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井上さんと一緒に、「もったいない子育て」をやめる旅に出た#5

(5)分かりやすい成果を最短で求めるのではなく
「これで私は子どもの手を離せると思った」

 ヨーロッパでの留学体験プログラムの経験を高1のAくんがシェアしてくれたCo-musubiミーティング(#1参照)の話を続けます。

 Aくんは、今回の経験の中で「英語の学び方が分かった」と話してくれました。

 Aくんは自分自身が英語が得意でないと感じていました。プログラムのほかの参加者の中には英語を流暢に操る高校生もいたそうです。

 そこでAくんは、ほかの人たちが話す英語を、それぞれのクセを覚えてしまうくらいまで、とにかく集中して聞いたそうです。井上さんによると、Aくんは小学生のころから観察力に長けていて、その力を発揮したのだと言います。

 Aくんは、「今回の経験で分かった」という英語の学び方について、スポーツに例えてこんな風に表現しました。これまで日本で自分がしていた受験英語の学び方は、うまいコーチに教えてもらう手法だった。一方、今回のような英語の学び方は、うまい選手をじっくり観察して、その人のまねをすることで上達する方法、だと。Aくんは現時点で海外大学進学を目指しているとのこと。自力でつかんだ英語勉強法がこれからさらに生かされるでしょう。

 「Aくんはアナロジーが得意です」と井上さん。ここでいうアナロジーとは、類似しているものを用いて類推する手法を指します。「Co-musubiでは例えば、宮沢賢治をテーマに文学と科学を同時に学ぶなど、教科を横断した内容に取り組むから、子どもたちは自然と少しずつアナロジーができるようになります」

 Aくんは「聞いてくれてありがとうございました」と話を終えました。Aくんは、コンフォートゾーンを出て挑戦をして、自分で工夫して新しい環境に適応する方法を見つけ、その経験から得た本質的な気づきを自分の次のステップにし、さらにその気づきを後輩である小中学生に伝えました。そんなAくんの姿を見て、Aくんの母親は「これで自分は子どもの手を離せると思った」としみじみ感じ入っていたそうです。もちろん経済的なサポートは続きますが、精神的には手を離せたのです。

 こうした力は、長い時間をかけて、発酵するように育まれる力です。

 目に見える分かりやすい成果を打ち出す習い事や塾は世の中にたくさんあります。短期的な成果を期待しているのは実は保護者のほうで、保護者のニーズに沿うために、教育産業は即効性を打ち出している可能性はあります。親のニーズの大元には親の不安があるかもしれません。

 今や、AIが人間の能力を補ってくれる時代です。人間に求められているのはどんな力でしょうか。自戒を込めて、親が変化したほうがいい時代が来ているように思えます。

(次回#6に続く)



書き手:小林浩子(ライター・編集者/小学生の親)

新聞記者、雑誌編集者などを経て、フリーランスのライター・編集者に。 自分の子育てをきっかけに、「学び」について探究する日々を重ねる。現在、米国在住。



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