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【集客】コロナによってスポーツ観戦の価値はどう変わったか?

グッズとは少し話題が違い、本noteの趣旨とは離れますが、コロナ禍でこの1年間ずっと考えていたことを少しずつ文書化していきたいと思います。

1.スポーツ観戦の価値「マーケティングとは?」

コロナによる影響を考えたときに、一番大きな壁になったのは「スポーツ観戦の価値は何なのか?」という悩みでした。

「なぜテレビではなくスタジアムに観戦に行くのか?」
「サッカー観戦で得られる体験と、それに費やすコストやハードルは?」
「毎試合スタジアムに来ている人と、年に1~2回スタジアムに来る人はスポーツ観戦に求めるものが違うのではないか?」
「都市圏のスタジアムと、地方のスタジアムでは来場回数が同じでも、観戦に求めているものは違うのか?」

コロナ禍になって、改めてそんな根本的なことを悩んでしまっていることが情けなくもあり、「マーケティングとは消費者理解」という言葉を痛感した1年でした。

2.消費者理解×デジタルマーケティング

2019年は、Jリーグ全体でデジタルマーケティングに取り組んだ成果もあり、入場者総数が史上最高の634万9681人に達し、1試合平均でも2万0751人とJリーグ史上初めて2万人台を突破しました。

いままで、チケットを購入してくれた顧客のデータはチケット販売事業者であるプレイガイドやコンビニ各社が保有しており、クラブでは活用が出来ていなかったところが、「Jリーグチケット」によるチケット販売が主となり、購入データの把握が可能になりました。
それに伴い、新しいファンを獲得するための「招待・優待チケット」においても、大量のチケット原券の”印刷”と”配布”だけに留まっていて「招待券を受け取ったい人が来場したのか?」「2回目以降の来場につながったのか(ファンになったのか)」も全く分からなかった状態から抜け出すことが出来るようになりました。

また、チケット販売以外にもワンタッチパスと呼ばれる入場管理システムも、チケットの認証・入場管理という枠を超えて、スタジアムイベントによる来場者の観戦体験の向上や、現場での運用コストの削減にもつながっています。
「Club J.LEAGUE」のアプリでは、ファン・サポーターのタッチポイントの増加だけではなく、観戦チェックンによるマイレージサービスや新規ファン獲得のための「誘い誘われ」の仕組みが出来上がり、グッズ販売もPOSデータの活用やオンラインショップ購入・ページ閲覧履歴に応じたWeb接客により確実に売上を拡大させています。

デジタルマーケティングの最大の強みは「データの蓄積と活用」です。

ただ、デジタルマーケティングだけで、最多の入場者数を達成できた訳ではなく、Jリーグの入場者数が減少していた2007年から始まった「イレブンミリオンプロジェクト」や各クラブのファンディベロップメントの活動により、ファン・サポーターにサッカー観戦の価値を提供する(顧客の創造≒消費者理解)という土台が出来上がっていたことが大きな要因になっていたと思っています。

3.コロナによってスポーツ観戦の価値はどう変わったか?

コロナによる影響は2つの側面があります。

1つは「応援スタイルの変化」です。

テレビではなく、スタジアムでスポーツを観戦する理由は様々ありますが、その中でも大きいのが「観戦≒参戦」という考え方です。

プライベートで、コロナ禍によりスタジアムで鳴り物や声を出しての応援が制限されている試合を観に行った時のことなのですが、ピッチでボールを蹴る音や選手同時の声だけが聞こえている状況で、ボールがタッチラインを割って一瞬の静寂が訪れた時に、小学生ぐらいの男の子が「がんばれー!」という声を出してしまい、その声がスタジアム中に響いたことがありました。

声を出して応援するのがNGの状況なので、決して褒められた行為ではないのですが、「自分自身も試合に参加して戦っているからこそ、負けたら本当に悔しいし、勝ったら涙が出るぐらい嬉しい」というのはスポーツが提供することの出来る大切な体験価値だと思っています。

