前に「これは言って、これは言わないで」というポジションと、その裏付けとなる情報を書いたペーパーを作成してレクチャーしているので、必ず発言には意図があるのです。

政策は働きかけることができる

法律や規制は官僚が勝手に作り、天から降ってくるのではありません。

あらゆる「業界」には、どこかの省庁のどこかの課が担当として紐付けされており、担当課は業界関係者や有識者とコミュニケーションを取り、ニーズや課題を吸い上げたり、行政側の考えを当事者に伝えて反応を得ながら政策を具体化していくのです。

よって、そこに働きかけることもできます。

政策提言も業界団体の役割

業界団体の役割に、同じ業界の様々なニーズを取りまとめ、提言するというものがあります。

1つの集約した窓口とコミュニケーションを取った方が効率的ですし、業界の総意であれば相手も真剣に聞くでしょう。

一企業の利益ではなく、業界全体の利益とした方が、公共のために仕事をする行政には受け入れやすいともいえます。

ちなみに、私がいたソニーが属する電機業界であれば、経済産業省 商務情報政策局 情報通信機器課(今は名前が変わりました)が担当で、電機業界の団体は電子情報技術産業協会(JEITA)です。

スタートアップも業界団体をつくるように

近年はスタートアップが業界団体をつくるのも当たり前になりました。

シェアリング、Fintech、ブロックチェーンなど、法制度が市場に追いつくのを待てないものが増えたのが主因でしょう。

既存の業界団体は大企業中心で利害が異なるし、幹事会社は大企業の持ち回りで新興企業の声が反映される可能性も低く、動きも遅いです。

ならば自分達で作ろうとなるのは自然なことでしょう。

公共性のない政策提言は通らない

「うちの会社/業界のビジネスに邪魔だから、この規制を撤廃してほしい」といった個別の企業や業界の利益のための提案は通りません。

法律は公共の利益のために作られるものですし、補助金や減税も国民から集めた税金が原資である以上、公平で透明で効果的であることが説明可能でなければなりません。

審議の過程では、消費者団体、学識者、弁護士など、ビジネス側ではない、色々な立場の「うるさ方」のツッコミを受けますし、利害の対立する業界の言い分も公平に捌かねばならないからです。

新しい法律や予算により、不当に不利益を被る人や悪用する人もいないかの配慮もしなければなりません。

予算は、他と比べてそこに使う方が国家全体の観点で効果があるとする根拠が必要です。

公益や公平の観点で論理を組まなければ、行政には受け入れられません。

公益の論理で主張を展開する

全体の利益と言うと、誰か考えても同じ結論になりそうですが、そうでもありません。

選択する事実やその解釈により、主張は変えられます。ポジショントークを公益観点で説明可能にする、とも言えます。

例えば、映像や音楽を個人が録音・録画し、複製できることで、権利を持っている作り手や上演者の権利が侵害されているので、メーカーなどが補償するといった制度があり、かつてはDVDプレイヤーやDVDなどのメディアの価格には補償料が含まれていました。

これも「払うべき」とする権利者団体と、「払う必要はない」とするメーカーや消費者団体、それぞれの立場で根拠に基づいた主張がなされています。

業界全体を把握するためのカオスマップ作り

政策の動向を追うのはそれなりに大変です。

その代わりの、全体把握にお勧めするのが「カオスマップ作り」。

カオスマップとは、特定の範囲全体のプロダクトを調べ尽くして区分し、一覧化したものです。

考えて作れば、色々な学びを得られます。

読み手を考える段階
⚫︎その市場に関係するどんなプレイヤーがいて、どんなことに関心があるか
⚫︎それらを複数の読み手の視点で考える

各プロダクトを調べ、区分する段階
⚫︎各プレイヤーが、現状をどう捉え、未来をどう読み、何をどのようなシナリオで実現しようとしているのかを推測する
⚫︎各プロダクトが、誰にどんな価値を提供し、競合や代替品とどういう違いを出そうとしているのか
⚫︎どのような能力や有形無形の資産で差別化を実現しようとしているのか
⚫︎実際のサービスの出来や、勝負のつき具合はどのようなものか

1つ1つのプロダクトを調べる際に、これらを推理し、必要なら裏付けとなる情報を取りながら掘り下げていくと、異なるプレイヤーの観点で、業界全体の利害構造を複眼的に把握できるようになります。

また、深く考えて調べながら理解したものは、長い間頭に残ります。

市場構造が突然根本から変わることはあまりないので、一度理解した枠組みは、長い間役立ちます。

お時間のある年末や夏休みなど、一度じっくりやってみても良いかと思います。

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