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「セブン50年と『競争嫌い』 モノマネせず顧客へ超接近戦」に注目!

セブンイレブン50年と「競争嫌い」 モノマネせず顧客へ超接近戦 編集委員 中村直文 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

中村編集委員のニュースを深く読み解く「Deep Insight」です。

セブンイレブン1号店がオープンして今年で50年です。セブン―イレブン・ジャパンを傘下に置くセブン&アイ・ホールディングスの足元の業績には停滞感がありますが、コンビニエンスストア最大手の地位は今も揺るぎません。その競争力の源泉は何かと言えば「競争嫌い」と表現できます。

他社と激しく競ってはいるのですが、独自性へのこだわり、市場に「ないもの」を作り上げる姿勢は競争嫌いという言葉がぴったりです。そもそもセブンイレブンは誕生から非常識でした。

創業期は1970年代前半です。「日本には商店街が数多くあり、牛乳もお茶もすぐ買える」「米国のコンビニが根づくわけない。ましてや深夜に客が来るわけない」。そんな社内の反対を押し切り、運営元の米サウスランドとライセンス契約を結びました。にもかかわらず、米社のマニュアルに従わず、自前の方式を積み上げていきます。

自宅で作るものだった「おにぎり」や「弁当」を商品化し、午後3時に閉まる銀行窓口の不便さを解消しようと銀行を立ち上げました。低価格中心だったプライベートブランド(PB=自主企画)の商品開発では逆に品質を追求し、既存の競争を度外視してきました。

そこには長年セブンイレブンを主導した鈴木敏文セブン&アイ名誉顧問の経営センスがにじみます。小売業以外から転職した鈴木氏は業界の常識どころか、他社にも関心を払いません。何より社会的ニーズをつかもうとする企業文化を築き、今も商品本部を中心に「競争相手は顧客だ」との合言葉が残ります。

鈴木氏は大学教授との対談でこんな発言をしています。「商品開発でも店づくりでも、他と違う独自のものをつくっていけば、決して競争には巻き込まれないというのが私の持論」。セブン&アイの井阪隆一社長も様々なデータを重視しつつ、「顧客の感動があるかどうか」を社内に説きます。

国内消費において「競争嫌い」はさらに重みを増していきます。人口減と少子高齢化の成熟した経済、社会で過度の価格競争は消耗戦につながるだけです。質や独自性を備えないと消費者は離れます。

その他、愛知県豊橋市にある「1995年創業の最後発スーパー」を掲げるクックマートでも、「競争嫌い」を公言し、成長しています。白井社長は「ローカルスーパーとは決して大手の発展途上モデルではないし、ミニ版でもいけない」とコメントし、「しない」ことで自社の流儀を貫いています。

国内の消費経済は1980年代までダイエーを軸とした量販店の競争が盛んでしたが、セブンイレブンの成長とともに「小商圏」をつかむ両軸がカギになりました。

そして今は消費のデジタル化で変化が加速します。価格競争や豊富な品ぞろえとともに、顧客対応のきめ細かさがより問われます。

創業50年のセブンイレブンも「今後はウーバーイーツとeコマースを融合した顧客への超接近戦だ」(井阪社長)と新コンビニ経営に動いています。小売業にとどまらず、ボトムアップ経営の質向上は日本企業のレベルアップに欠かせない課題です。それは顧客本位に基づいた独自センスを磨くことを意味します。

哲学者の千葉雅也氏は「センスの哲学」(文芸春秋)で「モデルの再現から降りることが、センスの目覚めである」と述べています。日本を疲弊させる「ものまね・同質化競争」を嫌おう。

セブンイレブンは、1974年5月に第1号店の豊洲店を出店するのを皮切りに、1976年5月に出店数100店舗達成、1980年11月に出店数1,000店舗達成、2003年8月に出店数10,000店舗達成し、2024年6月末時点では、国内店舗数21,566店を数えるまでに成長しています。

セブンイレブンは多くの挑戦をしてきました。のりがしっとりしない手巻きおにぎりの開発、あったかいおでんの提供、ツナマヨネーズおにぎりの販売、POSシステム導入、銀行ATMの設置、高価格PBの導入、淹れたてコーヒーの展開など、コンビニ業界を先導してきました。最近では、セブンカフェスムージーが話題になっています。

顧客のニーズによりそうセブンイレブンの今後の成長に期待しています。

※文中に記載の内容は特定銘柄の売買などの推奨、または価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。