経営革新に向けた四つのチャレンジとは
「日本的経営システム」は様々な側面で制度疲労を起こしています。この制度疲労を改革していくには、いま、どのような経営革新を行ったらよいのでしょうか?
今回参考にさせていただくのは、コーン・フェリー、彼らが「昨今」の日本企業にとって最重要と考える四つのチャレンジ、そしてその課題の構造とアプローチについてご説明して参ります。
2015年にコーン・フェリーがヘイ・グループを買収しましたが、ヘイグループは1943年に米国フィラデルフィアで創業された人事・組織の問題に特化したコンサルティング会社、というのは今さら私が述べるまでもないですね。
このヘイ・グループが世界に先駆けて開発したコンピテンシー(優れた成果を創出する個人の能力・行動特性)、職務分析などの手法はグローバルに幅広く活用されており、またリーダーシップ育成サービスについてもグローバルトップの実績を有しているといいます。
その中でも、同社がもっとも重要性の高いと認識しているのが、「グローバル化対応」、「次世代経営者育成」、「イノベーションの促進」、「国内構造改革」の四つのテーマである。
グローバル化対応
国内市場が飽和している現在、多くの企業においてグローバル化の推進が課題となっていること自体は、改めてここで述べるまでもありません。ところが、経営課題としての重要性認識が高いにもかかわらず、多くの日本企業は人事・組織面でのグローバル化対応に様々な問題を抱えているのです。
少し古いデータですが、ヘイ・グループが2011年に行ったグローバル人材マネジメントに関する調査では、2006年時点と比較して、多少なりとも進展が見られるのは「人材育成の仕組み整備の領域だけ」で、評価や報酬等人事制度の最適化、幹部候補の育成といった領域については、ほとんど取り組みが進んでいない状況が明らかになっています。
それは何故なのでしょうか?人材・組織のグローバル化対応を検討して行く際に問題になるのは、その取り扱う対象範囲が余りにも広範囲になるが故に、何からどう手をつけていくべきなのかが整理できないという点です。
グローバル化対応に当たって検討が必要な論点の全体像を提示し、そこにどのような方法論・アプローチを適用して、人事・組織のグローバル化対応を進めていくべきなのか、考える必要があります。
次世代経営者育成
次に、「次世代の経営幹部候補が育っていない」という問題もあります。これまでのように、経営環境が連続的に変化する世の中であれば、中間管理職から上級管理職へと昇進する過程で、少しずつ「先達の背中を見ながら視野を拡大したり」「経営ノウハウを学習したり」していけば「よかった」。
しかし、グローバル競争の激化や事業構造の変化により、従来までのビジネスの勝ちパターンが通じにくくなっている今日のような世の中では、意識的に経営人材を育成しない限り、経営能力の世代間継承が断絶してしまう恐れがあります。
その次世代経営人材に求められる能力としては
①政策提言力=自社の収益構造を深く理解した上で、利益を向上させるための具体策を提言する力
②リーダーシップ=多様な人材や組織を動かし政策を実行する力
この二つが重要だと思います。
まず政策提言力ですが、経営人材には、会社の使命やビジョンを踏まえた上で、その実現に向けた政策を具体化する力が求められます。その際、それが成果につながるためには、自社特有の事業構造・収益構造の全体像を理解し、利益につながるドライバーを正しく捉えることが重要です。また、政策やゴールは決してひとつではなく、複数の可能性を探求する中から、自社が到達可能なフロンティアを明らかにし、その中から最善の選択を行う力も必要になります。
それに加えて、経営幹部は、政策の提言に留まらず、調査や実験を通じて政策の有効性を検証し、組織的に学習を積み上げる力、多様な人材や組織を動かし政策を実行する力=リーダーシップも求められます。
イノベーションの促進
イノベーションの促進が日本企業にとって喫緊の課題であることに、異論を唱える方は少ないでしょう。しかし、これを人事・組織の課題と考えることに、違和感を覚える方もいらっしゃることでしょう。
イノベーションの促進には、人事・組織のあり様が大きな影響を与えると考えています。なぜなら、日本がもともと持っている「創造性」の発揮を阻害しているのが、組織要因と考えられるからなのです。
多くの事象は、日本人が未だに創造性という観点では、世界のトップランナーであることを示していますね。例えば21世紀に入ってからのノーベル賞の自然科学3分野(物理、化学、医学/生物学)における受賞数で、日本は米国に次いで2位の位置にあるのです。
あるいは建築、文学、美術、映画といった領域における日本人の活躍についても、改めて触れるまでもないでしょう。そう、「個人レベル」で見てみれば、世界を舞台にクリエイティビティを発揮して活躍している人は、枚挙に暇がないのですから。
しかし一方で、企業発のイノベーションとなると、ここ数年は「カラッキシ」という状況です。これはつまり、「個人レベルで発揮される創造性」が、「組織的な力=イノベーションに結び付けられていない」という状況であり、であるからこそ、人事・組織がイノベーション促進のための重要な論点として浮上するのです。
国内構造改革
右肩下がりの環境下では、右肩上がりの時代につくられた人事制度が、新しいビジネスの開拓を妨げることがあります。「まだ体力のある間」に、こうした現状と合わなくなっている仕組みの改革に着手することが重要です。
終身雇用制や年功的人事慣行の制約を受ける日本企業においては、一旦、後手に回ると、あらゆる状況がアゲインストになるからです。こうした改革にすでに着手した企業のやり方を中心に、右肩下がりの時代を生き抜くための人事施策のあり方について、見てみましょう。
具体的には三つの課題の想定が必要でしょう。
一つ目が「高齢化に伴う逆ピラミッド構造の解消策」です。人員の逆ピラミッド構造による高コスト体質を是正する上で、昇降格運用の厳格化、職務主義給与制度、早期退職優遇制度などのオプションが考えられます。それらの組み合わせ方や、導入順序によって、経営へのインパクトや即効性、組織のモラールに与える影響、リスクや難易度などがどのように変わるのかについての検討が必須です。
次が「ビジネスの転換を阻害する右肩上がりの時代の仕組みの解消」です。右肩上がりの発想でつくられた組織体制、役割分担、昇格運用、評価制度、価値観などが、新しいビジネスのスタイルを阻害することがあります。守りから攻めに転じるために、営業・経営企画・人事が連携して評価制度の改革を行った事例について検討しなければなりません。
最後が「不透明な環境に立ち向かうリーダーシップと組織学習の強化」です。不透明な環境の中で、新たな事業を伸ばしていくためには、強力なリーダーシップと、試行錯誤を通じた組織学習が必要になります。リーダーシップ開発プログラムの中に、現場における実験を通じた組織的学習の推進を取り入れ、事業構造の改革を人事面から支援した事例について検討することを強くお薦めいたします。
※元ネタは2012年に掲載された以下の記事です。
本記事で取り上げたこの「四つのテーマ」は、2012年時点においてのものです。現在の同社については以下の通りのようですが、私が本記事を投稿した意図としては「10年前から言われてますけど、できてます?」という問いかけです。この四つのテーマもできていないのに、新しいことばかり取り組んでも意味がない、と思うのです。
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