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企業アルムナイとは何か~比較で考える(vs.有志アルムナイ)

アルムナイ等のコミュニティ専門家が、長年の経験を基に、企業アルムナイを適切に立ち上げ、効果的に運営するための実践知をお伝えする「企業アルムナイの教科書」。

「似ている取組」との比較を通じて、アルムナイの特性をより解像度高く説明する記事の第2回は、卒業生有志によるアルムナイとの比較です。

有志アルムナイとは

有志アルムナイとは、卒業生が自分たちのために自主運営するアルムナイです。これに対し、企業主催アルムナイは、企業が自社の課題を解決するために、自社で運営するものです。

それぞれへの理解を深めるべく、より細かい分類して掘り下げてみます。

企業アルムナイ運営の4タイプ

運営における役割分担に応じて、企業主催と卒業生有志の2それぞれを、さらに2ずつ、4パターンに分類できます
※もっと細かくも出来ますが、本稿では主な4類型に留めます

  1. 公式:会社主催で、運営の全てを会社が担う

  2. 委託:会社主催だが、運営の一部やコンテンツ企画等を、卒業生による運営チームに任せる

  3. 後援:卒業生主催で、会社から色々な協力を得て運営する

  4. 野良:卒業生主催で、会社からの協力は基本的に受けずに運営する

アルムナイ運営の4要素

運営の役割分担を明確にするために、運営の要素をもう少し細かく分類します。

  1. 意思決定:目的、重要な方針、施策、リソース等執行の決定

  2. 収支責任:予算などの重要リソースの調達と使用、それに伴う結果責任

  3. 全体オペレーション:全体の運営に関する工数の負担

  4. 個々のコンテンツの企画・運営:イベント等の企画、アレンジ、オペレーション

ざっくり会社で例えると、役員会、経理、本社間接部門と、各事業部、といった感じでしょうか(厳密にはちょっと差異はありますが、あくまでイメージとして)。

アルムナイ運営4タイプの詳細

上記要素のどこまでをどちらが分担するかで整理すると、4分類が分かりやすくなります。

1)公式(企業が全部担う)
企業が運営の全て担うパターン。企業のリソースを活用できる、自社の目的達成に直結させられる、という利点がありますが、自由度やスピードが下がる他、卒業生のニーズを十分に反映できないリスクがあります。

2)委託(企業主催で、一部を卒業生に委託)
企業が自社リソースで意思決定や全体運営を行いつつ(1, 2, 3)、卒業生による運営チームにイベントやコンテンツの企画・運営(4)を任せる方式。
ユーザーである卒業生のニーズを汲みやすくなりますが、卒業生運営チームとの調整で、運営が複雑になる可能性もあります。

派生形として、全体運営(3)まで任せるパターンもあります。委託先も、卒業生有志の運営チーム以外に、有償で外部企業に委託するケースもあります。

3)公認(有志、会社連携あり)
卒業生の有志活動に、企業がリソースや信用を補完する方式です。
独立した活動なので自由度が高く、スピーディーな意思決定や実行が可能ですが、企業のリソース協力が企業主催と比べれば限定的で、会社の紐付きとなると自由度やスピードに影響が出るかもしれません。

4)野良(有志、会社連携なし):卒業生が会社とは連携せず完全独立で運営する方式です。企業のサポートや信用補完がないため、活動の規模が小さくなりがちです。

卒業生有志と企業主催のアルムナイの違い

有志も企業主催も、企業のアルムナイ・コミュニティである点は共通しておりますが、主催者が異なることで、いくつかの違いが生じます。両者の共通点と相違点を具体的に挙げながら、比較することで、企業アルムナイの特性を詳しく説明していきます。

