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【ナッシュ均衡】ゼロサムゲームの終わりが始まる

この社会には、利己的な利益を最優先させる「テイカー型」の人々が数多く存在します。

彼らの行動は短期的な利益を追求するものであり、長期的な信頼関係や協力関係を犠牲にする結果、「ゼロサムゲーム」と呼ばれるような状況が生じ、社会全体の利益が減少しています。

本記事では、このテイカー型の人々の行動を、ゲーム理論の視点から考察し、どのようにして社会全体の利益を最大化するかについて探ります。

ゲーム理論

あらためて確認すれば、ゲーム理論とは、複数のプレイヤーが意思決定を行う状況において、それぞれのプレイヤーの行動が全体の結果にどのように影響するかを分析する「数学的な枠組み」です。

「数学!?」と聞くだけでアレルギー反応を起こしそうになるかもしれません、私もそうです。ゲーム理論は経済学、政治学、心理学、コンピュータサイエンスなど多くの分野で応用されているので「なんだか小難しそう」と思われるかもしれませんが、しかし必ずしもそうではありません。

ゲーム理論は、個人や団体が相互に依存する状況で意思決定を行う際の「最適な戦略を見つけるための理論」とも言えるわけですから、ビジネスにおいても人生においても幅広く活用することができる、いえ、活用しない手はないといっても過言ではありません。

難しくなり過ぎないように、まずはゲーム理論の中でも比較的よく耳にする「ゼロサムゲーム」から見ていきましょう。

ゼロサムゲーム

これはシンプルに「誰かが勝つと、誰かが負ける」というゲームです。

チェスや将棋であれば、一方のプレイヤーが勝つと、もう一方のプレイヤーが負ける。ポーカーであれば、プレイヤーの一人が得る利益は、他のプレイヤーの損失。

ここでよく誤解されがちなのが、ゼロサムゲームを一方の視点からだけ見て「0か100か」「All or Nothing」と理解している方がいらっしゃいますが、ゼロサムゲームを正確に表現するには、両方の視点から見て「プレイヤー間の利益の総和がゼロである」ことが本質的な特徴です。

ビジネスシーンで簡単に例えてみましょう。

二つの会社、企業Aと企業Bが、同じプロジェクトのベンダー契約を獲得しようとしています。このプロジェクトは非常に利益が大きく、契約を勝ち取った企業は大きな報酬を得ますが、負けた企業は何も得られません。

ここで、ゼロサムゲームの特徴を取ってみると、一方の会社が契約を勝ち取れば、他方はそれを失います。つまり「総利益はゼロ」です。(是非に及ばず契約を勝ち取って100=Allの利益を得たい気持ちはわかりますがここは落ち着いて)

以下に図示しましょう。

「ペイオフマトリクス(または利得行列)」という。ペイオフマトリクスにおける「ペイオフ」(payoff)とは、ある行動や選択の結果として得られる利益や報酬のことを指し、このマトリクスは各プレイヤーの戦略の組み合わせに対して、それぞれのプレイヤーが得るペイオフを示す表。


これを解説すると、(以下の四つの中黒点は読み飛ばしてOK)

  • 高額入札/高額入札 (0, 0):両者が高額入札をした場合、両者とも契約を獲得できず、結果として利益も損失もない

  • 高額入札/低額入札 (+100, -100):会社Aが高額入札をし、会社Bが低額入札をした場合、会社Aは契約を獲得し、会社Bは契約を失う。会社Aは100の利益を得て、会社Bは100の損失を受ける

  • 低額入札/高額入札 (-100,+100):会社Aが低額入札をし、会社Bが高額入札をした場合、会社Bが契約を獲得し、会社Aは契約を失う。会社Bは100の利益を得て、会社Aは100の損失を受ける

  • 低額入札/低額入札 (0, 0):両者が低額入札をした場合、両者とも契約を獲得できず、結果として利益も損失もない

となるわけですが、ここで注目していただきたいのが、「高額入札/高額入札」「低額入札/低額入札」の二つのパターンの場合、「結果として利益も損失もない」と言う点で、どちらも全く同じ状況のように見えるわけですが、実は違うのです。

「こいつは何を言っているんだ?」ですって?説明しましょう。

ここで出てくるのが本記事の掲題にある「ナッシュ均衡」です。

高額入札/高額入札を見ると、この場合、両社ともに戦略を変更しても利益が変わらない。勝つためにはこれ以上の選択肢がない。つまりどちらの会社も戦略を変更するインセンティブがない。この状況を、「ナッシュ均衡」状態と呼ぶわけですが、文章がゴチャつくので詳説は後述したいと思います。

