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デザイン力の育て方。|case 渡邊 徹|「おもしろい」「新しい」にいつでも臨戦体勢

この記事は2024年1月12日のWantedly記事の全文転載です。

デザイナーとして働いていくためには、どんなスキルをどのように育てていけばよいのでしょう。そのヒントを探るべく、それぞれ特徴的なデザインを実践するメンバーに、現在の活動を支えるスキルを身につけるに至った背景を聞きました。今回お話しするのは、全天球映像作家でクリエイティブディレクターの渡邊徹です。



「見回す必然」をテーマに、VRの特性を活かしたアウトプットをつくる

—映像作家、クリエイティブディレクター、アートディレクターとして活動していますが、主にどんな仕事をしているのでしょうか。

現在は、VRを中心とした映像体験の企画や撮影、制作を行っていて、テーマパークなどのアトラクション向け映像やドームへ投影する映像コンテンツ、ミュージックビデオやライブ映像などを手掛けています。ジャンルを横断してVR体験の可能性を探求しています。

そんな活動の中でテーマとして掲げているのが、VRがメディア特性としてもっている「見回す必然」です。そもそも映像というのは、スマホで観るもの、テレビで観るもの、サイネージで観るものと、それぞれのメディアによって体験が違ってきますよね。それはVRも同様です。ただ、VRはまだまだ新しいメディアであるということもあり、中には「VRである必然性があまりない」コンテンツも少なくない。僕は「メディアの特性を理解して、それに合わせてものをつくる」という行為が昔から好きなので、「自分が何かをつくり出す限りは、VRの特性を活かした作品を実現させたい」という思いがあるんですよ。なので、「見回す必然」というテーマを掲げることで、「その部分はしっかり押さえていますよ」ということを伝えているわけです。

僕はVRディレクターとクリエイティブディレクターという肩書きで仕事をしています。もともと雑誌のエディトリアルデザインをやっていたんですが、現在僕個人はアートディレクションを行うシーンは少なくなってきました。もちろん、今でも自分で1から10まで全部やる仕事もあるんですけど、どちらかというとクリエイティブディレクターとしての仕事を主に行っています。最近はクライアントのビジネスに関するお手伝いをすることが多くて、クライアントがやろうとしていることを噛み砕くためにワークショップや会議を実施して、その上で課題を見つけ、要件として可視化していくということをやらせてもらっています。

おもしろいモノを通じて、人とコミュニケーションをしたい

—現在の仕事のスタイルを形成するまでに、どのようなことを意識してきましたか。

まず、自分自身の中には「人とコミュニケーションしたい」という気持ちが強くあるんです。ただ、時代が変わると、ターゲット層が日頃触れているメディアも、そのメディアが抱えるターゲット層の比率も変わっていきますよね。コミュニケーションにはアップデートが不可欠になっていきます。だからアウトプット先、つまりメディア自体も自然とさまざまになっていくんです。

そういう意味で、僕にとって映像というのが「今、一番コミュニケーションしやすいメディア」。要は、「コミュニケーションができさえすれば、手段は何でも良い」というのが基本スタンスなんです。

コミュニケーションに特に興味をもったのは、大学生の頃。当時、X(旧Twitter)やmixiなどが流行り始めていて、「SNSって何なんだ?」という感じで使っていたんです。そうすると、知らない人とどんどん繋がれるし、有名人からメンションをもらえたりもする。普段知り合えないようなおもしろいことをやっている人たちに触れられて、いつもワクワクしていました。X上で飛び交う当事者同時のオープンなつながりにも注目していて、「この先、マスメディアが力をもたなくなるんじゃないか」ということも考えていました。

大学卒業後、僕はコンセントの前身であるアレフ・ゼロに就職したんですけど、「まず雑誌のデザインを通じて、ネットで話題になるようなことを打ち出したい」というのがあったので、そのようなスタンスでデザインをやっていました。やっぱり「おもしろいことを人に伝えたい」と思って。それが今でもずっと続いている感じですね。

最先端ガジェットが抱える、「普及」という課題

—3DプリンターやVRカメラなど、さまざまなガジェットにもいち早く挑戦してきました。

長谷川さん(コンセント代表取締役社長)が、新しいガジェットが発売されるたびに買ってきてくれるんですよ。

当時渡された3DプリンターはMakerBotの『Replicator2』というもので、ちょうど家庭用として売り出されたばかり。そこで「そもそも、3Dプリンターがある家庭や生活って、どういうものなんだろう」とSF的思考で妄想を膨らませてました。

