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ほぼ漫画業界コラム140【予算と締切】

前回のコラムでも書きましたが、エンタメ作品に過剰な制作費は良くないと考えています。少ないのもだめ。ちょうど良いのが良い。

ゲームでも音楽でも漫画でも、「制作費○○億円」とか「最高のスタッフ、最高の座組」などで盛大にこけた作品を数多く経験していませんか? ヒット作をバーンと出して制作予算もバーンと上がった映画監督の次回作とか、デビュー作で大ヒットを出した漫画家の全世界注目の次回作とか。ゲームの世界でもよくあります。

そのような作品の多くは必ずどこかが悪い意味で暴走しています。それは複雑過ぎる設定だったり、長過ぎるシナリオだったり、内容に合っていない作画だったり。どこかが歪なのです。一部のクオリティが突出しすぎていてバランスが悪いというか。僕が思うに、潤沢過ぎる予算と余裕すぎる制作期間をもらえると、クリエイターの多くが自分がやりたかった事、思いついたこと、何でもやりたくなります。ですが、自分たちがコントロールできる範囲を超えてしまい、ついに抑え込めなくなります。ちなみに、漫画の場合は連載前に原稿料が豊富だと、クオリティが高い背景を求めて背景スタッフを抱え込みすぎる場合もあります。それらの管理で疲弊して肝心の自分の作画が進まない事態も起きます。さらにその緻密な背景に合わせた複雑なキャラデザイン、緻密な人物作画。それらが結果として原稿料を超える制作コストを生み、描いても描いても終わらない地獄に作者を落とすこともあります。

僕はクオリティにこだわるのは大切ですが、ある意味手を抜くことも同じぐらい大切だと思います。手を抜く、いや諦める、妥協、どう言い換えても構いません。商業クリエイティブに大切なのはクオリティへのこだわりと同時に妥協なのです。そのためには冷静と強熱の狭間、そんな感覚が必要なのだと思います。ただ、クリエイターにとって妥協するということは何よりも苦しいという人もいるでしょう。ですが、その感覚を得るために存在するものがあります。それが予算とスケジュールなのです。それらをしっかり意識すれば、自分が出来る事、出来ないことが見えてきます。その中でバランスがいい作品を作ることが成功につながるのではと考えるようになりました。もちろんそれは、漫画であれば編集者、それ以外であればプロデューサーの仕事かもしれませんが、クリエイター自身も分かっていた方が良いことであるのは間違いありません。


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