一方の低額入札/低額入札を見ると、両社ともに利益を得るために高額入札に変更したくなります。この場合、どちらの会社も戦略を変更するインセンティブがあるため、ナッシュ均衡の状態ではありません。

残る二つのパターンも、ナッシュ均衡の状態ではありません。

高額入札/低額入札を見ると、会社Bは利益を得るために高額入札に変更したくなり、会社Aも損失を避けるために低額入札に変更したくなる。戦略変更のインセンティブがあるので、NOナッシュ均衡。

低額入札/高額入札も、会社Aは利益を得るために高額入札に変更したくなり、会社Bも損失を避けるために低額入札に変更したくなるのでNOッシュ。

ナッシュ均衡と非ゼロサムゲーム

ナッシュ均衡というのは、ゲームに参加しているどのプレイヤーも、他の選択肢を取ることで期待値が向上しない状態、つまり「均衡している状態」を指します。

ナッシュ均衡を説明するための試行実験として最もよく知られているのが「囚人のジレンマ」です。

囚人のジレンマとは、1950年にプリンストン大学の数学者アルバート・タッカーが、アメリカの数学者であるジョン・ナッシュの指導教官として、ゲーム理論の概念を説明するために講演で用いた有名な思考実験です。

さっそく以下をご覧ください。

二人組の銀行強盗が警察に捕まって別々の部屋で取り調べを受けている。警察官は二人の容疑者に対して次のように迫ります。

  • 両者とも黙秘を続ければ、証拠不十分で二人ともに刑期は1年

  • 二人とも自白すれば刑期は5年

  • 相方が黙秘を続けているとき、プレイヤーAが自白すれば、捜査協力の例として無罪訪面、相方のプレイヤーBは刑期10年(逆も同じ)

この時、二人の囚人はこのように考えるはずです。

「もし相方が黙秘する場合、自分が自白すれば無罪訪面。 自分も黙秘すれば刑期1年で、この場合自白した方がいい」。一方、「相方が自白するのであれば、自分も自白すれば刑期は5年。自分が黙秘すれば刑期10年で、こちらの場合もやはり自白した方がいい」。

つまり、相方が自白しようが黙秘しようが、こちらにとっては「いずれの場合でも自白が合理的」だ、と。

こうして結果的に、二人の囚人は揃って自白し、どちらも5年の刑を受けることになってしまうという話です。

前掲のペイオフマトリクスを用いてお示しします。

要するにこれは、二人の囚人がそれぞれ自分の利益を最大化しようとすると、結局両者が損をする状況を言っています。二人が黙っていれば、二人共に刑期が1年で済むものを。

この状況は、非ゼロサムゲームの状態を表しています。非ゼロサムゲームとは、参加者全員が協力することで全体の利益を増やせる一方で、協力しない場合には全体の利得が減り、互いの最高の利得を得られなくなる状況を指します。

ということでもう一つ、例を挙げて見ましょう。

テイカー型の人々が短期的な利益を追求することで、協力的な関係を築くことができず、結果的に全員が損をする状況が生まれる。これを最もわかりやすい「価格競争」の例で見てみましょう。

  • 両者が協力して価格を維持し、適正な利益を確保することができれば、両者ともに安定した収益を上げることができる

  • しかし、スーパーAが先に価格を引き下げると、短期的には顧客を引き寄せることができる。これに対抗して、スーパーBも価格を引き下げることになる

  • 両者が価格を引き下げ続けると、利益率が減少し、最終的には両者ともに収益が減少する結果となる

価格を維持して互いに安定収益を得ていれば良いものを、非ゼロサムゲームにおいて、互いの足の引っ張り合いと言って差し支えない状況を自分たちで生み出している。

ゼロサムゲームの項で見たように、基本的にビジネスでは「100の利益」「Allの利益」を目指すわけで、私は冒頭で、利己的な利得を最優先させる数多くの人々のことを指して「テイカー型」の人々と述べました。

しかしそのようなテイカーが「All or Nothing」のゼロサムゲームを目指しても、やはり相手もテイカーであることがほとんどなわけで、結果的に負の非ゼロサムゲームになる。両者が利己的に行動することで全体の利益が減少し、協力することで得られる潜在的な利益が失われるわけです。

テイカー同士が互いに利益を最大化しようとする。そのために現在の日本で起こっているビジネスの競争の多くは、なんとコスト競争なのです。全くサステナブルではありません。

この状況をまとめれば、囚人のジレンマのように、互いが自分の利益を最大化しようとすると結局両者が損をする非ゼロサムゲームの様相を呈していることがわかります。皆が短期的な利益を追求するあまり、長期的な信頼関係や協力関係を犠牲にし、社会全体の利得が減少しているのです。

