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日々、ハラスメント「怖くて訴えられない」 会計年度任用や公募制の見直しを 非正規公務員voicesが省庁交渉

 もうすぐ年度替わり。今年も多くの非正規公務員が公募の結果待ちで雇い止めの危機にある。
「職場内で少しでも意見を言えば『クビ』(雇い止め)が行われる」
「公募制度は、ハラスメントの温床」

 全国の非正規公務員当事者と支援者でつくる団体「voices」が2月15日、非正規公務員を対象にしたハラスメントアンケートの結果を基に省庁に対応策を要望した。     (阿久沢悦子)

 省庁交渉は参議院議員会館で行われた。国家公務員の人事を司る人事院、地方公務員の人事を担当する総務省、労働環境の改善を担当する厚生労働省から担当職員らが出席し、メディアも含む47人が参加。voicesのメンバーで、広島県内で非正規の女性相談員として働いた経験がある藍野美佳さんが要請書を手渡した。

 voicesが昨年4〜6月、ウエブ上で行った「非正規公務員ハラスメントアンケート」によると約7割がハラスメントを経験。今まで受けた中でいちばん重大なハラスメントや差別は「非正規を理由にしたパワーハラスメント」が最多で62・5%。ハラスメントをしてきたのは「上司(正規職員)」63・7%、「上司以外の正規職員」23・3%。職場で正規と非正規が対等だと「思わない」が78・9%を占めた。 

 藍野さんらはアンケートから可視化されたことを要請書に列挙した。

・ハラスメント被害により多くの人が「退職か我慢か雇い止めになる」、また非正規公務員が職場でパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント等を受けていても、次年度の更新におびえ、訴えられない。
・多くの非正規公務員はハラスメントを受けても相談できない。相談した結果、さらにハラスメントが酷くなった。こうした中で、精神的・肉体的に病み、「自ら退職を余儀なくされる」「雇い止めに遭う」「我慢する」という選択しかできなかった。
・公募制度は「期限が来れば一斉に仕事を打ち切って必要なら雇い直す」という仕組み。それにより、正規職員に非正規職員の雇用を恣意的に左右できるという高い特権を与えるが、それは本来の良質な人材を選考する目的のために講師されるのではなく、非正規職員に対して「何をやってもいい」という間違った権利の行使に使われ、ハラスメントとして機能しがちである。

その上で、非正規公務員の「会計年度任用」「公募制」の見直しを求めた。

総務省や人事院の担当者に要請書を手渡すvoicesの藍野美佳さん(左)=東京都千代田区

省庁の「建前論」、現場と温度差

 省庁側からは「ハラスメントはあってはならない」という原則論が述べられた。
 「会計年度任用」については、「業務の性質に応じて各部署が適切に判断している」(人事院)、「業務の継続性だけでなく、内容に応じて、任期の定めのない職員として採用を考えている。具体的には各地方公共団体の裁量に任せている」(総務省)。
 「公募制」についても「平等取扱いの原則、成績主義の原則の下、広く国民に公正な任用を確保するために必要だ」(人事院)などと建前論に終始した。一方で、「期間業務職員の導入から10年以上が経過し、人材獲得競争が熾烈なものとなる中で、再採用の公募要件を含め、非常勤職員の採用のあり方について検討している。できるだけ早期に方向性を示したい」(人事院)との発言もあった。

 藍野さんは「私たちの現場や生活から見える見え方、感じ方がみなさんの回答とは違うなと温度差をすごく感じた。みなさんのおっしゃっている通りのことが行われていないからこそ、今回のアンケートで7割のハラスメント被害が出てきた。もう少し現場や生活に歩み寄って知っていただきたい」と訴えた。