でもまだ3Dプリンターは一般に普及しているとは言えないですよね。当たり前に使っている人は今も増え続けていますが、3Dデータをつくるハードルが高かったので。これがスマホでつくれるくらいになってきたら一般の人でも触れるようにはなると思うんです。そして、ここ数年で飛躍的に3Dデータの作成がしやすくなってきている。そうやってだんだん使いやすくなっていくと、ようやく技術が浸透していくんじゃないかなと。

ガジェットというのは、5年10年のスパンでいろんなモノが出たり、消えたり、組み合わさったりしていきます。だから、流行らなくなったら「はい、さようなら」ではなくて、「またどこかで会おうね」程度の感じで、そのときにやれることをどんどんやってみるということをしています。

物事の背景を知って、専門的な人たちと会話する

—新しいメディアやガジェットを扱うにはインプットも必要ですよね?

10代の頃からいろんなことに興味をもって、いろんなものを見るようにしてきたんですけど、そもそも僕は何かハマるものがあったら1日中それをずっと見続けたり、インプットできたりするんですよ。どんなに情報量が多くてもインプット過多のような状態にもならないし、全然苦じゃないんです。

例えば、VRを始めたのは7、8年前になるんですけど、その当時は本当に「VR」の「V」の字も知らない状態で。そこで、何もわからないなりにいろんなことを調べるんです。とはいえ僕はエンジニアではないので、「こういう原理で動いているんだ」程度の理解なんですけど。そういうことを繰り返していると、「こういう原理で動くなら、こういう仮説が成り立つんじゃないか」という当たりがつくようになるんです。でも、テクノロジーというのは、一次情報がだいたい英語。日本語に訳されて入ってくるのは何カ月先、何年先だったりするので、まずは自分で原文を読まなければいけない。だから、当時は本当にずっと英文を読んでいました。

Googleが実践している「20%ルール」というのがありますよね。業務時間の20%を自分の好きなプロジェクトのために費やしましょう、というルールです。僕も同じようなことをやっていたんですが、業務時間をほぼ100%使って調べていた時期もあったくらい(笑)。

その頃ずっと調べていたのが「Processing」でした。プログラミング言語の中でも比較的とっつきやすかったんですが、それを使って、「リアル空間で人間が行うアナログなインプットでPCを操作する」というようなことをやりたかった。「手を上げたら、電気がつく」というようなイメージですね。

ただ、そのときも「自分で何かプロダクトをつくろう」ということではなくて、そういう物事の背景を知ることによって、より専門的な人たちと話ができるようになることが重要だったんです。そのために、調べることは労力を惜しまずやっていたという感じでした。

コミュニケーションを生むのは「それって何?」の余地があるキャッチーさ

—いろんなことを試していますよね。自ら「エクストリーム系デザイナー」を名乗っていたことも。河原でワニ肉を焼いて食べるイベント「エクストリームBBQ」を行ったり。「キャッチーな言葉や企画を考える」という部分も特徴だと思います。

「エクストリーム系デザイナー」は、もう10年近く前のことなので記憶が朧げになんですよね……(笑)。たぶん「ストレートに伝えてもおもしろくない」と感じて、何か良い感じの言葉をあてがいたくなったんだと思います。確かあのときは、いろんなことに対してエクストリームという冠をつけていくうちに「エクストリームか、否か」が物事の判断基準になっていって。「自分自身もエクストリームという言葉にしっかり乗らないといけない」という状況が発生してしまったといった経緯だったと思います。

こういう言葉は「これはキャッチーだ」「言った者勝ちだ」と思って使い始めるんですけど、最初はイメージがあやふやなんです。でも、「エクストリームとは何か?」という説明を周りに繰り返していくうちに、だんだん定義が固まっていくというか。だから、後から説明がついてくるという感じ。それで、なんとなく定義ができてきたら、満足してしまって使わなくなる。割とそういうところは飽き性なんですよ(笑)。

言葉や企画をキャッチーにさせるということについては、やっぱりいまだに意識していますね。特に、SNSの施策を行うときは「いかに流通させるか」が重要なので、みんなが使いたくなることだったり、いじりたくなるようなことだったり、突っ込みも含めた余地のようなものを残さないといけないとは思っていて。「エクストリーム系デザイナー」もそうですけど、だいたいの物事は「それって何?」というところからコミュニケーションが発生しますから。

