見出し画像

何年経っても正解がわからない【#心の柔軟体操】

休憩時間にスマホをポチポチやっていると、気になるまとめ記事を見つけた。某歌手が後輩歌手の曲を番組で披露して話題に、といった内容だった。

なぜ話題になったのかと言うと、後輩歌手はすでに故人だからだ。自殺と思われる。状況証拠的には確定なのだけれども。

なぜ気になったのかというと、その後輩歌手のつくる歌がとても好きだったからだ。孤独に生きる人たちに寄り添う歌を、詞を、世に産み落とすのが天才的にうまかったと私は思っている。

創作の才能があったとも言えるし、彼の共感力が異様に高かったとも言えると個人的には思っている。

アイドル歌手だった彼は、ファンや人々とコミュニケーションをとりつづけたい、自身の価値観を更新しつづけたいとの意欲を感じる人だった。

創作のインスピレーションを受けるとして女性を「ミューズ」と表現した彼の視座を咎められた時も、憤慨するのではなく、自身のまなざしのどこに問題があるのか知りたがる人だった。

咎めたことをきっかけにやりとりした人は彼の姿勢に感動し、DMの内容を公開したが(本人承諾)、恐ろしいほどの真面目さにギクッとしたものだった。芸能人なのに(?)居丈高に応対する様子はまるでなかった。

あまりにも真摯で、あまりにも謙虚で、あまりにも誠実だったと私は思う。そんな彼がつくる楽曲たちからは、心のどこかにある癒えずにじゅくじゅくとした傷を、柔らかく覆うような、慈しみを感じたりもした。

孤独で気が狂いそうになった時、彼の歌に励まされた。歌詞一つ一つにわんわん泣いた。電車に揺られながら、ぽろぽろ泣いた。死なずに済んだのは彼のおかげだった、大袈裟ではなく。

未だに彼の死を知った場面がありありと浮かぶ。アルバイトを終えて、遅めの夕食をとっていた。父の承認欲求満載なうんざりトークをかわすべく、Twitterを回遊していた。スクロールの合間に「〇〇さん、遺体で見つかる」との文字列を見つけた。訳が分からなかったが、反射的に私のどこかから悲鳴があがった。

震えが止まらなかった。嘘だと信じたい。嘘だ。そんなはずない。そんな…。事務所の発表を寝ずに待った。その間に出てくる記事を見て、体からどんどん力が抜けていった。こんな詳細が出てくるということは、誤報ではないのだろう、と。

深夜未明、ホームページに掲載された文章を読み、頭が納得した。お通夜の様子を報じる記事や写真を見て、頭だけは更に納得した。彼はこの世にはもういないんだと。いなくなってしまったのだと理解した。

ifが存在しないことは百も承知で書くが、私は前述した彼の真っ直ぐさにずっとドキドキしていた。弱さや不条理に寄り添う作品をつくる彼には、この世界がどんな風に見えているのだろうか。彼の心は果たしてダイアモンドなのだろうか?と。

もっと不遜で良いのに。もっと胡座かいて生きても良いのに。ファンの知らないところではそうなのかもしれないけれど、みんなをそっと包み込んで、あたためてくれる彼を、傷に寄り添って自分まで傷ついてしまいそうな彼を受け止めるのは、一体誰なんだろう?

どんな理由で亡くなったのか一生分からないし、どうすれば生き続けてくれたのかも分からないし、誰が追い込んでしまったのかも分からない。もう二度と分からない。

でも、彼の創作物で救われていた身としては、彼の優しさに甘んじていた自分を恨めしくも思う。ファンの分際ではどうにもできなかったけれど。

手をこまねいて彼の死を見届けてしまった自分の息の根を止めたくなる瞬間がないと言ったら嘘だ。薄皮の向こうの不穏さを感じていたのだから。いつかこの人はいなくなってしまうんじゃないかって、心配していたのだから。

芸能人とファンの関係の虚しさも感じた。所詮、無力なのだ。お金で愛を示しても、本人の救いにはならないこともあると分かってしまった。受け止めるには残酷すぎる。

楽曲に魂が宿るなんて、手垢のついた言葉は聞くけれど、自身を削ってまで楽曲製作をしていたのなら、そこまでしなくても良かった。少し鈍感でも私はあなたを応援したのだけれどと、応援されていた側なのに軽率にも思ったりする。

いつまで経っても、この出来事に答えは出ない。正解を出さない選択をとるのは、逃げなのだろうか。時々思い出しては、何かで紛らわして生きていくしかない。

生きるのをやめたくなっても、幸い私には彼の歌があるのだから。

日付:2019年10月2日(水)、執筆時間:約40分?、場所:自宅、音楽:なし

振り返り:職場で流行っている風邪をもらった気がする。

毎日、仕事の休憩時間にエッセイ?を書き続けている方をとてもリスペクトしており、毎日ではなくとも書いてみようと思い立ってみた。#心の柔軟体操 と名付けてみた。本当は心の筋トレにしたかったけど、既出だったので。出勤か退勤時に書ければいいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?