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兄への鎮魂歌: (顕)

今日はちょっと不思議なお話を書きます。

今思えばコロナ禍のまだ入口だった2020年の夏、兄に突然末期の肺癌が見つかりました。手術はおろか、他の治療法も既に行うのが厳しい状態だったようです。

妹であり医者である私も面会できず、主治医もコロナ病棟に借り出されて交代になり、十分説明も受けないまま1か月が経ちました。

ようやく面会できたのは亡くなる3日前でした。効くか分からないが免疫チェックポイント阻害剤を使ってみるか、あとは緩和療法、という説明を義姉とともに聞きました。

兄にとっても久しぶりに私たちの姿がナースステーションの向こうに見えたので嬉しかったのでしょう、ベットから転げ落ちそうな勢いで起きあがろうとして、看護師に止められていました。

普段あまり喜びを表現しない兄だったので、あんなにも嬉しそうな行動を見たのは、後にも先にも初めてでした。

しかしその後まもなく、8月の終わりに兄は亡くなってしまいました。新聞記者をしていて、既に引退はしていましたが、まだまだ元気で暮らしていたのに残念でした。

喪失感の中、私は夢を見ました。亡くなって2日目の夜です。夢といっても太鼓の音だけの夢で、何度も繰り返す同じリズムを聴きながら、夜中に目が覚めたのです。どこかで聞いたことがあるような、ないような。

そこですぐにPCを持ってきて、今聞いたリズムを書き留めました。そして、その後メロディをつけて完成したのが(顕)(CNo36 )です。2020年9月1日生まれです。

太鼓の音だけでもよかったのですが、記憶にあるイメージを損ねない程度にメロディをつけました。これから長い旅になるので体に気をつけてね(?)、という気持ちをこめて。

私がこういう曲を作るとはねぇ、と自分で思うのですが、聞こえてきたものは仕方がありません。出来上がった曲は、黒澤明の映画「夢」に出てくる、狐の嫁入り(日照り雨)や葬式行進(水車のある村)のイメージに近いと思います。

兄とは年が離れていて、兄というよりは若い父のような存在でした。高校を卒業してすぐに上京したので、休みで帰ってくるのを私はとても楽しみにしていました。

ところがいざ帰ってくると、しばらく会っていなかったため知らない人のように照れくさく、あんなに懐いていたのに「別に…」のようなそっけない態度をとってしまうのでした。冒頭の写真はそんな一瞬をとらえたもののようです☺️。

タイトルの(顕)は、新聞記者時代兄が記事の最後に時々入れていた署名で、名前の一部です。病理学者であった父が顕微鏡の顕を兄の名前に使ったと思われますが、兄は顕微鏡とは無縁の職業でした。顕という漢字にはよく目立つ、顕著性という意味があるので、SoundCloudの英語タイトルはSaliencyとしています。

兄はブログを書いていましたが、2020年の1月で止まっています。あれほど文章を書くのが好きだった兄が書かなくなったのだから、このころから相当具合が悪かったんだろうな、と今では思います。もっと早く気づけばよかった。

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