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熱帯魚のいじめを解消したくて農薬つきの水草を入れてしまった

 心やさしきものに、せめて安心できる居場所を用意してあげたい。いじめが発生してしまったら、なにか手を打たなければならない。どんな動物にも不安というものがあるようで、熱帯魚も餌場を守りたいのか、メスを守りたいのか、なわばりに入ってくるライバルは容赦無く追い出そうとする。不安は本能、消せないので、いじめもなくならない。せめて安心できる居場所を用意してあげたい。

 水槽で熱帯魚だけを飼育していると、フンや食べ残しで汚れてくる。底砂も石も一面が、灰色から茶色に染まり、ところどころに細長く黒い小さなフンが落ちている。1〜2週間もすれば、南国のビーチのようなトロピカルで白い底砂は、九十九里の海岸になってしまう。私の選んだ底砂は「アマゾン源流の白砂」という、水に溶けるほど粒子の細かいほとんど真っ白な砂だったのだが、グレーのもやもやした、得体の知れない浮遊物が浮くようになった。沈めている黒斧石にも円形に黒いシミのようなものが発生し、徐々に広がっているようだった。これは、苔だ。

 こういう状況にはエビが、いい。ヌマエビ。特に、ヤマトヌマエビはこういった水槽の汚れを掃除してくれる。60cmの水槽に10匹のヤマトヌマエビをいれると、たった2日で黒斧石の苔、白砂の上の浮遊物、水草の汚れ、フンがすべてなくなった。輝く白さを取り戻し、最初に設置したトロピカルな熱帯魚水槽が戻った。しかも、見ていると汚れに優先度をつけて、ひどい汚れから撤去してくれる。実に見事。最初に黒斧石がピカピカになり、ついで、底砂の浮遊物、水草と汚れの少ないところを順番に、根こそぎ綺麗にした。見ているうちにみるみるキレイにしてくれるものだから、ついつい時間を忘れて見入ってしまう。良い酒のつまみになった。

 そんな大活躍のエビにも弱点がある。農薬だ。きれいになった水槽では、少しずつ派遣争いが激化していた。つまり、領土問題。割合おとなしいと言われる、プラティを飼育しているのだが一匹の白いプラティが、他の、とりわけ赤いプラティを追いかけ回している。かわいそうな赤プラティに安らぎを与えたい。隠れ場所を用意してあげようと思い立った。水草が良いんじゃないか。

 農薬は水草についてくる。だから、水草をいれるときは「水草その前に」という商品が鉄則だ。この薬は、巻貝などの発生を防止してくれるのと同時に農薬除去をやってくれる。水道水2lに粉を1袋入れ、かき混ぜた上で10分ほど水草をつけておく。これで準備万端。いつもの手順でこれをやったはずなのだが・・・。足りなかったらしい。

 水草を入れて、しばらくすると・・・。

 普段はばらばらに水槽内を探索しているエビたちが、黒斧石の影に集まっていることに気が付いた。体を上下逆さまにして重なり合ってじっとしている。常に激しく動かし続けているはずの手も止まってしまっている。明らかに異常事態。原因は水草。明らかだ。

 「水槽のヒーローを見殺しにするわけにはいかない」

 インターネットで調べると、「原因の水草を全て撤去して、水を全換水せよ」と、ある。しかし、全換水するほど、カルキを抜いてある水の蓄えがない(カルキ抜きの薬剤もない)。それに、せっかく入れた水草を撤去すれば、プラティのいじめがなくならないじゃないか。さらに調べると、農薬は水につけて2,3日すれば、すべて水に抜けるらしい。ならば、換水して農薬の濃度が下がるまで、エビの方を避難させておけば良いのではないか、と考えた。

 さっそく、エビ救出に乗り出した。が、救えたのは半分の5匹だけだった。岩に張り付いているエビを救出するのは至難の技だ。さっきまで元気だっただけあって、まだ体力もありあまっている。あと少しというところで網から飛び跳ねてどこかに消えてしまう。救えた5匹は別の水槽に移して、すぐに元気を取り戻した。

 残り5匹の命を救うべく、毎朝水槽の水を1/3ずつ換水することにした。事故が起きたのは日曜日の夜だ。月曜日、火曜日、ほとんど身動きしていない。死んでいないのが奇跡か。水曜日、ちょっとばらけた気もするが、気のせいかも知れない。

 そして、今日は木曜日だ。水替えを4回したことになる。農薬が均等に水槽内に分布しているとして、もともと水槽内にあった(a)グラムの農薬は一回換水すると、2/3ずつ減るので・・・、

 a x (2/3) x (2/3) x (2/3) x (2/3) = a x (8/81) = a x 約1/10

 今日で農薬濃度は当初の10分の1になった計算だ(たぶん)。

 今日の夕方のことだ。ずっと岩陰でじっとしていたヌマエビが、いない。赤くなって地面にまるまってるんじゃないか?嫌な予感を感じつつ、水槽内を探すと・・。岩の上にいた。しばらく放置されて汚れきっている岩の上で、小さなハサミを一生懸命かちかちと動かしていた。助かった。だいぶ農薬が薄まった影響と思われる。

 水草についていた農薬は、永遠にその効力を出し続けるわけではないようだ。いったんすべて水に溶かしてしまって、換水すれば、いつか農薬の濃度は低下してエビが住める環境になる(こともある)。今回、助けることができたのは、当初の農薬の濃度が致死量に達してなかったこと(一応「水草その前に」を使っていた)と、農薬が回りにくい隠れ場所(岩陰)があったこと、毎日換水できる時間が取れたこと、と思われる。次に水草を入れるときは、最初にバケツの水に一週間くらい浸けよう。

 これにて一件落着、一息ついて、ふと、水槽をみる。白いプラティが、水草に隠れているプラティを見つけて・・・、追いかけ回している・・・。

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