高度な技術を駆使した先で、どう遊ぶかを考える

—そのことは、最先端技術のような難しいテーマでも非常に重要なポイントになりそうですね。

3Dプリンターのときは、まさにそうでした。結局3Dプリンターで何をやったかというと、先輩社員をスキャンして、3Dデータをつくって、出力して、大きな人形をつくって、Instagramで人形劇をやるという。一見くだらないんですけど、実は高度な技術を駆使してアウトプットをつくっている、というような。そういう遊びは大好きですね。やっぱり僕はコミュニケーションしたいので、みんながわかることに落と込みたいんです。

VRでグラビア系の仕事をやったときもそう。たまたま水着のメーカーの友だちがいて、「PR用のVR映像をつくろう」ということになったんです。そこで、「何をやったらおもしろいか」と話していたところ、そもそもVRは「何かになれるメディア」なので「シャワーヘッドになろう」という話で盛り上がって(笑)。実際、シャワーヘッドになれるVR映像はSNS上で高評価を得て、すぐに100万回再生に至りました。やっぱり、技術を扱いながら、そこから先の体験やコミュニケーションの部分を考えるのが好きなんでしょうね。

新しいチャレンジのために何かを諦めるという選択をする

—そうやって「おもしろいと思える仕事」「自分がやりたい仕事」を続けていくためには、会社との交渉も必要ですよね。意識していることはありますか。

僕の場合、入社2年目で自分で書籍コンテンツを企画・編集して、制作して、本を出すという経験に恵まれて。2010年3月に出版した『フリカケ素材集(design parts collection)』(アレフ・ゼロ著 ※現コンセント)です。上司が非常に寛容だったこともあって、そういう状況が若い頃からあったので、「やりたいことをしっかり求めれば、やらせてくれる会社なんだ」というマインドセットをもっていると思います。

ただ、同じようなマインドセットがあったとしても、そういったプロジェクトを形にするには、やりきるための能力はもちろんですが、やりきるための時間も必要です。簡単にはいかないことは知っています。

とはいえ、「時間はつくるもの」でもありますよね。そういう前提で仕事に向かえば、新しいチャレンジを目指す程度の時間は生み出せるはずなんです。それができないのは、単にそういう動き方をしたことがないからなのかな、と。実は僕、どんなに忙しいときでもチャレンジできると考えていて、「いつでも新しいことはやりますよ」と言っているんです。本当に簡単な話なんですけどね、時間は有限なので新しいことを始めるために、今までやっていた何かを諦めればいいだけの話だったりするんですよ。

あえて手を止めるのは、優れた表現に出会うため

—最後に、今後のビジョンなどがあれば教えてください。

どういうものになるんですかね……。本音としては、あまり「こうなりたい」ということは考えていないんです。今興味あることが、一番ホットなんですよね。

ただ、確実に言えることがあるとしたら、クリエイティブディレクターという肩書きになってから、「自分でつくる」ということを意識的にやめているということですね。というのも、「モノづくりのうまい誰かと一緒に仕事をしたい」という気持ちが強くあるので、それを実現するためには、自分の手を動かしていてはダメだな、そういう人に出会うチャンスが減っちゃうなと思っていて。だから、今後はひたすらそういう仕事の仕方にシフトしていくんだろうなとは考えています。

ただVRについては、まだ自分自身がつくっていたい。まだまだ「やってみないとわからない」という部分が多いですし、それを潜り抜けて形にするためにも、自分の手を動かし続けなければいけないな、と。それで、どこかのタイミングでなんとなく形が見えてきたら、「あとは、誰かよろしく」という感じになるのかもしれません。

/ 渡邊徹のデザイン力の育て方。

「人とコミュニケーションしたい」
「おもしろいことを人に伝えたい」
「コミュニケーションができさえすれば、手段は何でも良い」
「いつでも新しいことはやりますよ」
「やってみないとわからない」


/登場人物:クリエイティブディレクター 渡邊 徹
「見回す必然」をテーマに、視聴者に没入感を伴った映像体験を企画し、撮影、制作を行う。ジャンルをまたいでVR体験の可能性を探求するほか、教育機関や自治体で講師としてVRの活用法のレクチャーも行う。全天球映像作家・渡邊徹を中心としたチーム「渡邊課」課長。


インタビュー/柴崎卓郎 butterflytools
写真/牧野智晃 〔4×5〕


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