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「エーザイ、認知症検査を血液で簡易に 治療薬普及へ」に注目!

エーザイが認知症治療薬「レカネマブ」普及へ次の一手 投与判断の検査、血液で簡易に - 日本経済新聞 (nikkei.com)

エーザイはアルツハイマー病治療薬「レカネマブ(製品名レケンビ)」の普及に向けて次の一手を打ち出します。少量の血液で治療薬投与の是非を簡単に判断できる技術の開発を進めており、2026年度の実用化を目指します。内藤景介代表執行役専務・最高執行責任者(COO)は「認知症のプラットフォーマーになる」と意欲をみせます。

レカネマブはエーザイと米バイオジェンが共同開発したバイオ医薬品です。アルツハイマー病の原因物質の一つとされるたんぱく質「アミロイドベータ」を患者の脳内から取り除きます。臨床試験(治験)では病気の進行スピードを27%緩やかにする効果が確認されました。18カ月間の治験による推計で、症状の進行を7カ月半遅らせる効果を見込んでいます。

2023年7月に米国で正式承認を取得し、その後は日本や中国でも承認を取得しました。投与を受けられる地域は世界に広がっており、2024年度は世界で565億円の売り上げを見込みます。2023年12月に投与が始まった日本でも対応可能な医療機関は足元で1000カ所程度となったようです。

アルツハイマー病部門など事業全般を統括する内藤COOは「処方や治療体制の構築は順調に拡大している」と話します。

レカネマブの売上高目標は2032年度に1兆3000億円と高く設定しますが、普及は道半ばです。大きな理由は投与対象が早期のアルツハイマー病患者や軽度認知障害(MCI)に限られるためです。

レカネマブを投与するには脳内のアミロイドの蓄積の有無を調べる検査が必要となります。大型装置となる陽電子放射断層撮影(PET)という検査や麻酔が必要な脳脊髄液(CSF)と呼ばれる検査が必要で患者の負担が大きいです。現在はレカネマブを投与できる施設は都市部が中心となっていますが、今後は地方にも臨床医との連携や患者への啓発を通じて処方を広げる必要があります。

切り札が複数の医療機器メーカーとデータやサンプルの提供などで連携して進める血液検査技術です。血液の中に含まれる微量のアミロイドを検出し、患者の脳内でどの程度アミロイドが蓄積するかを予測することができます。PETやCSF検査に近い精度で予測ができるようになるといい、内藤COOは「2026年度ごろの実用化を目指したい」と自信をみせます。

また治療薬自体の使い勝手を高める技術も開発中で、レカネマブを患者本人や介助者らが1分程度で投与できる皮下注射製剤も準備します。テルモと専用の注射器を共同開発しており、こちらも2026年度ごろまでに実用化する考えです。

認知症薬で世界に先行するエーザイですが、強力なライバル薬も登場しました。米食品医薬品局(FDA)は7月2日、米イーライ・リリーのアルツハイマー病治療薬「ドナネマブ(製品名キスンラ)」を承認。近く普及が始まります。

ドナネマブはレカネマブと同じくアミロイドを除去する仕組みで、アルツハイマー病の進行を遅らせる効果が確認されています。ただ副作用が比較的高い頻度で出るといい、レカネマブの販売にどの程度影響するかは未知数です。内藤COOは「新薬が出ることで患者の選択肢が増える。我々にも追い風になる」とみます。

現最高経営責任者(CEO)の内藤晴夫氏の長男で、事業全般を統括する内藤景介COOは「エーザイは国内の製薬企業から見ても比較的若く、言うならばベンチャー気質がある。ベンチャースピリットを生かしつつ、より効率的な取り組みを進めていきたい」と意気込みます。

目指すのは治療薬の先にある認知症を支える社会基盤の構築です。核となるのがデジタル技術で、認知症の情報サイトの開設や認知機能の低下を予測する人工知能(AI)の開発、認知症患者の支援アプリなど認知症に関わる様々な先端技術を開発するための子会社も設立しました。認知症の予防や診療、看護・介護につながるサービスの展開につなげる考えです。

また治験などで蓄積したデータ活用事業の立ち上げなども進めており、保険会社や自動車会社など他業種との連携も探ります。「製薬という手段に限らず貢献する道を模索していく。認知症のプラットフォーマーを目指す」(内藤COO)と話します。

アルツハイマー病を中心とした認知症の患者数は2023年時点で世界に5500万人以上います。エーザイは今後、レカネマブを米日中に続き、インドなどアジア市場でも展開する予定といいます。レカネマブを成長の軸にし、会社全体で売上高2兆円超えの「メガファーマ」入りを目指します。

新薬の実用化で将来の成長に道筋をつけたエーザイ。今後は治療薬だけでなく検査や診断、保険などの総合的な認知症対策にも意欲をみせます。製薬会社の枠を飛び越えた挑戦にも注目が集まりそうです。

エーザイはレカネマブの他にも、アルツハイマー病の症状を引き起こす「タウ」と呼ぶたんぱく質を標的とした新薬を開発する方針です。新薬候補物質について安全性を確かめる小規模な臨床試験(治験)を進めており、米国で2030年度をメドに実用化するとのことです。

タウは神経細胞が壊れる直接的な原因を引き起こすとされ、蓄積を防ぐことで認知機能の悪化を抑える効果が期待されています。タウが脳内に蓄積していくと、徐々に脳神経細胞が破壊されます。脳神経の細胞が壊れていくことで、認知機能に異常を引き起こすことからアルツハイマー病原因の「本丸」とも言われています。

このような新薬が実用化出来れば2032年度に売上高1兆3000億円とする目標をさらに上積みすることが期待されます。認知症エコシステムの構築により、当事者がより安心できる社会を創っていくエーザイに期待しています。

※文中に記載の内容は特定銘柄の売買などの推奨、または価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。