まず、共通要素を挙げた上で、違いを説明します。

形態:コミュニティ

いずれもコミュニティであり、次のような共通点があります。

  • 参加資格が明確で、基準を満たせば誰でも参加できる

  • 参加者同士がつながり、自主的に活動する

※コミュニティではない企業アルムナイもあり得ますが、これについては稿を改めて説明します

参加資格:基本的には同じ

いずれも基本的な参加資格は「会社の卒業生で、現役のビジネスパーソン」であることが共通しています。

※定年退職した人も含む卒業生コミュニティである「社友会」については別の稿で説明します

※具体的な資格条件は、有志か企業主催かによらず、個々のアルムナイごとに異なる場合も多く、これも別の稿で説明します

活動内容:基本的には同じ

両者とも、SNS等のITプラットフォーム上で参加者が相互にコミュニケーションできるようにしたり、セミナーや交流会といった関係構築の場を主に提供する点は共通しています。

立上げ:明確な立上げ時期がある

いずれもコミュニティとして明示的に立ち上げられます。

ただし、有志アルムナイの場合、当初は文字通り有志の集まりとして始まり、活動が活発になったことで、ある時点からコミュニティとして正式に設立されるケースもあります。

主催者の成果実現:間接的か、直接的か

有志アルムナイは、卒業生自らが自分たちのために運営するので、活動の成果は直接的に自分たちに還元されます。

一方、企業主催のアルムナイは、自社の課題解決の手段です。主催する企業の目的達成に至るステップは、以下のように段階的で間接的です。

  • まず、卒業生に価値を提供し、自発的に企業が望む成果に結びつく行動を取るよう促す

  • 上記の結果、最終的に自社の目的を達成する

施策と成果が直接的な有志アルムナイと比べ、コミュニティの主体である卒業生の目標達成を支援することで、最終的に自社の目標を達成を図る企業主催アルムナイは、間接的な手段と言えます。

ニーズ理解とモチベーション

有志アルムナイは、卒業生が自分たちのニーズに基づいて企画を立てるため、「痒い所に手が届き」、運営者も参加者も「自分ごと」としてモチベーションが高まりやすい傾向があります。ただ、運営はボランティアのため、充分な時間が割けなかったり、自己犠牲が続きモチベーションが下がるリスクもあります。

一方、企業主催の場合、会社のリソースが使える優位性があるものの、会社を辞めた経験がない担当者が卒業生の気持ちやニーズを十分に理解できなかったり、企業の都合やマネジメントの指示に従わざるを得ないなどで、結果として卒業生に刺さらない企画になってしまうこともあります。

活性化:体力か、知恵と情熱か

企業主催のアルムナイは、企業公式という安心感や、退職者に案内する仕組みが整っていることに加え、企業のリソース(予算、人員、設備、情報、信用など)を活用できるなど、規模が大きくなる素地があります。

一方、卒業生有志のアルムナイは、コミュニティそのものの特質として、場に「引力」があれば、人が人を誘い、種火が燃え広がるように人数が増えて盛り上がるります。

実際、近年のブームより前に、適切な主催者により巧みに構築・運営されてきた有志アルムナイの中には、活性や価値創出の面で企業主催のアルムナイを上回ることも少なくありません。

収支:企業負担か、個人負担か

有志アルムナイは、卒業生が個人としてボランタリーにやっているので、活動資金は自前で調達するしかありません。

  • 個別コンテンツ:イベントなら参加費を取るなど、個々の施策単位で収支を合わせる(赤字の場合、自分が被る可能性も)

  • 全体運営:基本的にボランティア。有償ツール利用など、何かしら費用が掛かる場合は、運営費調達を目的としたイベントを実施するなど、何かしらのやり繰りが必要
    ※その場合も、収支と用途を明確にする仕組みがないと、後々トラブルになる可能性があるので注意

有志で年会費を取るパターンは殆ど見たことがありません。収支を管理して報告する必要があるため、運営負荷も重たくなりますし、継続が前提となります。

一方、企業主催なら、会社負担で全体運営に予算や人員を張れます。赤字の分担で揉める懸念もないので、先行投資的な取り組みも可能です。

運営:重厚か、軽薄か

有志アルムナイは、自主活動のため企業のルールなどに縛られず自由度が高い、少人数や1人でも運営でき、ルールやプロセスは最低限で済むので、意思決定や行動が迅速、という特徴があります。

