20160131_片想い表紙-ANSER-

片想い~l'amour non partagé~ Spin-off『ANSER』

「瑠璃ちゃん!これを歌わないで、どうすんの?!」

居酒屋のバイトを終えた私は、深夜のファミレスで、バンド仲間の文音ちゃんと久しぶりに話してた。

文音ちゃんは、un quadernoっていうバンドのヴォーカル。
やわらかく伸びやかな歌声は、聴いててとっても心地がいい。
パワーをもらえるっていうのかな?
落ち込んだときとか、絶対聴いちゃうもん。

今夜はiPhoneから聴こえる、文音ちゃんの歌声だけじゃ満足できなくて「会いたい」ってメールしてしまった。
突然だったにも関わらず、文音ちゃんは私のバイトが終わる時間に合わせて、ここへ来てくれた。

なぜ、こんなにも落ち込んでいるのか…
それは私の執着心が、あろうことか作詞にまで影響してきているという事実。
昨日、バンドメンバーの柳に指摘されて気づいたこと。

これまで、こんなことなかったのになー…
なんで今になって?

自分の病状を文音ちゃんに伝え、一番わかりやすいであろう“ラブレター化“してしまった、可哀想な歌詞を見せた。

すると文音ちゃんは、瞳を輝かせて言うのだ「いいじゃん!」と、何度も何度も。

「いやいや、文音ちゃん。これはダメだよ、イタ過ぎるって…」

私は泣きたくなって、両手で顔を覆った。
文音ちゃんの生声をもってしても、全然心が晴れないなんて!アリエナイ!!

そんな私を見て、文音ちゃんがそっと手を伸ばす。
細くて綺麗に整った彼女の指が、顔を覆った私の両手をやさしく解く。
視線を上げると、柔らかい文音ちゃんの笑顔が見えた。

「誰がなんて言ったか知らないけど、私はこの歌詞好きだよ!」

「文音ちゃーんっ!!」

感極まり、テーブルを挟んで向き合って座っているのも忘れ、私は文音ちゃんにハグをしようと立ち上がった。
しかし、備え付けのテーブルに足を強打し、阻まれた。
イタイ…地味に痛い、これ。

「ねぇ?この歌詞、柳クンが曲つけないなら、ウチでもらっていい?」

「へ?」

「これは明日、青タンできるなー」と思いながら、打った所を摩っていたら、文音ちゃんが突然「パンッ」と軽やかに手を叩いた。
私は何が起きたのかついて行けずに、ただただ呆然としてしまう。
でも、文音ちゃんの表情がすごく楽しそうだったので「うん、いいよ」と応えた。

「ヴァレンタインイブにね、ライブするの!」…というのは、文音ちゃんに随分前から聴いていた。
選曲もこだわって、チョコレートに負けないくらい、甘い甘いヴァレンタインイブにするんだ!って、気合い入りまくってたし。
私も当然チケット買って、参戦する気満々だった。

なのに…なのに、だ。
なんで、こうなった??

「おーっ!やっぱり、アタシ瑠璃ちゃんのこと、よくわかってるわー!!」

ライブを終えた文音ちゃんが、何故かステージ衣装に着替えた私の前に立つ。
文音ちゃんの用意してくれた衣装は、普段の私じゃ選ばないタイプの可愛い系のデザインだったけど、驚くほど似合ってた。
まるで、自分じゃないみたい。

満足げに微笑む文音ちゃんは、私を姿見の前に連れて行くと、細かな直しをしてくれる。

「曲はもう、入ってるわよね?」

「うん、それは…って…ちょっと、文音ちゃん?!いきなりリハに呼ばれて、3時間後に本番とかって、どうなの?」

「えー?曲、気に入らなかったー?」

「そんな訳ないでしょう!?ユキノフさんの曲、大好きだもんっ!!」

「じゃあ、いいじゃない♪」

シンデレラに魔法をかけた妖精は、きっとこんな風に…魔法をかけられた当人よりも、幸せそうに笑ってたんだろうなぁ…と、場違いなことを思ってしまった。
いやいや、現実逃避してる場合じゃないから、私!!

