体調を崩したら『迷惑』ですか?

地元を出るまで、一部の方言を共通語だと信じて疑わなかった。みたいな。
当然のように刷り込まれて常識と思っていたことが、実は一般的じゃなかった。みたいな。

そんな自分の思い込みに、最近気付いたという話。


私は「体調を崩して看病してもらう」という経験がない。
小学生時代は毎月2〜3日ほど体調を崩して学校を休むような子どもだったので、客観的には、身体の弱いほうだったと思うが、看病された記憶がない。

私の両親は、体調を崩した私を家に残して仕事へ行くのが 普通 だった。
誰もいない家で一人で寝ているのが 普通 だった。

小学校を休んだ日は昼食を用意してもらえないのが 普通 だったし、病院に連れていってもらえないのも 普通 だった。
「お腹が痛い、休みたい」と言う私を、両親は迷惑そうな顔で見ていた気がする。
幼い私は「体調を崩したら迷惑だと睨まれる」のだと覚えた。

そして、親元を離れて一人暮らしをするようになっても、その認識は変わらなかった。

過呼吸を起こした私を見て「迷惑だ」と怒鳴るような人と交際していた時期もある。
息が苦しくて吐きそうになりながら、迷惑をかけて申し訳ないと考えていた。それが 普通 だったから。


ここまで書けば察していただけると思う。
最近気付いた「思い込み」は、体調を崩した家族に対して迷惑だと睨むのは 普通じゃない ということ。

衝撃だった。カルチャーショックと言ってもいいと思う。
私が体調を崩したら「迷惑だ」と睨まれるのが普通だったから、それ以外の可能性は考えもしなかった。

あるとき胃痛で動けなくなっている私に対して「家事も仕事も休むように」と言って、食事を用意してくれた人を見て、何が起きているのかと混乱した。
病院まで車で送迎すると言われたときは、申し訳ない気持ちで余裕をなくした。

体調が落ち着いてから「家族が病気になったら休ませるのが当たり前で、元気な人が家事を担当するのも当たり前だ」と説明してもらった。
曰く「寝込む家族を見て迷惑だと考えたことはない」とのことだった。


自分の行動を振り返ると、同僚が体調を崩したら当然のように「私が代わるから休んで」と言っていた。
身近な人が体調を崩したときに迷惑だと考えたことはなかった。

そういえば実家で暮らしていた頃、母が体調を崩したときは私が家事をしていた。寝込む母を見て迷惑だとは全く考えなかった。

本当におかしな話なのだが、私自身が体調を崩したときだけ「迷惑だ」と自分を責めていた。
その矛盾に、全く気付いていなかった。

幼い頃から小説も漫画もたくさん読んでいたので、登場人物が病気や怪我で看病されるシーンを読んだこともある。献身的な看病に感動したことも少なくない。
それなのに、私自身が看病されることは微塵も考えなかった。

これが思い込み、もしくは刷り込み、先入観。

今更と言われるかもしれないが、思い込みに気付く機会も得られて幸運だったと思う。