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「ホンダ、ガソリン車のアイドリングストップなぜやめる?」に注目!

ホンダ、ガソリン車のアイドリングストップなぜやめる? - 日本経済新聞 (nikkei.com)

ホンダがガソリン車でアイドリングストップ機能を次々に廃止しています。2000年代後半から同機能を採用するクルマが増えていました。停車時に自動でエンジンを停止するアイドリングストップは、燃費向上やエンジン音の騒音防止に効果があります。それでは、ホンダはなぜガソリン車で廃止しているのか。理由を開発者に聞きました。

一時はほとんどのガソリン車でアイドリングストップ機能を採用していたホンダ。ここ最近に発売したガソリン車では同機能を廃止しています。

例えば、小型ミニバン「フリード」の先代型のガソリン車はアイドリングストップ機能を採用していましたが、2024年6月に発売した新型のガソリン車では一転、廃止しています。小型ハッチバック車「フィット」も、現行型が登場した2020年2月にはガソリン車にアイドリングストップ機能を採用していましたが、2022年の改良型では装備から除外しました。

現在、ホンダの日本市場におけるガソリン車でアイドリングストップ機能を採用しているのは軽自動車「Nシリーズ」とハッチバック車「シビック」、ミニバン「ステップワゴン」のみです。その他のガソリン車ではアイドリングストップを不採用としました。

同様の流れはトヨタ自動車でも見られます。小型ハッチバック車「ヤリス」や小型ミニバン「シエンタ」などには、アイドリングストップ機能を採用していません。

ホンダがガソリン車でアイドリングストップ機能を廃止している理由について、同社パワーユニット開発統括部パワーユニット開発一部小型エンジン構造開発課アシスタントチーフエンジニアの土田幸二氏は「エンジン再始動時の商品性に課題がある」と話します。具体的には「発進時の加速の遅れと、振動・騒音(NV)だ」と同氏は説明します。

アイドリングストップしている状態からアクセルを踏んで加速しようとすると、エンジンが始動して、実際に駆動を始めるまでに時間がかかってしまいます。アクセルの踏み込みに対して、ワンテンポ遅れる加速のもたつきが、運転者に違和感を与えていたといいます。加えて、エンジン再始動時のNVが課題となっていました。

その他、アイドリングストップ搭載車には専用バッテリーが必要になります。アイドリングストップ搭載車では、エンジンを繰り返し停止・始動するため、エンジンの始動時に使うスターターモーターやバッテリーに大きな負担がかかります。通常のバッテリーだと劣化が早くなるため、耐久性が高い専用バッテリーが必要になります。

その一方で、アイドリングストップ機能を無くせば、「燃費は確実に悪化する」(土田氏)と言います。アイドリングストップ機能の有無による燃費の差は「1リットル当たり1キロメートル以内」(同氏)。「燃費と再始動時の商品性、どちらを取るかは難しい問題だが、我々は自然な加速を優先した」(同氏)と説明します。

土田氏は「燃費を重要視するならハイブリッド車(HEV)に乗ってほしい」と話します。販売台数でHEVが占める割合は年々増えており、アイドリングストップ機能の有無によってHEVとガソリン車の「すみ分け」を明確にしたい狙いもあるようです。

そのすみ分けはエンジンそのものの選択でも見られました。

新型フリードのガソリン車では、エンジン自体を変更している。先代型のエンジンは直噴式だったが、新型はポート噴射式を採用しました。直噴式は、シリンダーに燃料を直接噴射しシリンダー内で空気と燃料の混合気を作ります。一方でポート噴射式は、シリンダーに空気が入る直前の吸気ポートで燃料を噴射します。シリンダーには初めから混合気が入ります。一般的には、直噴式の方が出力・トルクが高く、燃費も良いとされます。

実際にフリードは、スペック上でみると直噴式をとっていた先代型の方が優位に見えます。新型フリードのガソリン車では、エンジンの最高出力は87キロワット、燃費は1リットル当たり16.5キロメートル(WLTCモード)です。先代型のガソリン車は、エンジンの最高出力が95キロワット、燃費は1リットル当たり17.0キロメートル(同モード)でした。新型は車両質量が先代型よりも約20キログラム重くなったため単純比較はできませんが、それでもスペック上の数値だけを求めるなら直噴の方が良いでしょう。

直噴ではなくポート噴射式を選んだ理由は何か。土田氏は「直噴は燃料を高圧化して直接噴射するため、どうしても燃料系の音が大きくなってしまう。ポート噴射の方が静粛性に優れる」と語ります。ポート噴射は振動面でも有利です。「直噴より燃焼速度が落ちる分、振動が少ない」(同氏)といいます。

加速で見ても「直噴の方が力強いが、ポート噴射式はより滑らかだ。軽量で、コストが安いメリットもある」とホンダ電動事業開発本部BEV開発センター統括LPLシニアチーフエンジニアの安積悟氏は説明します。加えて、連続可変バルブ・タイミング・コントロール機構(VTC)を採用し、走行状況に応じて吸気バルブを最適に制御することで、なめらかなトルク特性を持たせました。

これらにより、先代型に対してアクセル開度に対する初期駆動力がより穏やかになりました。過度な押し出し感やぎくしゃく感が低減しました。

土田氏によると、フィットやヴェゼルなど排気量1.5Lエンジンを搭載するガソリン車は全てポート噴射に変更したといいます。モーターによる力強い加速や優れた燃費を求めるなら「HEVを選んでほしい」と言います。

このように、ガソリン車におけるアイドリングストップ機能の廃止やポート噴射エンジンの採用は、一見スペックの数値では不利にみえます。一方で、より穏やかな走りに振ることでHEVとのすみ分けを明確化させる狙いがあります。

ホンダのガソリン車はスムーズな加速と静粛性を両立し、ドライバーのイメージ通りに加速する心地より走りを目指しています。私も前職で営業していた際に様々な車を運転していましが、(自家用車に慣れていることも多分にあると思いますが)アイドリングストップからのエンジン再始動時のずれや振動は違和感のあるものも多かったです。

ガソリン車が好みのドライバーも多いと思いますし、そういったドライバーの運転のしやすさや快適さを求めるホンダの開発の姿勢はホンダを選ばれる車にするポイントだと思います。

今後もドライバーに喜ばれる車作りをしていくホンダに期待しています。

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