「やっぱりよくないよ…いくら飛び入りにしたって、ルール違反過ぎるんじゃ…」

「大丈夫だって!ユキは、瑠璃ちゃんの歌詞見た瞬間から、テンション上がったまんまだし!ムツもマサも、ノリノリなんだよっ!ねっ!」

「ねっ!」って…見惚れるようなウインクされても、困る。
だって、納得しちゃうじゃんかー!!
ここまで来ておいて、引き返すのなんか、それこそ“今さら“なのだけど。

「歌はさ、やっぱり歌ってあげないと、綺麗に咲けないじゃない?」

うつむく私を、文音ちゃんが覗き込む。
駄々をこねる子どもを、優しく諭す母親のように。

「一度でいいの。アタシはこの曲を、瑠璃ちゃんに咲かせて欲しいんだ…」

ステージの用意が整った合図の音が鳴る。
歌うたいの性だろうか?
この音を聴くと、どんな迷いも断ち切れて、自然と身体が動いてしまう。
文音ちゃんに頷いて、私はステージへ向かった。

曲は、ユキノフさんが弾いてくれる、ピアノだけのハズだった。

マイクを持つと、周囲が見えなくなる私は、その音が耳に入ってきたことが最初、信じられなかった。
初めて聴いた時から、魅了され続けているベースの音。

憧れて、好きで、欲しくて欲しくてたまらないのに。
絶対手に入れることは出来ないって、わかってる…人。

その音は、どこまでも私の声に寄り添ってくれた。
歌い終わるまで、ずっと。


まるで奇跡みたいな時間が、終わった。


ユキノフさんのメロディは、本当に素敵で…歌っていてどんどん感情が湧きあがった。
そして、この人・田島敦樹さんのベースに、私のトキメキが加速していったのだ。

「なぜ、田島さんが…ここに?」

文音ちゃんたちが、ライブ後のイベントをファンのみんなと楽しんでいる間、私と田島さんは控室にいた。
「2人とも、打ち上げ強制参加だから!」と、ステージを降りた私たちに文音ちゃんが言ったから。

正直、歌い終わった私は、衣装のままでもいいから、すぐに走って家へ帰りたかった。
だって、恥ずかし過ぎるでしょう?!
片想いの相手に、柳曰く「感情、ダダ漏れ過ぎ」の歌を聴かせてしまったんだから!!

座っている椅子がビミョーに離れているのは、まさに2人の心の距離感そのもの。
私は詰まりかける喉を、どうにかこじあけて問う。

すると、気まずそうに右手で左の頬を撫でて、彼は答えた。

「文音に、呼ばれたんだ。ヴァレンタインイブだから…って。とりあえず楽譜だけ渡されて…意味がわかんなかったんだけど、なんて言うか…んー…」

どう言葉を繋げたものか、思案している田島さんに胸が痛む。
「すみません」と小さく溢れた私の声を掻き消すように、田島さんの声が重なる。

「あれは…俺のこと…で、いいんだよね?」

ですよね。
それはバレバレですよね…。
穴があったら入りたいって言葉の意味を、噛み締めながら私は頷いた。

「そんなに好きなの?」

「?!!」

純粋な瞳で疑問を投げかける、田島さん。
私の口からは空気だけが、いくつも抜けていった。
何コレ?!どんな罰ゲームなのっ!?
帰りたいっ!もう帰りたいよっ!!文音ちゃんっ!!

