まなかい 小雪 第59候「朔風払葉(きたかぜおちばをはらう)」
樅の木を一本買った
毎年ご依頼くださるお客さんのところへ運んで飾り付けをするのだ。
植木問屋さんの樅の木置き場の横には大きな欅が何本か立っていて、樅の木も落ち葉にまみれて、懐のある樅の枝の間にも積もっている。
それも素敵なので、そのまま枝折って包んでもらう。
一晩車に積んでおいて翌朝納品に出発するとき、助手席前のダッシュボード上で動くものがあった。
背中にたくさんの落ち葉を載せた小さな虫が這っていたのだ。フロントガラスから外でも眺めていたのか、突然エンジンがかかって驚いたのかもしれない。
それは草蜉蝣(クサカゲロウ)の幼虫だった。
周りに落ちているもので上手にカモフラージュする。
幼虫は肉食なので、背中についている鉤状の毛にこうしたものをつけて獲物に知られず近づくのだろう。
成虫は草の葉のような薄い緑で、透き通った羽根を持つ。ほぼ口が退化しているとされ、交尾のために生きる。性と死が宿命づけられていて、儚さの代名詞ともなっている。
葉に植え付けられる卵は葉裏に雨を避けるように細い糸で吊られている。「優曇華」というこの世ならぬ花の名を持つ。
幼虫の顎と、蜉蝣や優曇華という呼称にはちょっと乖離を感じるが、目をはぐらかす習性を持っているということだから一貫性はあるわけか。
北風木の葉を散らす。
その葉を背中に乗せて落ち葉に隠れるハンター。
枯葉のコートをふわっと羽織ったお洒落は、獲物も敵も撹乱する。
欅の落ち葉をカットして、乗せてる姿は微笑ましい(感じがする)。強靭な顎は、案外繊細な動きをするのだろう。
落ち葉はいろんな色があるから、いろんなファッションの彼らをみてみたい。
でも、踏んでしまっても気がつかないだろうなあ。。。やはり儚い虫なのだな。