 非正規公務員の多くが顔や名前を出して実情を話すことができない。翌年の仕事を失う恐れがあるからだ。会場では、voicesのメンバーの発言を音声のみで紹介した。

大きな声を上げ、舌打ちする上司

・私は国の非正規公務員として働いています。ハラスメントを上司に相談すると余計にひどくなりました。机や棚にものを投げつけ、大きな声を上げ、舌打ちするなどの敵意を私に向け続けています。私が提出した書類を、音を出して握りつぶす。「あそこにすわっている」と指を指して笑いものにされたこともありました。私に関する噂を流し、毎日私を孤立させるように仕向けていきます。「上司とできている」「やっている」「キャバ嬢だった」など完全な嘘もありました。上司は1日の大半を私への監視行為に費やしています。業務用パソコンを監視し、個人情報を私的流用していました。こうしたことは国からの業務指示がなく、現場の上司が勝手にやっていることです。犯罪です。勤務時間中に行われたできごとですが、だれも注意をしません。役所は民間よりコンプライアンスの整備がされず、正規職員による好き勝手なふるまいが放置されています。もめ事が起きた時、立場の弱い非正規を切るということが最初に提案される解決策でした。精神的な疲労が長く続き、心身に不調をきたしました。通院をしながら勤務し続けることに限界を感じています。

ハラスメント被害を相談し、さらに攻撃を受ける

・ハラスメントを相談したのに、解決する方向ではなく、被害者がさらに攻撃を受ける。命の危険を感じてしまうレベルです。駅の階段やプラットフォームで背後から突き落とされるのではと思う精神状態になる。なぜ非正規公務員は大切にされないのか。非正規公務員に人権や尊厳はないのかと思います。

・国の期間業務職員です。大臣官房人事課にハラスメント相談をしました。それが地方に降りてきたら何もなかったということになる。ほとんどそうなっている。「ハラスメントがなかったのに、訴えた人」として職場に居づらくなる。結局は辞めさせられる。国からの指導や通達が、地方に降りてきたら全然違うものに変わってしまうことを知ってください。

「多くの非正規労働者がクビを恐れ、顔を出して訴えることができない」と話す藍野さん

10人以上が同時期に雇い止め


・ある地方の労働局の助成金に関する業務を15年ほどしてきた。アドバイザーでした。産業カウンセラーなどの資格を取り、社労士の勉強をしていた。800件ほどの事業所を訪問もしてきた。コロナ下で雇用調整助成金の業務が大変な時期があったが、それが終わって大量に採用された人が公募されることになり、ハローワークで求人票に応募する形で次年度の雇用継続を希望した。面接試験を受け、大丈夫じゃないかと思っていたところ、2日後に課長から呼び出され「今回は更新はありません。再就職支援を希望されますか?」と聞かれた。支援とは何かと聞くと黙り込んでしまった。「支援してくれるならよろしくお願いします」と部屋を後にした。課長は無表情だった。その顔は一生忘れないと思う。
私と同じ時に公募時期が該当していた同僚はがんだった。入院で面接試験が受けられないと聞き、それに異議を唱えたことが仇となったのではないかと思っている。私が「がんだからといって、非正規が簡単に雇い止めに合うのはおかしいよ」とアドバイスしているところを見られた。
10人以上が同じ時期に雇い止めにあった。
面接試験の評価で決めたのではなく、切ろうという人はあらかじめ決まっていて、予定通りに人数調整をしただけなのじゃないか。
予期せぬ時に雇い止めといわれたことがショックで、10人中2人がうつ病になった。翌日からショックで来られなかった人もいる。うち1人は持病もあり、雇い止めからしばらくして亡くなった。
システムが全然クリアじゃない。
上司のお気に入りが受かっている。個人的に声をかけて、始めにその人ありきで選考が進んでいる。
年も若く、1年ぐらいパートで働いていた、専門知識のない人が中途採用になっている。資格も持っていなかった。知識や経験も浅い。個人的な好き嫌いで簡単に人事が決まる仕組みが当然のように成り立っている。
好き嫌いはジェンダーと関わっている。若いとか見た目とか。上司の言うことに対して、「そうですね」「すごいですね」「さすがですね」と言っている人が大好きなんだと思う。意見を言う人は嫌われるのだと思う。
雇い止めになる直前の上司とは、コミュニケーションが皆無でした。仕事の指示はおろか、あいさつすらなかった。「もう少し私たちのことを見てください、コミュニケーションは職場の基本です」と書いて提出したことも雇い止めの原因だと思う。
雇用調整助成金の繁忙期を手伝ったが、上司が気に行った人は残業代が出て、担当外から手伝いに行った人は残業代が出なかった。残業代がつく、つかないの差は何かと思っていたが、聞けずじまいだった。労働局は本来こういうことを指導するところなのに、おかしいですよね。労働局関連の非正規は正規職員より多く、専門的な業務を任されているのに、きちんと評価する制度がない。評価制度を設けていただきたい。公募についても理不尽なことがたくさんある。非正規の声を実際に聴いて見直すように努力してほしい。

