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「日本は安すぎ、値上げはもう謝らない 味の素社長の決意」に注目!

日本は安すぎ、値上げはもう謝らない 味の素社長の決意 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

物価と賃金の上がらないデフレ経済が30年にわたって定着した日本で、値上げラッシュの先頭に立っているのが大手食品メーカーです。味の素は値上げと成長を両立させる方針を示し、食品大手で時価総額トップを競います。藤江太郎社長は、企業が値上げを謝らずに済む社会の実現に向けて、価値の追求と企業体質を改善する必要性を説きます。

2022年の就任以来、値上げを推進してきました。消費者の反発に恐れはなかったのかについては「日本はあらゆる価格が安すぎる。訪日客には喜ばれるが、高い給料が払えなくなり優秀な人材が海外に流出している。値上げしたら謝るのは世界で日本企業ぐらいだ」

「値付けは経営そのものだ。コストを下げる努力をしながら補えない部分を転嫁し、価値に見合った価格にすることが大切だ。据え置きによって失われた30年になった」とコメントしました。

値付けはマーケティングの重要戦略ですが、30年続いた経営慣行を覆すのは容易ではないのではないかとの問いについては「社員はできれば上げたくない。取引先に手間をかけ、客離れのリスクもあるからだ。しかし値上げには波があり、先頭に乗れず機を逃すと次の波まで待つことになる」

「私はかつて大失敗した。フィリピン駐在中の2011年に各社が値上げするなか、当社は二の足を踏んで上げる時期が遅くなり、業績回復に時間がかかった。これを教訓にブラジル赴任時は早期に値上げした。トップが腹をくくる必要がある」と回答しました。

メーカーは販売奨励金でスーパーの特売を後押ししてきました。また、小売りの発言力が強い中、価値を反映した値付けを広げられるかについては「物価や賃金の上昇を経験していない人が多い日本は世界でも値上げの難しい地域だ。結果として安売りが定着してしまった。販売奨励金の費用対効果をもっと見極める必要があった」

「物価高は自らの価値を問い鍛える好機だ。小売りの力は強いが、メーカーは価値を出せないと下請けになる。価値と価格の差を埋める対話が欠かせない」

「当社の『クノールカップスープ』で北海道産の甘いコーンを使う商品は、最もおいしい時期に収穫し24時間以内にパウダーにする。このような生産過程を発信し、共感してもらうことによって価値を伝えていく」とコメントしました。

消費者に値上げ疲れもみられ、プライベートブランド商品を値下げする小売りもあることについては「値上げしても買い続ける愛着の強い人と安くてそこそこの品質でいいという人に分かれる。松竹梅で高い価値を価格に反映できる『松』と生産効率を高め低価格でも利益が取れる『梅』の両方を開発する力が要る」

「これまでの値上げを通じて、価値を感じてもらえる商品は販売数量が大きく減らないと実感した。冷凍ギョーザは栄養豊富で調理も簡単とあって世界で人気だ。日本は値上げで一時シェアを落としたものの回復した」とのことです。

日本はメーカーや小売りの企業数が多く、商品も多彩です。だがそれがコストアップ要因にもなっています。再編する必要があるのではないかについては「日本はメーカーや小売りの企業数が多く、商品も多彩だ。だがそれがコストアップ要因にもなっている。再編する必要があるのではない」

「日本のように消費者のニーズが多様化すれば商品は増える。だが、グローバルトップ企業は集中させている。スクラップ・アンド・ビルドが大切であり、要らない商品を捨てる実行力も必要となる。現場がやらないことを決めるのはリーダーの仕事だ」

「メーカーや卸、小売りは少しずつ合従連衡の流れができている。規模が小さいままだと生産性の向上と永続性に限界が来る。全体最適へ合従連衡が進む方が望ましい」と回答しました。

