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まなかい;立冬55候 『山茶始開(つばきはじめてひらく)』

「山茶」は中国では概ね「ツバキ科」を指すようです。同じツバキ科のお茶も古くから栽培されていたようですから、それに対する名前でしょうか。日本では山茶花(サザンカ)にこの字を使うことが多いですし、立冬前後から開花が見られ、紅葉と合わせて見ることができます。はじめの写真は箱根の庭園で撮ったものです。右側の明るい緑が山茶花です。歌い継がれていく命の歌は、前の命の残響のうちに溢れてきます。

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国語の「つばき」の由来は諸説あります。ここでは、日本原産の代表的な照葉樹林の木の代表として「藪椿」のことを。例えば「艶のある葉っぱの木」。万葉集の「巨勢山のつらつら椿つらつらに、、、」という歌など、冬の光を浴びてツヤツヤ光る葉が密集し、連なっている感じがあります。「唾の木」ではないか、ということも言われます。それは、蜜がたくさんできて、樹下にいるとそれが垂れてくるから。実際、鳥媒花でもある椿は、赤い色で目立って鳥を招き、丈夫なカップの底に蜜をたくさん蓄えています。ヒヨドリやメジロが頻りに花を訪れます。甘い蜜は冬の寒を凌ぐ鳥たちの大いなるエネルギーとなるでしょう。

石牟礼道子さんの作品に、椿はよく描かれます。大好きな『椿の海の記』や『あやとりの記』にも、少し前に出た藤原新也さんとの対談本『いのちふるはな』にも、印象深く描かれています。

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彼女の描く物語には、アニミズム的な、生き物との境界がそもそもない自由な意識の流れがあって、それは嬉々として、共に鳴り交わしている懐かしさがあります。また、多くの植物はあの世とこの世の渚のようなもので、あちらのものが寄り付く、依代です。豊かな世界と繋がっている象徴として描かれているものの一つが椿です。

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赤という色は、太陽や火の色であり、血のいろ、大地の色でもあります。鉱物の水銀から取れる丹色でもあり、エネルギッシュな力を持っています。強力な力は、善にも悪にもなり得ますから、椿の花に妖しさを感じたりもします。たくさん咲く花は怖いくらいに見えることもあるでしょう。冬に葉を落とさない常磐木でもあり、寒風や霜、海風にも負けない、むしろそんな環境で逞しく艶々としている、命あふれる、命横溢する春を招く木として、国字である「椿」が生まれたのではないでしょうか。

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