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ルノアールと気円斬

あれはいつ、どこのルノアールだったか。

「俺にクリリンぐらい戦闘力があったら、気円斬で斬り刻むとこだったわ」

少し離れた席から、吐き出した煙草の煙とともにそんな声が流れてきた。
声の主は20代くらいの男性。
どうやらここにはいない誰かに対して怒っているらしく、同席の友人と話している。

私の耳に届いたのはこの一言だけだったが、いくら座り心地の良いルノアールの椅子とはいえ、長時間のPC作業に些か疲れを感じはじめていた私にとって、格好の気分転換になりそうなスパイシーなセリフだ。
私は新しい煙草に火をつけ、天井を眺めながら煙を吐き出した。

「俺にクリリンぐらい戦闘力があったら、気円斬で斬り刻むとこだったわ」

この言葉からわかるのは、
①発言主である彼(仮にAとする)が「クリリン以下」の戦闘力であること
②怒りの矛先を向けている誰か(仮にBとする)は「気円斬で斬り刻める」程度の戦闘力であること
③「Bを斬り刻みたくなるほどの事態」がAに起きたこと

の3点だ。順に考えてみよう。

①Aが「クリリン以下」の戦闘力であること

①に関しては、ごく一般的な地球人が地球人最強のZ戦士として名高いクリリンの戦闘力を上回ることは不可能に近い。Aが地球外生命体である可能性も完全に否定はできないが、パッと見普通の青年なので、おそらくごく一般的な地球人なのだろう。なのでクリリンより弱いことは自明だ。戦闘力は一桁であろう。

②Bは「気円斬で斬り刻める」程度の戦闘力であること

②に関しては、「Aがいつのクリリンの話をしているのか」という点がわからないが、クリリンが気円斬を初めて使ったタイミングで、読者の記憶にも最も残っているであろう、自称エリートサイヤ人であるナッパと戦った時のことであると仮定する。
そうすると、「気円斬で斬り刻める」程度の戦闘力ということは、ナッパと同等か、それを少し上回る程度の戦闘力をBは有している可能性がある。

私はスマホで「ナッパ 戦闘力」で検索してみた。するとナッパの戦闘力には諸説あるようだが、公式では4000らしい。ならばBの戦闘力は最大で5000くらいはありそうだ。ナッパ戦の悟空(平常時)と同じだ。そりゃスカウターの故障だぜ。

一方で、「Aはクリリン化しないとBには勝てない」という点も見逃せない。
つまり一般の地球人では太刀打ちできない相手だということだ。
ここで私は、おもむろに「ミスターサタン 戦闘力」を検索する。一般人最強たる彼の数値はどうやら「18」のようだ。

この時点でBの戦闘力は、かなり緩く的を絞ると概ね「20~5000」のどこかということになる。かなりガバガバだ。もう少し考えてみよう。

「クリリン 戦闘力 ナッパ戦」を叩く。はじめはだいたい1000前後で、戦闘中に1800程度まで上昇したようだ。ここでは間をとって「1500」としてみよう。

あの時のナッパはクリリンを舐めていたから気円斬で殺されかけたわけで、ぎりぎりのタイミングでも避けることができていた。
そしてここルノアールにおいて、Aは「Bをボコりたい」つまり「余裕で勝ちたい」という意味で
「俺にクリリンぐらい戦闘力があったら、気円斬で斬り刻むとこだったわ」というセリフを放った。
つまりBは、気円斬を余裕で避けられるような高い戦闘力ではない、ということだ。少なくともナッパよりは弱いはずだ。余裕で勝てる、という意味ではクリリン以下なのだろう。つまり1500以下だ。

次はBの戦闘力の下限を再検討してみよう。
仮にBの戦闘力が500程度だとしたら、わざわざAはクリリン化せずとも、ヤジロベー(800)化すれば事足りる。余裕を見たければスポポビッチ(1050)化すればよい。つまりBはもっと強い。

そうすると、Bの戦闘力は「1000~1500」あたり。
ラディッツ(1100)やサイバイマン(1200)あたりが適正かもしれない。

仮にBがサイバイマンであれば、原作よろしく拡散エネルギー波のほうが効率よく戦えそうなので、あえて「気円斬で余裕でボコる」ということを考えると、「B=ラディッツ」である可能性が極めて高くなってきた。そうか、このルノアールにいる青年は、どこかでラディッツと対峙した経験があるのだろう。

③「Bを斬り刻みたくなるほどの事態」がAに起きたこと

ここでようやく「AとB(以下ラディッツ)の間に何が起きたのか」を考える準備が整った。

ラディッツをはじめとしたサイヤ人たちは、フリーザの指揮下で惑星を移動しながら、地上げ屋のようなことをしていたはずだ。Aがラディッツに出会うとしたら、サイヤ人たちの「仕事中」である可能性が高い。彼らに因縁が生まれるとしたら、「侵略する側」と「侵略される側」であったと考えるのが妥当であろう。
おそらくAの星は、サイヤ人に滅ぼされた。そこで生き残ったAは、ラディッツに復讐を誓ったのだ。Aの星は、サイヤ人の中でも戦闘力の低いラディッツでも侵略できるほどの生物しかいなかったのだろう。


・・・ここまで考えたところで、気づいた。
なぜAは地球にいるのか。そしてなぜ、クリリンのことを知っているのか。
そして私は何をやっているのだろうか、と。

Aが件の言葉を口にしてから、そこそこの時間が経っていた。
私の手元のノートPCは、ずいぶん前にスクリーンセーバーが終わり、真っ暗になっている。時刻は未明に差し掛かるところ。私がサクッと終わらせるはずだった作業の締め切りは、あと数時間。


あれはいつ、どこのルノアールだったか。
あの日も私は、つまらぬ妄想をしてコーヒーのお代わりを注文することになってしまった。



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