ただし、運営などの基準が不明確なまま、属人的に運営して、後々に問題を生じるリスクもあります。

一方、企業主催のアルムナイは、会社から、開始前にしっかりとしたルールや体制を整えることが求められるので、立ち上げまで時間がかかりますし、立ち上げ後も、企業のルールやプロセスに従わなければならないなどの制約も多く、意思決定や実行には時間を要しがちです。

まあ、その分安定していると言えなくもありませんが、コミュニティに理解のある適切な人をアサイン、育成できるのかや、適材を充てられたとしても、数年で異動したらその後どうするのかなど、人事上の問題もあります。

コミュニケーション基盤:汎用ツール、専用ツール

固定収入がない有志アルムナイでは、無料の汎用ツール(SNSやチャットアプリなど)を使うしかありません。ただ、これらのツールは、多くの参加者がすでに使い慣れているため、浸透が容易です。

一方、企業主催アルムナイは、有償の専用ツールも導入できます。企業によっては、社内セキュリティポリシーの関係で、汎用ツールの使用が許可されない場合もあります。

強制力の及ばない卒業生に、使い慣れない新しいツール使わせるのは、かなりハードルが高いし、コミュニティ運営の視点から見れば、汎用ツールの方が、ユーザーにとって使いやすい場合が多いと思います。

「有志」に関するその他の論点

フィットする企業

以下のような特徴は、有志アルムナイの活発化にポジティブに作用します。

  • 「卒業しても一緒に仕事をしよう」という企業文化が浸透している

  • 在職中から企業と従業員の関係が良好で「辞めても好きな会社」

  • ブランドがあるなど、属していたことに誇りがもてる

  • 企業が卒業生に対して前向きで、相互ベネフィットを追求する姿勢がある

有志と企業主催のすみ分け

有志と会社主催、両方のアルムナイを持つ会社もあり得ます。その場合、どのように補完するのでしょうか。

企業主催のアルムナイは、企業の予算や人員、施設、ネットワーク、知名度などのリソースを利用できる点は有利ですが、会社のしがらみに縛られるため、自由度やスピードの面で有志に劣ります。有志アルムナイがあれば、会社主催ではやりにくい幅広い企画を素早く試せます。

また、会社側の運営メンバーが企画・運営する公式イベントの他に、卒業生有志が企画運営する自主イベントも追加できれば、会社の予算や人員を使わず、効率的にイベントの数を増やせる(=参加者への提供価値を増やし、目的達成の確率を高められる)メリットもあります。

企業アルムナイと有志アルムナイの比較まとめ

比較を通じて、企業アルムナイの性質がより明確になりました。

成果実現:間接的
・まず参加者に価値を提供し、その結果として企業の目的を達成
⇔主催者も参加者も卒業生のため、取組が直接自分たちの成果につながる

収支:企業のリソースを使え、先行投資も可能
・予算や人員、施設、ネットワーク、知名度など
・赤字の場合の懸念もなく、リスクもとれる
・ROIさえ見合えば、先行投資も可能
⇔イベント単位で収支成立が必要、全体運営はボランティア

体制・仕組み
・会社の人員や仕組みを使え、しっかりできる
・自由度やスピードが下がることも
⇔有志アルムナイ
・会社の縛りが少ないので、自由度やスピードが上がる
・仕組み脆弱で、運営がいい加減になるリスクもある
・ボランティアなので、工数やモチベーションが限定的になる可能性

活性化
・会社リソースを活用できる
・「自分ごと」ではないので卒業生ニーズを捉えにくいことも

コミュニケーション基盤
・有償の専用ツールも使える
・参加者が使い慣れているツールが使えないことも

企業アルムナイについて正しく理解することは、その設計や構築、さまざまな判断を行う際に大いに役立ちます。本記事が、企業アルムナイを効果的に運営できる人が増え、価値ある企業アルムナイが増える一助となれば幸いです。


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