ナッシュ均衡をビジネスに

持続可能性と、倫理的な製品設計を重視することで、「他の企業も同様の戦略を取らざるを得ない市場環境を作り出したイケてる企業」があります。

フェアフォンです。

フェアフォンは、2013年にアムステルダムで創業されたスマートフォンのスタートアップです。

現在日本ではサービスを展開していませんが 欧州では着実にファン層を形成し市場において一定の存在感を示すまでに成長しています。

言うまでもなくスマートフォンはアップルやサムスンといった強大な企業がしのぎを削る非常に競争の激しい市場です。そのような市場に資金力でもブランド力でも技術力でも劣るスタートアップが参入し、あまつさえ10年の間生き残る・・・どころか、一定の存在感を示すまでに成長しているのです。

さらに驚くのが、彼らの取り組みは、なんと「EUの規制」にも変化をもたらす影響を与えてしまいました。

そんな彼らは、どのような価値を提供することでこの競争の激しい市場において一角を占めることができたのでしょうか?それは彼らのビジネスモデルを調べてみればよくわかります。

フェアフォンはビジネスモデルの中心に「修理する権利の回復」を据えています。

アップルやサムスンは年に1回以上、新しいスマートフォンモデルをリリースし、最新の技術やデザインを求める顧客をターゲットに、買い替え需要を喚起します。そして修理に関しても、自社の公式サービスセンターや認定サービスプロバイダーでのみ対応することを奨励し、非公式な修理店での修理を制限するような方針を取っています。修理ビジネスも独占し収益源を確保する、まさにゼロサムゲームのテイカー思考です。

そんな大手スマートフォンメーカーらに比べ、フェアフォンのアプローチは対照的であり、製品の修理可能性を高め、長期間使用することを奨励しています。フェアフォンのモデルは、持続可能性と倫理的な消費を重視する消費者に支持されており、他のメーカーにも影響を与え始めています。

これはつまり、フェアフォンは、企業全体が持続可能な戦略を採用する均衡状態を形成し、消費者と企業の双方に利益をもたらしているのです。消費者は環境に配慮した選択をすることで満足し、企業は倫理的な製品を提供することで競争力を維持できるようになりました。

このようにして、フェアフォンのような持続可能性と修理可能性を重視した企業の成功し、EUが「修理する権利(Right to Repair)」の法案を制定する動機の一つとなりました。

以下はそんなフェアフォンの素晴らしいメッセージビデオです。ご覧になってみてください。


そしてここでは、これまで用いてきたペイオフマトリクスを用いて、フェアフォンが起こした「ビジネス・パラダイム」の素晴らしい側面について確認してみましょう。

ということで結論を述べれば、私たちが目指すべきナッシュ均衡状態は、フェアフォンを参考にして競合他社も持続可能なビジネス戦略を取ることです。こうすることで、どちらも最高利益を上げることが可能になります。

なぜなら、消費者である顧客とEU規制当局からの高い評価と支持を得ることで、長期的にブランド価値が高まり、それが市場シェアの拡大に繋がるからです。こうしてステークホルダーや株主からの評価も高まり、企業全体の信頼性だけでなく収益性も向上するのです。

つまり私たちが目指すべきは、ゼロサムゲームを終わらせて、プラスサムゲームに移行していく、ということです。

フェアフォンが示したように、持続可能性と倫理を重視したビジネスモデルは、企業にも消費者にも、そして規制当局にも大きな利益をもたらします。競争が激しい市場においても、他者と共存しながら成長する道を見つけることができるのです。

競合企業という障壁を超え、社会全体に良い影響を与える可能性を見出す。私たちがプラスサムゲームの考え方を取り入れれば、未来は明るく、多くの人々が恩恵を受けることでしょう。

フェアフォンの成功を一つの例とし、私たちもまた自分たちのビジネスにおいて、持続可能で倫理的な選択を追求する勇気を持ちましょう。そうすることで、社会が共に協力・成長し繁栄する未来を築くことができるはずです。

さあ、次はあなたの番です。ゼロサムゲームから脱却し、プラスサムゲームの世界で成功を収めるために、今こそ一歩を踏み出しましょう。

私たち一人ひとりの選択が、より良い未来を創り出す力になるのです。



僕の武器になった哲学/コミュリーマン

ステップ2.問題作成:なぜおかしいのか、なにがおかしいのか、この理不尽を「問題化」する。

キーコンセプト29「ナッシュ均衡」

もしよろしければ、サポートをお願いいたします^^いただいたサポートは作家の活動費にさせていただき、よりいっそう皆さんが「なりたい自分を見つける」「なりたい自分になる」お手伝いをさせせていただきます♡