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ある計画

「何月何日何時何分、放課後、Tに頼んでカニ公園に呼び出して殺す」
自由帳に書かれたその文字を、私は知らない。

昼休みになると、ひとりの男の子の机の周りに、クラスの男の子たちが集まってきた。「みんな仲がいいんだな」と彼らを横目に図書室に行く。教室に帰ってくると、慌てたように散り散りになっていく。たくさんの目が私を見て、そらした。なんでだろう。

よく晴れた日、図書室は整備のため休室で、教室で過ごすことにした。特別な理由はなく、ただいるだけ。休み時間になっても移動しないこちらを一瞥して、「ねぇ~、どこでやる?バレちゃうよね?」と聞こえてきた。

当時の席は、先生の近くだったから、「先生にサプライズを計画しているんだ!いつもやんちゃばっかりしているのにかわいいな」なんて思って、席を立ちお手洗いに行った。

数分後、教室に戻ってくると、いつもは男の子しかいない輪の中に数人の女の子たちがいた。

「職員室行くよ!!」
女の子たちに勢いよく言われた。私の手を握り、彼らから遠ざけようとする真っ赤な顔の彼女の手は震えていた。

「殺されちゃう…」
その蚊のように小さい声が私に向けられたものだと知ったのは、1時間後だった。

先生は彼らと私が話し合う場をつくった。クラスでリーダーを務めることは多かったし、今思えば先生にも気に入られた優等生だった。

「静かにして!」
「早く行こう!」

先生の助けになると思って、「正しい」と思って発した言葉の数々は、周囲からあまり好意的には見えなかったらしい。

具体的な殺害計画が練られていて、日程や流れ、当時家の近かった友人を利用することについても記されていたと先生から聞いた。何を言っているのか正直よくわからなかった。

私が死ぬかもしれなかったということ、刃物で人を刺すなんてドラマの世界にしかないと思っていたことがおこったかもしれないということ、どれもあまりに現実離れしていた。彼らの私の振る舞いに対する怒り、私の殺害計画を行ったこと、相互に謝罪をして事なきを得ようということだったようだが、形式上の謝罪なんて意味をなさなかった。

彼らに近づくことが怖くて、いい人が大半だって知っているのに、今も無条件に男性と接することに構えてしまう自分がいる。

彼らにとって、私はそれだけ大きな害だったのか。小学校を卒業して以来、小学校の頃の友人とのつながりはほとんどなくなった。

近くにいても知らないことは多い。彼の真意を、私は知らない。でも、私の人為的な死の恐怖におびえる人が私のほかにもいてくれることを、私は知っている。                                     
                  text/みり

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