「前にも言ってるみたいだけど、俺、自分から好きにならないとダメなんだ」

「…うん」

「だから…答えがいつ出せるのか、わからない…っていうか…いつまで待っても、お前の望む答えは…出せないかもしれない…」

彼の温もりある声を聴いていると、私の目から自然と涙が零れた。
それを見て、田島さんがガタッと立ち上がる。

「いや、ホント悪い!こういう…気を持たせるような言い方して…俺、卑怯だよな」

私は、首を左右に振って否定する。
田島さんは、その意味がわからないらしく、眉間に皺を寄せた。
その表情が可愛くて、私は思わず微笑んだ。

「受け止めて、くれるんだ…って思ったら、嬉しくて…」

「は?」

「いや…振られたのに、あんな詩書いちゃうし、歌っちゃうし…キモいかな、って…」

ステージを降りて我に返ると、とんでもないことしちゃったーって、すごく後悔した。
叶わないってわかってるから、田島さんに自分の想いを伝えるつもりはなかったし…ましてや、この歌を聴かせるなんて思ってもいなかった。

今までの想いが濃縮還元された、ラブソング。

ドン引きされた…って、思った。
ステージを降りたら、今までみたいに話せなくなる…って、覚悟してた。
なのに、田島さんは私の想いを丁寧に受け止めてくれたのだ。

「なんだよ、それ。いい歌だったじゃないか。あんなストレートなラブソング…瑠璃が歌うから、ちゃんと伝わったし…正直、ちょっと…聴き惚れたぞ、俺」

そう言うと、パッと染まった頬を隠すように、田島さんは横を向く。

田島さんは誠実な人だから、嘘をつかない。
それは「答えが出せない」ことが答えであることからも、よくわかる。
適当に誤魔化したっていいのに…絶対にしない。

そんな田島さんが、私の歌に聴き惚れたですって?!
彼の頬の、中々ひかない熱を見つめてその真実を、しっかりと味わう。

世のコイスルオトメからすると、こんな結末はありえないだろうな。
告白したのに、宙ぶらりんな状態のままなんて。
でもね、私は今とっても幸せ。

大好きな人に想いを伝えることができて、その人がちゃんと受け止めてくれたんだもん!
まるで、奇跡だ!!

正直、私は無宗教で。
だから、神様なんて言われてもピンとこないし。
もしいたとしても、すごく遠くにいるって思ってたのに。

すごく、近くにいたんだね。
文音ちゃんや、ユキノフさんたち、それに柳。
私を…私の想いを見守って、力を貸してくれた人たち。
私には、みんなが神様なんだって、ヴァレンタインイブに気がついた。

恋する女のコ。
どうか、その想いを諦めないでね。
今度は私が応援するから!
綺麗な花を、ヴァレンタインに沢山、沢山咲かせよう!

#小説 #オリジナル #短編小説 #片想い

先日、ならざきむつろさんの企画『片想い~l'amour non partagé~』で、MA3さんが書かれた『待ち人』の、スピンオフを書いてみたところ。

片想い企画『待ち人』スピンオフ小説|cometiki

なんと!月里文音さんが歌詞をつけてくださり…
cometikiさんの『待ち人』スピンオフ小説の劇中歌(?)の歌詞を1番だけですが書いてみました♪ 曲つけてくださる方、絶賛募集中!(^_-)☆|月里文音

さらに!ユキノフさんが、曲をつけてくださいました!!
≒片思い カラオケ(その願い、叶えようw)|ユキノフ【国語愛好家】

もうね、「noteスゲェーーーーーっ!!」と、大興奮ですよ!!

そして現在、ならざきさんの片想い企画に、追加イベントが発生しています
追加企画『片想い~Deus ex machina~』|ならざきむつろ記念館←今ココ(多分)

私は書くのが遅いので、リレーには参加できませんが、「幸せにしたいとしたら、やっぱり瑠璃ちゃんでしょう!!」と思いました。
そして、瑠璃ちゃんのことを想ってくださったかたのことを考えていると、この物語が完成したのです!
(パラレルワールドありってことだったのでっ!!)

イベントの追加企画内容からは、随分外れてしまったもかもしれませんが、沢山の人に「ありがとうございました!!」の気持ちが伝わるといいなぁ。

本当に、本当に、幸せな時間をありがとうございましたっ!!

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