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34話「5件の漏水事故について、管理組合の責任は?」

屋上や外壁全て共用部 漏水したら 組合マター

 マンションに住んでいて、漏水事故に遭遇するのは、決して珍しくありませんので、今回の事例はマンションに住む誰もが参考になるでしょう。ちなみに、私も漏水の被害にあったことがあります(※1)。

 通常、マンションの漏水事故でまず責任を追及されるのは、その漏水の原因をつくった個人です。また、共用部分に漏水の原因があった場合であれば、その共用部分の共有者である区分所有者全員が過失のあるなしにかかわらず最終的な責任を負います(「土地の工作物責任」)。しかし、本件の被害者らは区分所有者全員を被告にするという方法をとらず、また5階の床板下排水管の所有者を被告にするという方法もとらず、管理組合を被告に選びました。

 本件の福岡高裁判決は、結論として「管理組合は管理規約に基づく責任あるいは工作物の不法行為責任がある」としました。

同判決はこのように述べています。「その損害が最終的には全区分所有者間でその持分に応じて分担されるとしても、先ずは管理規約に基づいて管理組合に対して請求できる」。

 では、5件の事故を一つ一つ見ていきましょう。
[第1事故](屋上排水事故)について、「管理組合は屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故の結果を予見してこれを回避することが可能であり、そうすべき義務があったというべきであり、これを怠った過失を認めることができる」

以前にも屋上ドレーンにゴミが溜まって排水できず、低位置にあった通気孔から903号室、さらに803号室まで水漏れが生じた事故があった(被害者と管理組合との間で示談が成立)ことなどを認定した上、管理組合は、屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故を予見し、毎月の掃除のほか、排水口に大きめの椀型の網の蓋をかぶせ、通気孔を高くするなど、屋上排水ドレーンのゴミ詰まりによる漏水事故を回避すべき義務があったとしました(現に平成9年2月に同様の改修工事が行われました)。

[第2事故](クラック事故)について、「管理組合が屋上、外壁の管理義務を怠った場合には管理責任を認められる余地がある。また、屋上等のクラックから雨水等が侵入するのは、本件マンションが通常有すべき安全性を欠いていたというべきであり、工作物の保存に瑕疵があった」

[第3事故](床板下排水事故)は本件マンション503号室の専有部分に起因する事故であるから、管理組合は責任を問われない。

[第4・5事故](バルコニー事故)については、通常の仕様に伴う事故については管理組合は管理責任のある立場ではなく、専用使用権を有する者が占有者として責任を負う。

 以上のように、[第1事故][第2事故]については、管理組合の責任が認められました。
管理組合は裁判の中で、管理会社に管理業務を委託して管理業務を十分に尽くしたと主張しましたが、以下のとおり、主張は認められませんでした。

「管理会社としては建物の経年劣化による瑕疵の発生の可能性、その調査等については被控訴人管理組合に進言することは期待されても、調査、補修工事等を含む一切合切を包括的に委託されていたわけではないのであるから、被控訴人管理組合からの特別の指示、委託なくして調査、補修工事を始めることはできないというべきである」

 また、請求額の総額が3206万円と高額なのにも驚きますが、被害者別に内訳をみると、903号室の区分所有者は272万円、903号室の賃借人は361万円、303号室の区分所有者は368万円、303号室の区分所有者の妻は2203万円を請求していて、303号室の区分所有者の妻の請求額がとびぬけています。着物の損害が大きかったようです。

 今回の事例からは、短期間で5件もの漏水事故が起きて裁判で争われたということで、漏水リスクについて、様々な教訓が得られます。

【今回判例から学べるリスクと教訓】
①管理会社は毎月一回屋上ドレーンのある庇部分を清掃していたものの、それだけでは十分ではなく、管理組合は、漏水事故を予見できる以上は、主体的に事故を回避する改修工事を行わないと、責任を問われるリスクがあります。

②マンション最上階の部屋は漏水リスクが高いです。マンションの屋上は、雨漏りを防ぐために専用の防水塗料を塗ったり、シート状の防水材を貼ったりなどの防水加工を施しています。古いマンションはシートが経年劣化している可能性も考えなければなりません。大雨で屋上がプール状態になってシートに穴が開くと、真下にある部屋の天井に漏水が発生してしまいます。今回事例は、屋上排水ドレーンのゴミ詰まりでしたが、屋上からの漏水というのは、最上階ならではのリスクです(※2)。

③床下排水管の亀裂による事故は、専有部分に起因する事故ですから、(管理組合ではなく)区分所有者の責任となります。今回の物件は築15年と、排水管の耐久年数には達していないと考えられますが、503号室の区分所有者にはお気の毒でした。専有部分である以上、区分所有者の責任となってしまいますので。例えば、バルコニーの管理責任は普段使用している場所なので、自分に責任が及ぶのは納得しやすいです。一方、日常的に目視で確認できず、自身ではお手入れができない場所にある床下排水管が、亀裂することで"加害者扱い"になるのは、一般的な感覚からすれば、理不尽ではあります。

④自分が加害者にならないよう、日ごろからバルコニーの排水口回りのお手入れをしましょう。

⑤(そんなに高価な着物だったのか、請求額が妥当なのか否かはさておき)303号室の区分所有者の妻は2203万円を請求しました。かりにあなたが加害者になった時に、水漏れ事故は予想外の損害が起きるリスクがあります。それをふまえて、個人賠償責任補償特約付きの火災保険に加入し、十分な保険金額のプランを選びましょう(※3)。

※1) 帰宅したら、天井から水漏れが起きていました。すぐに上階に行くと、洗濯機からの水漏れでした。この場合、基本的には、上の階の住民に損害を受けた部分の賠償をしてもらうことになりますが、賠償額は、購入したときの値段ではなく、経過年数や使用による消耗分を差し引いた「時価(現在の価値)」となります。「時価」だと、購入時点より価値が下がっていると判断されるため、同じものを購入する際には、自己負担が発生します。よって、この時は、自分が契約している火災保険を使いました。というのは、被害に遭った対象物と同等のものを新たに購入する際に必要な金額が補償される「新価」で契約していたためです。

「なんで被害者なのに自分の保険を使わなあかんのや」とおっしゃる方もいますが、自動車保険と異なり、自分の保険を使ったところで保険料が上がることはありませんので、実利をとりましょう。元保険屋からのアドバイスです。

※2) マンション最上階のデメリットとしては、他に、①(日当たりのよさが災いして)冷房が効きにくく、夏場は特に暑い、②エレベーターの待ち時間が長い、③地震や火災などの災害時に最も影響を受ける、④屋上から侵入されやすい、などが挙げられます。

※3) 意外と知られていませんが、個人賠償責任補償特約付きの火災保険であれば、自転車事故での相手方への損害賠償をカバーできます。自転車事故による加害者側のケガなどの損害の補償が不要であれば、「個人賠償責任補償特約付きの火災保険」に加入していれば、「自転車保険」は不要と言えます。保険というのは、自動車保険、傷害保険、医療保険、生命保険など種類が豊富で補償内容が重複していることはままあるので(お手持ちのクレジットカードに保険が付帯していることもあります)、無駄な保険料を支払っていないか見直してみましょう。以上、元保険屋からのアドバイスでした。

福岡高裁平成12年12月27日判決
[参考文献]
中島繁樹『わかりやすいマンション判例の解説[第3版]』196頁

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