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24話「上階の子どもの騒音」

騒音は お互いさまと 言うけれど 病院通い 始まりました

 マンションのような集合住宅において、入居者間のマナーをめぐるトラブルで最も多いのは、「生活音」です。中でも、子どもが走り回ったり飛び跳ねたりしたときに階下に響く音(重量衝撃音)は、騒音トラブルの典型で、今回は裁判にまで発展した事例です。

 騒音に対する受け止め方には、個々人の感覚や感受性に大きく左右される主観的な面があるのも事実ですし、居住者間には「お互いさま」の関係があります。

マンションにおいて、騒音トラブルはかなり多いものの、裁判にまで至るケースは、まれでしょう。まずは、管理人・管理会社を通じて、注意を促す書面が配布・掲示されたり、場合によっては、管理会社や管理組合が仲立ちすることもあるかもしれません。そして、当人間で直接話し合いの場を持つことにより、解決に至るケースも多いです。ただし、厄介なのは、騒音の出どころです。今回のケースは明らかに階上の部屋でしたが、斜め上や隣、時に斜め下の部屋が発生源のこともあります。というのも、足音は固体音(固体伝播音ともいいます)といって、振動として建物内に伝わり、天井や壁などを経由して音を発生させる性質をもっており、発生させている音が受手側の耳に直接届くわけではないからです(※1)。

 さて、そんな厄介な騒音トラブルですが、子どもの騒音をめぐる裁判では、現状では、原告にとってややハードルの高いものとなっています(※2)。そんな中で、今回の判決は原告の請求が認められましたので、貴重な事例とも言えます。
では、どうやって原告X1X2は裁判所に請求を認めさせたかをみてみましょう。

 裁判所の判断は以下のとおりです。
静粛が求められあるいは就寝が予想される時間帯である午後9時から翌日午前7時までの時間帯でも騒音レベルの値(dB(A))が40を超え、午前7時から同日午後9時までの同値が53を超え、生活実感としてかなり大きく聞こえ相当にうるさい程度に達することが、相当の頻度であるという。
204号室の所有者であるYが、同居者であるYの子が騒音を104号室に到達させないよう配慮すべき義務があるのにこれを怠り、Xらの受忍限度を超えるものとして不法行為を構成するものというべきである。

 騒音トラブルでは、騒音が社会生活上受任すべき限度を超えるものであるかどうかを基準に不法行為や人格権侵害等の成否が判断されます。

今回の事例では、X1が、歩行音の測定を業者に依頼し、約1か月間近くにわたり、測定を行いました。被害を客観的に把握し、十分に証拠を備えたことにより、Xらの請求は認められました。

もしあなたが騒音の被害にあったら、まずは、騒音の程度や頻度、時間帯、騒音が聞こえる位置などを記録しましょう。それをもって、管理会社に相談することから始めるのがよいでしょう。

できれば、顔を合わすことなく穏便に解決するにこしたことはありません。騒音レベルの値の測定を業者に依頼したり(※3)、裁判に訴えることは、最終手段であり、回避したいものです。これからも同じ集合住宅に住み続ける「お互いさま」なのですから。

※1)私がマンションコンシェルジュをやっていた頃の出来事です。階下の住民から早朝の騒音トラブルについて相談を受けましたが、階下の住民は、真上の住民による騒音と決めつけていました。そこで、真上の住民の方にヒアリングすると、騒音を訴える時間は、彼らにとってはまだ就寝している時間帯でした。そこから、僕の推理探偵が始まりました。そういえば、斜め上の住民のおじさんAは、いつもスポーティーな格好をして、毎日自転車で通勤されている方でした。普段から運動をよくしてそうなイメージでした。僕は、いつものように、コンシェルジュカウンターから笑顔で挨拶し、さりげない会話の中で、彼が早朝に自宅で筋トレしていることを教えてもらいました。「Aさんとは限りませんが、早朝の生活音で悩まれている住民の方がいらっしゃいまして・・・」と僕から切り出すと、Aさんの表情が変わりました。心当たりがあった顔でした。翌日からパタリと騒音は止まり、階下の住民には大変感謝されました。

※2)山田希『マンション判例百選』176頁

※3)騒音計を無料でレンタルすることが可能な地方自治体もありますが、残念ながら、(裁判では証拠としては認められない)検定合格証明書が付いていない騒音計だったり、かりに検定合格証明書が付いていたとしても、素人が裁判で有効となる証拠を作成するのはかなり難しいです。自治体も「測定値については、あくまで参考値としてご利用ください。」と注意書きした上で貸し出しています。素人が無料レンタルの騒音計で計測した数値をふりかざして、階上の人と交渉すると、余計にトラブルの火種になることでしょう。

東京地裁平成24年3月15日判決
[参考文献]
山田希『マンション判例百選』176頁

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