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「日立を丸ごとAI化 3000億円投資、専門人材5万人育成」に注目!

日立を丸ごとAI化 3000億円投資、専門人材5万人育成 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

日立製作所は2025年3月期に生成AI(人工知能)向けに3000億円を投資します。人材育成や研究開発、データセンターの整備などに充てます。鉄道や工場設備など日立が手掛ける全事業でAIを中心にデジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、独シーメンスなど海外大手と渡り合う収益性を目指します。

小島啓二社長は11日に開催した投資家向け経営説明会で「生成AIは日立の全部門にとって極めて大きな事業機会」と話しました。小島社長は「生成AIは社会課題を解決するキーテクノロジー。すべての企業に死活的に重要となる」と強調し、生成AIをDX支援事業「ルマーダ」の中核に位置付けます。

今回、新たに部門別利益率の中長期目標を公表しました。「IT」「エネルギー・鉄道」「産業機器」の3部門の売上収益EBITA(利払い・税引き・一部償却前利益)率を、2024年3月期からそれぞれ2ポイント以上引き上げます。利益の積み上げ額は3000億円規模になります。

旗振り役のIT部門を統括する徳永俊昭副社長は「急速に進化する生成AIで新しい成長ステージに立つ」と強調しました。日立のDX支援事業の中心にAIを据えることで、製造業の生産現場やエネルギー、交通インフラといった分野のDX支援をいっそう進めます。

例えば、鉄道分野ではメタバース(仮想空間)上に再現した車両や線路にAIで故障や火災などの不具合を発生させ、対処法を鉄道会社の社員が学べるシステムなどを開発します。

AI普及によるデータセンターの建設ラッシュ、電力需要の急拡大も日立に恩恵をもたらします。送配電網の整備などで受注が増えるためです。

生成AIによる事業機会を取り込むために、2025年3月期に生成AIを目的とした投資枠を3000億円規模で設定しました。米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」を使ったAIシステムの開発や、データセンターの整備、人材育成などに資金を投じます。M&A(合併・買収)のほか、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を通じた世界のスタートアップ企業への出資を通じて、最先端の技術や事業モデルを取り込みます。

生成AI技術を事業に落とし込む役割を担う人材育成も進めます。日立は2028年3月期をメドに、社内研修よって専門人材を全社で5万人超確保します。米グーグルや米マイクロソフト、米エヌビディアなどIT大手との提携を通じ、AI活用ノウハウを蓄積します。

過去のM&Aの成果も活用します。2021年に約1兆円で買収した米ITのグローバルロジックはコンサル機能に強みを持ちます。顧客企業に深く入り込んで経営全般の課題を洗い出してITによる解決策を提示します。5月末に買収が完了した仏電子機器大手タレスの鉄道信号事業はデジタル技術に強みを持ちます。こうした買収した企業や事業が、生成AIの活用で司令塔の役割を担います。

日立が競合として意識するシーメンスもAIを使った業務改革を注力分野と位置づけています。2022年にエヌビディアと提携し、顧客の工場の生産革新活動を支援する「産業メタバース」サービスを始めました。独BMWの自動車工場をデジタル空間上に再現して、シミュレーションによってAIが改善点を洗い出しています。

シーメンスの2023年9月期の産業部門の営業利益率は15%を超えます。日立の主要3部門の2024年3月期(10%)を大きく上回ります。日立の小島社長は鉄道保守や電力インフラの現場など「完全に自動化できない現場の生産性向上に勝ち筋がある」と語っており、生成AIをあらゆる分野に活用することでシーメンスを追う戦略です。

日立の成長戦略を株式市場も評価します。株価は11日に一時1万7340円をつけ、2日連続で上場来高値を更新しました。昨年末比の上昇率は68%と日経平均株価(17%)を大きく上回ります。

ゴールドマン・サックス証券の原田亮氏は各事業における利益率改善の見通しが「想定以上」と指摘。送配電網事業については「(サービス事業の拡大で)ハードの売り切り事業では実現しえなかった水準の利益率を実現するビジネスモデルが見えてきた」とみます。

かつて複合経営ゆえに企業価値が割り引かれるコングロマリット・ディスカウントの代表銘柄とされた日立。小島社長の「複合企業の強みを生かす」との言葉どおり、コングロマリット・プレミアムを自社で示している格好です。

日立の時価総額は6月に入って15兆円の大台を超え、11日時点で15兆8199億円です。国内上場企業では6位で、ソニーグループ(5位、16兆6565億円)の背中が見えてきました。市場評価をさらに高めるには、AI活用による成長戦略を着実に実行して利益に結びつけていく必要があります。

小島社長は「生成AIを最大限活用する」「成長の2文字を追求しよう」「生成AIは社会課題を解決すると同時に新たな社会課題が出る。大きな転換点を見極めて素早く対応する力を磨く」といった発言が印象的でした。2024年度に個別事業強化に加え新たな成長機会を獲得するため、1兆円を投資するとのことで、今後の日立の持続的な成長に期待したいと思います。

※文中に記載の内容は特定銘柄の売買などの推奨、または価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。