テレビやインターネットで海外のサッカーを観ることも楽しいですし、Jリーグにもサッカーを競技として楽しんでいる人も多いです(私自身も、どっちのチームを応援するでもなくスタジアムに試合を観に行くのは、この楽しみがあるからだと思っています)
ただ、「本当にこのチームに勝ってほしい。勝ちたい」と思ってスタジアムに観戦に来ているときに、声が出せないというのは、スタジアムでの観戦価値を大きく左右する要因になります。

2つ目は「スタジアムに行くことのコストの増加」です。

そのコストにも「金銭的なコスト」「心理的なコスト」があると感じており、コロナで労働や消費環境が変化したことによる「金額的なコスト」では、自分自身も趣味のスポーツ観戦や本・漫画の購入を控えるようになったり、家族で外食や旅行に行くことも激減しました。

過去にはスポーツを観戦する目的で、いくつかのクラブ・球団のファンクラブに入会していたのですが、このコロナ禍のために観戦もできなくなりファンクラブを解約しました。
また、休日の過ごし方として子供と図書館や公園に行くことが増えて、書店やAmazonでの本の購入機会や遠出した外食・旅行が減ったことにより「スポーツ観戦、本、外食、旅行にかけていたコスト」が、今までより負担の大きいものに感じるようにもなりました。

また、金銭的なコストだけでなく、コロナ禍の中でスタジアムに行くという「心理的なコスト」の影響もあります。

実際はスポーツ観戦は、コロナに感染する3密のリスクは「散歩と同程度に低い」という調査結果も出ています。

ただ、コロナに感染する3密のリスクが低いことはわかっていたとしても、スタジアムに観戦に行くことで、「家族やまわりの職場の人に対して説明しなければいけない」「もし万が一、何かあったときになんて言われるか分からない」という心理が働いてしまうと、観戦に対する心理的なコストは膨れ上がります。

音楽関係者とコロナによる影響ついて情報交換する機会があり、「音楽ライブを観に行った学生が、2週間後にそのライブの感想をSNSに投稿するようになった」という話を聞いたことがあります。
ライブを観に行って、2週間たってコロナが発病せず感染していないことがハッキリして、ようやくライブの感想をつぶやけるようになるそうです。。ライブエンターテインメントに対する世間の風潮や来場者の心理的なコストの大きさを思い知りました。

4.スポーツ観戦のマーケティングを考え直す必要があるのか否か

「マーケティングは消費者理解」だとすると、コロナにより消費者の心理や行動が変わった状況において、改めてスポーツ観戦のマーケティングを考え直す必要があるかもしれません。

しかしながら、スポーツ観戦の価値を変える(≒スポーツ観戦が提供できる価値・ブランドを変える)ためには、ビジネス面で大きな変革が必要になります。
それに対する金銭や人員の投資が必要ですし、今までスポーツに興味が無かった人が新たにファンになってくれる可能性もありますが、今まで足しげくスタジアムに来てくれていた人に対して価値を提供できなくなる危険もあります。

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大きく変革するのではなく、星野リゾートでは、この記事にもあるように、長期目標であるブランド戦略を捨ててでもコロナの期間はできるだけキャッシュを蓄えて、マイクロツーリズムで息を繋ぎ、GoToトラベルを機会とする「アフターコロナの需要回復期」に備えるという方針を打ち出しています。

世界のスポーツでは、ワクチン接種が進むアメリカのMLBで試験的とはいえ入場者数の制限を取っ払って100%収容で4万人以上の観客が観戦するという空間も戻ってきました。

コロナによる在宅勤務によって、職場と家庭の境界が曖昧になり、旅行やイベント、飲み会といった非日常空間が少なくなっている状況だからこそ、スポーツ観戦の価値は高まっているかもしれないと思うこともあります。

昨日から新学期が始まって、下の子が幼稚園から帰ってきて「友達の家に遊びに行きたい。コロナ嫌だ」って泣いている姿を見て、「もしコロナがなければどうなっていたのかな…」とタラレバな無駄なことを考えてしまうこともありました。

どちらの方向に舵を切るかは今後のスポーツ観戦のマーケティングにとって本当に大きな決断だと感じており、その答えがまだ見い出せずにいますが、悩んでいるだけでは前に進めないので、歩みを止めないように考え続ける事と、色々な考え方や意見をぶつけて議論することで前に進めると思っています。


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