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JR東日本の大改革 なぜ国鉄が優良企業に変貌したのか ①車両編

東日本旅客鉄道(JR東日本)では、『走ルンです』と呼ばれる低コストなオールステンレス車両が走っている。銀色無塗装で、車内も飾り気があまりなく無機質。筆者は私鉄によく乗っていますが、JR東日本のE231系やE233系と言った『走ルンです』車両に乗ると、飾り気の無さにびっくりします。

「コスト削減」を前面に押し出したようなJR東日本の『走ルンです』は、実は多額の赤字を垂れ流し巨額の債務を抱える日本国有鉄道(国鉄)を1から100まで改革させた賜物なのです。

今回はJR東日本が民間企業として意識した事で国鉄改革に成功した事例を解説します。

車両製造を徹底的に低コストにせよ 川崎重工業とJR東日本

国鉄時代、基本的に鉄道車両は川崎重工業、日本車輌製造、東急車輛製造、近畿車輛、日立製作所の5社に均等に車両を発注しました。これは国鉄は公共事業体であって、1社に利益を与えるようなことは出来なかったからからです。

さらに、その5社と国鉄というのは非常に関係が深く、国鉄のOBが5社に天下りすることもよくありました。

JR東日本は、車両製造から大きく変えました。

民営化してから数年後の1989年、川崎重工業に205系や211系、113系のグリーン車など668両を発注しました。これは鉄道事業者が一企業に車両を発注する例としては極めて異例のもので、当時過去最大級の商談が成立したのです。

これには理由がありました。JR東日本はこれらの車両を発注する前に、5社のうちもっとも経営基盤の小さい会社に「他社よりも安い価格を提示しなければ、今後一切車両を発注しない」と通告しました。これには鉄道業界に衝撃が走り、数日後川崎重工業の社長が当時丸の内にあったJR東日本の本社を訪ねてきました。これはこの通告に対してJR東日本に対し真意を聞くためでありました。

するとJR東日本は「一番安い価格を提示したら川崎重工業に全ての車両を発注する」と伝えたのです。

その後川崎重工業は従来より25%安い価格を提示し、従来よりはるかに低コストな車両導入を実現しました。

また、5社との密接な関係を断ち切るためにOBの天下りも廃止しました。これによりJR東日本は圧倒的に低コストな車両製造ができるようになり、首都圏の車両交換や電化による新型車両導入が進みました。

徹底的に低コストな車両を製造せよ 『走ルンです』誕生

今まで国鉄は保守的な車両を製造していました。これは日本国有鉄道規格、いわゆるJRS (Japanese National Railways Standards) が整備されたからであり、標準的な車両を導入し続ける事で効率を高めようとしたからです。

しかし標準化を行ってしまっては技術の阻害に繋がることになりますが、国鉄は標準品を継続して使いつつ技術の進歩を蓄積し、一定のタイミングでモデルチェンジを行うことで技術開発との調和ができると考えられていたのです。

しかし結果的には単純化の考えにより特定メーカーごとの特徴が出にくくなったこと、特定会社に有利にならないように配慮したことが逆にメーカーの競争力を奪ったことなどデメリットが多数存在し、1960年の制定から20年あまり経過した1980年代に入ると、技術があまり進歩しなくなり、画一的な車両ばかりが製造されることに繋がってしまったのです。

JR東日本はその規格を撤廃し、革新的な新技術を採用した車両開発を始めました。

その筆頭は209系電車です。

209系は、価格と重量を半分にする事以外に、寿命を半分にする事を掲げました。

これは標準的な車両開発をし、長期的に同じ車種が大量生産され技術革新の阻害と、時代遅れの車両ばかりが走りサービス品質が低下していた国鉄時代の反省として、短いスパンで車両を入れ替えることで技術革新を促し、なおかつサービス品質を高めるために行ったものです。

当時の鉄道界は、ただ寿命が長いことが美徳とされていたため、この「寿命半分」は大きな衝撃を与えました。


209系電車を製造する前、901系という試作車が製造されました。901系はそれぞれ構造や機器、車内の内装、工法が異なるA、B、C編成の30両が製造され、それぞれ評価が高くなおかつコストが低い機器を導入することで209系の質を高めるため製造されました。

901系は、オールステンレス製で、前面に大型の窓が配置された外観をしています。

それは大差ないのですが、製造工法が異なっていました。A、C編成は川崎重工業(C編成の一部はJR東日本大船工場製)が、B編成は東急車輛製造が製造しました。A編成と、C編成の8両は川崎重工業の2シート工法が使用され、B編成とC編成の2両は在来型の工法を改良したものが使用されました。今までの鉄道車両は、メーカーによって仕様に差が生まれないよう全て工法が同じでしたが、メーカーごとに違う工法を採用したことによって、技術革新を促すとともに車両製造コストの軽減が期待できました。

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(画像は901系B編成の車内。 出典:アイマン@13namikiさん)

また、車内天井や側面窓、運転席のマスコン配置が異なっており、製造会社ごとで仕様に差が出ていた他、VVVF制御による交流モーターを採用したことによって、さらなる省エネルギー化を実現しました。また、車体構造のユニット化を進めたことにより、艤装の簡略化とコスト削減を図りました。

