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【グッズ】項目4. プロスポーツクラブのグッズにおける「発注」の怖さと面白さ

前回の投稿から時間があいてしまいました…。10年近く前のことを色々と思いだしながら、夜に時間を見つけて書いているので、不定期ですいません...。

この項目ではJリーグをはじめとしたプロスポーツクラブのグッズの「発注」について書きたいと思います。

1.売上を確保するためには『発注しなければいけない』

前回のnoteでも書きましたが、年間「100,000千円」の売上目標を達成するためには、(上代/売価ベースで)少なくとも80,000千円以上の仕入が必要ということが分かります。

売上を確保するためには「発注しなければいけない」のですが、在庫が多くなって仕入予算を確保するのが難しくなってくると、どうしてもその考えがなくなってきてしまいます。

発注は自動車の「ガソリン」のようなものだと思っています。タイヤを動かすためには商品が必要です。古くなったガソリンでも車は動きますが、辿り着きたいゴール(売上目標)のために、どれだけガソリンが必要か(足りないか?過剰か?)を考えて発注します。

ただ、発注するだけであれば「発注書を書いてメーカーに送る」だけなので誰でもできます。では、何を考えて発注をすべきか?

現在の在庫状況や、お客さんのニーズや、世の中の流行や倉庫キャパなど...考える要素はいくつもありますが、まずは「商品カテゴリー」で考えていきます。

合計100,000千円(売価ベース)で、期末在庫である20,000千円を引いた80,000千円の内訳を仮に↓だとします

①ユニフォーム 20千円×2,500着=50,000千円
②主力定番商品(タオルマフラーなど)10,000千円
③選手展開グッズ 5,000千円
④季節商品 2,500千円
⑤その他雑貨 2,500千円
⑥受注企画商品 10,000千円

次に考えるのは、それぞれのカテゴリーごとの「発注タイミング」です

2.発注タイミング(ユニフォーム・季節商品・その他雑費)

それぞれのカテゴリーごとに恐らく発注タイミングは以下のようになります、

①ユニフォーム:年1回
②主力定番商品:年10回~
③選手展開グッズ:年10回~
④季節商品:年1~2回
⑤その他雑貨:年1~2回
⑥受注企画商品:企画数に応じて

①のユニフォームはサプライヤー(メーカー)によって発注時期は違いますが、シーズン開幕の「6か月~1年前」にユニフォームのデザインと発注数量を確定することが多いのではないでしょうか。(もっと早いタイミングで発注が必要なサプライヤーもあるかもしれません)言い換えれば「追加発注は基本できないので、無くなったら完売。シーズン終了までに売れ残ったら「死に筋商品(不良在庫)」となります。

項目1でも触れましたが、ユニフォームが1枚売れて、そのクラブに残る収益は6%。クラブ直営販売の場合でも43%です。
100枚仕入れて、43枚売れ残ったら赤字(実際には販管費が掛かっているので、もっと厳しい数字になります)

クラブの売上の半分以上を占めるユニフォームが年1回しか発注できず、シーズンが始まる半年以上前にデザインと数量を決めなければいけない。もし発注数を誤ってシーズン途中で無くなったら機会損失。少しでも売れ残ったら不良在庫。
Jリーグ時代から多くの人と話をしてきましたが、ユニフォームは本当に大切な商品で、クラブのアイデンティティとファン・サポーターのロイヤルティにとって最重要アイテムですが、「どうやってユニフォームだけに頼らないMD」を実現するかは長年の課題です…。

同じように、「④季節商品」の「⑤その他雑貨」は年1回~2回の展示会、またはシーズン開始前のメーカーとの企画によって発注します。その際に考えなければならないのは、「現在の在庫で来シーズン以降も売れるもの」と「新たに仕入れるもの」を組み合わせてラインナップを作ることです。
キャップが何型もあるのに、夏物でキャップを大量発注するのは在庫を増やすだけですし、冬物のコート類の在庫がないのに仕入れていないと冬場の売上を確保することが出来なくなります。

3.発注タイミング(主力定番商品・選手展開グッズ)

「ユニフォームだけに頼らないMD」を実現させるために大切なのが、この「②主力定番商品」と「③選手展開グッズ」です。

②の主力定番商品として大きいのがコンフィットシャツ(プレーヤーズTシャツ)とタオルマフラーです。

コンフィットTシャツとは、お手頃な価格で応援するクラブののウェアを身に着けて応援したいという方向けグッズ。‟コンフィットTシャツ”という名前は‟快適(comfy)なTシャツ”という意味の造語です。クラブによっては「プレーヤーズTシャツ」や「プレコンTシャツ」などと呼ばれています。

次の主力定番商品は「タオルマフラー」。マフタータオルとも呼ばれていて、いまやJリーグ以外にもスポーツ観戦には必須のアイテムですが、1994年のJリーグ開幕の頃に生まれた商品のようです。
当時グッズ企画をされていた方からお話を伺ったことがあるのですが、その歴史やお客さんのニーズを捉え方など、タオルマフラーだけでNoteが書けそうなので、どこか別の機会にぜひ書きたいです。

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その2つ以外にも、Tシャツやフラッグや野球であればメガホン。選手展開グッズであれば、リストバンドやキーホルダーなどもありますが、それぞれの発注タイミングを考えるときに大切なのは「納期(リードタイム)」と「発注ロット」です。

グッズ担当者であれば「何を当たり前なことを…」という感想だと思いますが、このNoteは「初めてグッズ担当になった方」に向けて書いているので、もう少し詳しく書かせてください…。

例えば、
●「開幕後の2月末に●●選手のタオルマフラーが300本あった」とします。
●5月頭のGW試合まであとホームゲームが4試合あり、1試合平均で70本売れることが予測されます。
●GWには2試合ホームゲームが予定されており、いつもの試合より入場者数が多いので、1試合で100本以上売れる可能性があります
●このタオルマフラーの納期が「4週間」で発注ロットが「100本」だとすれば、いつどのタイミングで何本発注すべきでしょうか?

本当は6月以降の試合数なども考えなければいけないですが、本当にざっくり考えると、「3月末に200本」発注すると、4月末には「在庫20本+仕入れ200本」なので、GWの2試合ホームゲームで欠品もなく過剰在庫にもならない数となります(本当は欠品が怖いので、もう少し多めに発注するかもしれません...)

理想は「②主力定番商品」と「③選手展開グッズ」に関しては、サイズやカラー、選手展開など、それぞれの単品単位で「納期」と「発注ロット」を考えて発注する「単品管理」の考え方です。

単品管理については、色々な本が出ていますが、オススメはこの本です。

前述の通り、発注を見誤ると大きな損害になる怖さと、自分の仕掛けた発注がクラブの利益とファン、サポーターの体験となる面白さ。

その2つの重みを背負って行うのが発注です。


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