「条件は月1回、私と食事すること」


・ハローワークの相談員だった。65歳の男性上司に子どもの進路(県立高校入学)についてきいたら、ホテル最上階のレストランでの食事に誘われた。エレベーターでお腹を触られた。「お子さんの学費を全額出しましょう。条件は月1回、私と食事をすること」と言われました。帰りのエレベーターでもハグされました。条件を受け入れるかどうか返事をしなかったところ、すごい勢いで無視されるようになった。この間のLINEの記録を持って労働局に訴えたら、男性の個人情報にあたるので、処分内容は明かせないといわれた。私の状況を知った市民が労働局に押しかけて抗議したが、逆に労働局の職員が支援者をどなりつける声が廊下に響き渡った。男性は変わらない職責で働き続けている。3年目の勤務だったが、応募しても採用されないと思い、公募を受けるのをあきらめた。私がシングルマザーであることも、誰にも言っていないのに、庁内の誰もが知っていて、いたたまれなくなった。心ない言葉も投げかけられた。今は月収14万の職場に移り、子どもを育てられなくなりました。

「評価に納得」当事者のわずか7.5%

 悲痛な訴えを聞き、人事院の担当者は「本省の職員だけで考えていると実態のイメージがつかめない。こうした機会や現場訪問で話を聞くなどして、引き続きどういうあり方が適切なのか検討していきたい」と応じた。一方で、国主導のアンケートを実施するかどうかについては各省庁とも無回答だった。

 交渉後の記者会見では行政を利用する市民と非正規公務員当事者を対象にしたあらたなアンケート調査の結果も発表された。
回答者は602人でうち286人が市民、316人が非正規公務員当事者だった。
 「非正規公務員が雇い止めになることで行政を利用する市民に影響があると思うか」という問いには、95%が「あると思う」と答えた。具体的には「さまざまな情報がネットで調べられる時代に役所の窓口に行くことは、そこだからこそ得られる情報や支援を求めているから」「担当が代わるたびに状況の再説明が必要になる」などの声があった。
非正規公務員当事者に「任用先から受ける評価をどう思うか」(複数回答)を聞いたところ、全体の約4割が「評価が行われているのかわからない」「評価基準はあいまいだ」と答えた。「評価に納得している」は7.5%しかいなかった。

非正規労働者として働いた経験がある社民党の大椿裕子参議院議員らもともに省庁交渉に臨んだ=東京都千代田区

雇い止めは市民サービス低下を招く


 藍野さんは「市民のみなさんは非正規公務員の雇い止めにより、行政サービスが低下する実態をよくわかってくださっていると思う。評価基準のあいまいさには、上司の好き嫌いやジェンダーがからんでいる」と指摘した。

 会場には、来年度の職を賭して公募の結果を待っている非正規公務員当事者の姿もあった。
 藍野さんは「いまの時期、仕事もしないといけない。家事育児介護もある。その中で履歴書を書いて写真を貼ってというのを、毎年やらなきゃいけないことがどれほど屈辱的なことなのか。公募がいつも頭にあり、夜も眠れないんです。公募で広く平等に門戸を開くというが、いまいる非正規職員の多くが専門職。年数を経てスキルが上がり、住民へのいいサービスやいい対応につながる。私は公募自体が暴力だと思っています」と話した。

 和光大学の竹信三恵子名誉教授は、「4月から施行される困難女性支援法に基づき、多くの女性相談員が配置されるが、そのほとんどが非正規の会計年度任用だ」と指摘。新法により、大量の公募、雇い止めが起きる可能性があると警鐘を鳴らした。
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