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ほぼ漫画業界コラム91【宮崎駿のプロフェッショナルを漫画編集者の視点で考えてみた話】

会食続きで胃がやられたので禁酒しています。禁酒3日目となると、アルコール性不眠がやってきました。毎日お酒を飲んで寝ていたので、飲まないと寝れなくなるアレです。ただ僕はお酒を飲む前から元々、不眠持ちなんですよ。18歳の受験シーズンくらいから発症して何十年も苦しんできたんですね。ストレスが無いと寝られるんですが、ストレスのない生活なんて漫画編集者になってからほとんどありません。最高な仕事だとは思いますけどね、ストレスは多いのです、本当に。寝れないので今日のコラムは深夜更新です。今日のコラムネタは昨日観た『窓際のトットちゃん』か『ザ・プロフェッショナル』の宮崎駿スペシャルのどちらかにしようかなと思ったのですが、日が経つとあれなので先に宮崎駿スペシャルの方で。とりあえず見たことがなかった『赤毛のアン』を流しながら書いています。このアニメ、僕の母が好きでしたね。

僕は宮崎映画は全て大好きですが、それでも一番好きなのは『風の谷のナウシカ』です。世代のせいもありますが、ナウシカを僕の中で一番に押し上げているのが漫画版のナウシカの存在があるからでもあります。当時、漫画版ナウシカに出会ったのは19歳の浪人時代です。アニメ映画のナウシカしか知らなかった僕には内容のあらゆる面が衝撃的でした。テーマもキャラも何もかもアニメ版とは違うのです。どちらも同じ宮崎駿の作品なのに、なぜこうも違うのか不思議でした。で、先日の放送で謎が解けました。ああ、そうか。高畑勲の存在があったからかと。宮崎映画の中には高畑勲の作家性や、アドバイス、アイデアが入り混じっていたのです。これって何かに似ています。そう、漫画家と漫画編集者で作る商業漫画にそっくりです。もちろんアニメ映画なのでそりゃ沢山の人間のアイデアとかが入り混じるのは当然です。ですが、がっつり宮崎駿が取り入れているのが高畑勲のアイデアとかアドバイスなんだなぁと番組を見て思いました。作家として宮崎駿を見た場合、担当編集が2人いて創作面を高畑勲、それ以外を鈴木敏夫プロデューサーがサポートしているって形でしょうか。逆に言えば漫画版の方が、宮崎駿の作家性は強く反映されているとも言えます。ただ漫画版のナウシカはその作家性が強すぎるが故に読む人を選びます。僕はアニメ以上に漫画版が好きです。

では作家性とはなんでしょう?以前にもこのコラムで取り上げましたが、僕はそれは世界観だと思います。世界観とはその作家がこの世界をどう捉えているかです。そして、その世界観が独自性があればあるほど作家性が強いと言えます。漫画版のナウシカの世界観が、当時の僕にどれほどの衝撃を与えたことか。特に最終巻。愚かさも醜さも含めて人間を肯定しているそれは、かつて僕がみたこともないそれでした。トルメキア王の台詞がしびれますよ。ただ作家性が濃い!濃すぎる。世界観が今見ても斬新すぎる。僕の会社にも全巻置いてありますが、なかなか若い社員は読もうとしません。読もうよマジで(怒)。まあ、でも濃すぎる作家性は広く商業としてヒットを目指す場合に障壁となるということでもあります。

で、商業の世界において担当編集の役目はその作家性を、世間に出来るだけ受け入れやすく加工することだとも言えます。では、加工する人間に必要な素養とはなんでしょうか。僕はやはりその人も独自の世界観を持っている事が必要だと思っています。作家が持つ世界観と担当編集が持つ世界観がぶつかり合い、大衆に受け入れられる世界観を生み出すのが商業作品の醍醐味なのかなぁと。という事はやはり漫画編集者も書こうと思えば、シナリオやネームぐらいは書けなければ話にならない気がしますね。さらに言えば宮崎駿が高畑勲を尊敬していたぐらいに、担当作家に認められるレベルでなければなりません。おいおい、ハードル高いな漫画編集者。

ただ、そんな商業漫画が苦手な人もいます。今の僕がそうです。僕はしょっちゅう商業作品アレルギーなんかを引き起こして、流行りの漫画もアニメも映画も気持ち悪くて読めなくなる時もあります。漫画家と編集者、監督と脚本家の意見がぶつかった結果、どっちつかずの妥協案みたいなのが見えるとめっちゃ冷めます。仕事を抜きで作品を楽しむ場合、もしくは自分の創作の糧としてのインプットをする時にはやはり、作家性全開のカルピスの原液みたいな作品が好きです。僕が担当編集した作品にも原作を書いてきた作品には漫画版ナウシカから影響を受けた箇所が沢山あります。その観点で言えばアニメより漫画、漫画より小説の方がインプットになりますね。

なんの話してたんでしたっけ。そうそうナウシカの話。ナウシカ2の映画の話が出ています。番組のあのラストを見たら誰しもそう思いますよね。ただ素直に見たいとはいえないのが本音です。漫画版のナウシカが本当に好きなので。というか赤毛のアンが面白くなってきたので、これ以上見ながらコラムは書けません。僕は眠くなるまでアンを見ます。みなさまおやすみなさい。深夜のコラムでした。


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