901系でのテストを踏まえ、1993年2月に京浜東北線に209系が導入されました。209系は10両編成78本780両が一挙導入され、今まで「鉄の箱」というイメージだった電車のイメージを大きく変えるものとなりました。また、川崎重工業の2シート工法が前面的に採用されました。この更新無しで使い捨てられる短期寿命やリサイクルの事まで考えられた車両運用から鉄道ファンの間で使い捨てレンズ付きフィルム『写ルンです』をもじった『走ルンです』という愛称が定着しました。

209系の導入後、JR東日本では209系をベースにした車両製造を始めました。近郊タイプのE217系、交流と直流に対応したE501系、東北地区に投入された交流タイプの701系などです。

これらの車両は、209系とメンテナンスを同一に出来る様になっており、車両製造やメンテナンスコスト削減、管理の容易化を実現しました。

そしてJR東日本では、209系から車両改良を進めました。1999年には改良版のE231系が、2006年にはE231系を改良したE233系が、2015年にはE233系を改良したE235系が導入されました。これらの車両は、オールステンレス構造や車両のユニット化など、209系以降に確立された『走ルンです』様式を取り入れていますが、車両システムや車内に改良が加えられ、国鉄時代のように標準化を図りながらも、技術革新が円滑になるようになりました。

これら『走ルンです』系列の車両が無機質なのは、コスト削減のせいですが、無機質ながらも着実に改良が進んでいるのです。これは国鉄の体制では実現しなかった事であり、JR東日本の本気を感じられます。

車両を画一化させよ 近郊型と通勤型の統合

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上の画像は国鉄115系、下の画像は国鉄103系の画像(出典:Wikipedia)です。115系と103系は、ドア数が異なっていることがまず目に付きます。

これは近郊型と通勤型に車両種別を分けているからであり、115系は3ドアで車内はロングシートとクロスシートに分けたセミクロスシートになっており、近郊の長距離輸送に適しています。一方103系は4ドアで、車内はロングシートになっており、通勤需要が高く、多くの客を運ぶ都市型輸送に適しています。

しかし通勤型を近郊型に転用したり、近郊型を通勤型に転用したりするのはドア数や機器が異なっているためなかなか実現ができず、構造も変えなければならないためコストが嵩みます。さらに、この近郊型と通勤型の区別は、横須賀線が開業し電車による長距離輸送が可能になった1930年代に確立されたものであるため、時代が昭和後期になってくると市街地の拡大による近郊型車両が運用される路線でも混雑が激しくなり問題となりました。

そこでJR東日本は、通勤型と近郊型車両を統合し、使用するエリアによって通勤型車両と近郊型車両に整理する事にしました。これはどういうことかと言うと、客の多い首都圏では4ドアの通勤型をベースにした車両に統一し、東北や信越では近郊型をベースにした3ドアの車両に限定する事にしました。この先陣を切って登場したのがE217系電車です。

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E217系は、近郊型車両ながら片側4ドアの通勤型構造で、基本編成11両のうち3両がセミクロスシート構造、6両がロングシート構造、2両がグリーン車になっており通勤型をベースにしつつ近郊型車両の要素を取り入れた、まさに通勤型と近郊型を統合した車両となりました。これにより、ラッシュ時の混雑を緩和できると同時に、遠距離運用にも対応しました。

また後に登場したE231系とE233系、E235系は通勤型と近郊型の2タイプが存在し、車両構造上での通勤型と近郊型の区別は撤廃されました。

通勤型と近郊型の統合によって、メリットも生じました。先述した209系の一部車両を近郊型が運用された房総地区に転用する際、通勤型と近郊型の区別を撤廃した事が功を奏し4ドアのまま、車内改造を加え近郊タイプになった上で導入されました。

JR東日本は、車両構造にも変革をもたらしたのです。

JR東日本の今後

2012年、JR東日本は東急車輛製造を傘下に収め総合車両製作所を発足させました。これにより、1989年以来続いてきた川崎重工業への発注も新幹線車両を除きなくなりました。傘下に車両メーカーを置く事によって、コスト削減やJR東日本の意向が直接伝わるようになりました。E233系の一部やE235系は、総合車両製作所の製造です。

JR東日本は、今後首都圏を含む全エリアにおいて人口減少が起こります。また車両の老朽化は絶えず起こります。それらにおいてJR東日本は、これからも低コストかつ効率的で省エネな車両を導入し続ける事でしょう。

まとめ

国鉄時代の体制を覆し、業界に衝撃を走らせたJR東日本。真の民間企業として徹底した改革を行った事は、日本の鉄道史において忘れられないものとなるでしょう。

JR東日本の大改革シリーズは、土木工事編と社員編も制作する予定です。お楽しみに。←(2020.12.7追記 資料探しているのですがあまり見つかっていないので無期限延期します。申し訳ないです。)

ご覧頂きありがとうございました。自分なりにまとめてみましたが、間違ったところが有ればご連絡下さい。






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