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「信越化学、50年磨き続ける塩ビ 営業利益率アップル越え」に注目!

信越化学、50年磨き続ける塩ビ 営業利益率アップル超え - 日本経済新聞 (nikkei.com)

信越化学工業の屋台骨を支えるのが配管や靴、かばんなど身近なものに幅広く使われる塩化ビニール樹脂です。競合が多く、中国勢の過剰生産で市況が乱れる中でも信越化学はこのコモディティー(汎用品)で米アップルを上回る営業利益率をたたき出し積極的な投資を続けます。高い収益性のからくりは他社を圧倒する徹底的な効率化です。

1973年設立の信越化学の米子会社シンテックの米ルイジアナ州の工場で増設工事が佳境を迎えています。同工場では2021年に塩ビの生産量を1割増強したばかり。現在進行中の増設工事は年内完了予定で、さらに1割生産量が増えます。

同工場の強みは原料からの一貫生産による低コスト化です。塩ビの原料は塩素と、石油や天然ガスから作るエチレン。2008年の稼働時に現地で採れる岩塩を電気分解し塩素を生成する工程を内製化。中間原料である塩ビモノマーも自社生産できるようにしました。2020年には近隣で採れる安価なシェールガスを使うエチレン工場も立ち上げました。

2025年3月期の設備投資は半導体関連なども含めた全社で4600億円と前期から13%増やします。3期連続で過去最高となりますが、投資の効率化にも目を配ります。米国での工事はエンジニアリング会社とゼネコンに管理監督を委託するのが一般的ですが、指示を迅速に現場に反映するのは難しく工期が遅れやすいです。信越化学は自社でエンジニアリングを担い、最短の工期で工場を立ち上げます。

1995〜2022年の世界の塩ビ使用量の成長率は年3%ですが、シンテックの生産能力は同じ期間に年平均で3.5%伸びました。市場成長を上回る拡大を可能にしているのが強い営業力です。

信越化学の営業体制は少数精鋭で知られます。シンテックの営業担当者は10人超。米国から南米、アジア、アフリカと販路が広がっても、約40年、この人数は変わりません。

「軽く見られているのでは」。他社なら5人は参加する商談に1人で出向くと塩ビの顧客に誤解を与えることもあるといいます。だが付き合ううちに、全てを把握し意思決定が迅速な1人の担当者と付き合うメリットに気がつきます。担当者は多くの顧客と付き合うので、市況や他社の動向などの情報も把握しやすいです。

営業担当者が需要の落ち込みを察知しても安易に価格を下げたりはしません。「値下げした分に相当するコスト削減はそんなにできるもんじゃない」(斉藤恭彦社長)。同業の設備トラブルで塩ビの調達に困っているところはないか、米国が不振ならばアジアはどうか。営業担当者が集めた情報を精査して少しでも多く高く買ってくれる顧客を見つけます。売り切るためには契約内容やタイミングの細部に目を配ります。

工場長が人事や購買、総務も兼務し、代金の回収は社長秘書が担うなど間接部門も徹底的にスリム化しています。「最初からリストラされた企業だ」。原料の塩ビモノマーの仕入れ先である米ダウのベン・ブランチ元最高経営責任者(CEO)は、シンテックの工場や組織を見て、こう感嘆したといいます。

2023年の塩ビ市場は不振で、2024年3月期の塩ビを主力とする生活環境基盤材料事業の営業利益は3219億円と前の期から41%減りました。それでも営業利益率は32%を維持し汎用品の塩ビで、ブランド力のあるスマートフォンが武器のアップルの直近5年間の平均28%を上回ります。

塩ビの成長はどこまで維持できるのでしょうか。塩ビは経済成長率と連動して消費が伸びてきました。米国の人口増加は続くと見られますが、1人当たりの塩ビ消費量は上限が見えてきました。需要の伸びが大きいアジア地域では、中国勢の増産の影響を受け市況が停滞しています。今は消費地として成長するインドが中国のように生産を始めれば、さらに需給が緩むことになります。

信越化学の強みである高い生産性には、工場の立ち上げから生産、販売まで多くのノウハウが詰まっています。経営陣や従業員が入れ替わっていく中で、それをどう維持していくかが課題となります。斉藤社長は「仕事のノウハウが色あせないようにしていくのが経営者の仕事」と話します。

「今回の塩ビ工場は50年先をにらんだ将来構想の第1段階である」。1997年、ルイジアナ州に約1500万平方メートルの工業用地の購入権を確保した際、中興の祖、金川千尋氏が経営陣にそう語りました。金川氏が50年先を見越して手を打ったように、次の50年の成長を支える戦略を打ち出せるか。市場が注目しています。

シンテック社は1974年の操業開始と比べ、塩ビの生産能力は約36倍まで拡大しています。その過程で、創業時には米国第13位だったものが、2001年には生産能力が世界最大になっています。

塩ビは燃えにくく、耐久性に優れ、加工もしやすいなどの特徴を持ったプラスチックです。その特徴を活かして、上下水道や電線などのインフラから、住宅、生活用品まで幅広く活躍しています。また、ほとんどのプラスチックが石油からつくる材料を主原料にしていますが、塩ビの主原料は1つは「塩」からつくる塩素という点もユニークなものです。

多くの投資を続けている信越化学の今後の成長に期待しています。

※文中に記載の内容は特定銘柄の売買などの推奨、または価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。