藤江社長は味の素の労働組合で10年の専従経験があります。持続的な賃上げをどう進めるのかについては「「値上げと賃上げはセットだ。昨年の春闘の賃上げ率は物価上昇に比べ十分でないが、30年ぶりの高水準。政府も最低賃金を引き上げ、いい流れができた。賃金交渉は2%程度の定期昇給と物価上昇分の約3%の合計5%以上の上乗せが出発点だ」

「賃上げには企業業績、世間相場、労使関係という3要素が重要だ。労使関係では机をたたくだけでは心に響かず、議論の生産性が上がらない。一度に高い要求をしすぎても企業の体力をそぐことになりかねない」

「労組への加入率を高め、正社員以外の意見も受け止めながら労使関係が良好になれば、熱意を持って働く人が増え業績や労働条件が良くなる」と回答しました。

食品大手は平均年収が高いですが、賃上げが厳しい取引先もあることについては「賃金の支払い能力が十分にない会社もある。まず自助努力は必要だが、賃上げ促進税制などで後押しする政策は有効だ。動かない岩が転がるようもう一押し、二押しの拡充が必要だろう」

「日本で賃上げと物価上昇が進まなかった本質的要因は、企業の生産性、業績、価値が上がらなかったからだ。当社の業績も浮沈を繰り返し、時価総額は1987年の最高額を2022年12月まで抜けず低迷してきた」とのことです。

成長を拒む構造的な要因は何だったのかについては「組織が縦割りで意思決定がたこつぼのように分断していたことだとみている。自分の部門だけ考えて連携できない状況は多くの日本企業が抱える課題だ。縦の序列が強く、上ばかり見て挑戦しづらい組織風土が根づいた。当社も革新的な商品・サービスを出しづらくなった反省がある」

「エコノミックアニマルと呼ばれた時代、日本はどんどん挑戦して高度成長を実現した。ある時期から挑戦が止まった。海外赴任中に見たグローバル大手のトップはとにかくチャレンジするし、動きが速い。チャレンジしないリスクの方が大きい。攻める力が強くなると守りも強くなる」

「日本企業は利益など『分子』を大きくして付加価値のアウトプットを増やす生産性よりも、投入する人やお金などを減らす効率化に傾斜してしまった。十分な利潤が生まれず賃上げ余地が小さくなり、適切な物価上昇にもつながらず『安い国』になってしまった」

産業界に巣くう「病理」にどう対処すべきだと考えるかについては「縦割り組織に横串を刺すことだ。当社はデジタル、イノベーション、トランスフォーメーションという3分野の責任者を置き、縦の組織と交差させている。縦と横のリーダーの対話で考え方の違いを乗り越えられれば挑戦しやすくなる。一番要らないものは忖度(そんたく)だ。改革で業績も上向いた」

「合言葉は『スイング・ザ・バット』。バッターボックスに立ちバットを振ろうということだ。自社でもミールキットへの参入や、若手社員が中心となりZ世代を狙ったカップお粥(かゆ)の開発、食品技術を応用した半導体材料の拡大など、新たな挑戦が生まれている」と回答しました。

人的投資を拡大する方針を掲げていることについては「挑戦の原動力が無形資産だ。人材、技術、顧客、企業風土も含めた組織の4つがあるが、とりわけ人材は重要で投資が欠かせない。当社では23〜30年度に教育などの人材投資に累計1000億円以上を投じる」

「政府も予算の使い方を考えてほしい。有形資産だけではなく、人材育成やデジタル技術といった競争力を高める無形資産を重視してほしい。大学無償化など人に投資する政策には賛成だ」と回答しました。

味の素の藤江太郎社長のインタビュー記事になります。味の素が提供する商品の価値に対し、適した価格設定をする意思が感じられました。なお、味の素の冷凍ギョーザは欧米で日本よりなお3倍近く高いといいます。日本でも今後安い国を脱却すべく行動すると感じました。

なお、味の素は味の素ダイレクトというオンラインショップにて店頭には並んでいない高付加価値商品も提供しています。今後も味の素の取り組みに期待しています。