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【感想】『NEVER SAY GOODBYE』

ミュージカル
『NEVER SAY GOODBYE』
-ある愛の軌跡-
作・演出/小池 修一郎
作曲/フランク・ワイルドホーン

東宝で観劇をしてきました。
チケットが取れたのが何と1日のみ。しかも久しぶりのB席でアトレックの望遠鏡に助けられました。

さて、『NEVER SAY GOODBYE』(以下、ネバセイ)は16年振りの再演ということですが、わたしは当時は宝塚から離れていた時期でもあり、初演は観ておりません。
テーマ曲の「one heart」何かとスカステなどで聞くため、耳馴染みがあったのですがこの劇中歌ということも知らないという体たらくです。

特にネタバレを踏むこともないままに真っ新な状態で観劇ができました。

スペイン内戦を扱っている作品ということで、昨今の情勢が心情的にもリンクして何ともやるせない気持ちになりながら観ました。
では、以下からネタバレありの感想を綴りたいと思います。



いつもは、ストーリーから書くのですがネガティブになってしまったので、全体の感想とキャストの感想を先に綴ります。ネガティブ苦手な人は読み飛ばして下さいね。

全体の感想


宙組はコーラスが美しいと誰しもがいうけれど、本当にそう。
美風さんが異動されても変わらぬ美しさ。音の洪水。男声と女声が混ざり合い美しいハーモニーとなって胸に迫る。
今更ながらですが、ひとりひとり歌が上手い人が多い。そして声量がある人が多い。それが合唱するのだもの感動するしかないです。
ワイルドホーンの楽曲も好きですし、ストーリーはこの壮大な音楽と歌唱によって助けられているように思います。



キャストの感想

  • ジョルジュ・マルロー(真風 涼帆)
    ハンサムでスタイリッシュ。きっと彼が売れっ子ジャーナリストの肩書がなくてもモテてしまうでしょう笑
    一見チャラいようで誠実で自分に正直すぎて実は生きるのがあまり上手くない人を演じさせたら右に出る人はいないと思っています。
    セリフも歌も丁寧に丁寧に発されていて、真風さんがこの作品をどれだけ大切に想っているか伝わりました。

  • キャサリン・マクレガー(潤 花)
    顔も美しいし、声も美しい。地声歌唱で、声量が上がっているように感じました。

  • ヴィセント・ロメロ(芹香 斗亜)
    褐色の肌がセクシーで、粗野な風情だけど恋人に優しく情熱的で素敵でした。自分が誇りに思っていた仕事を捨てて、もう他に捨てるものはないというようなセリフは共感するものがありました。

  • コマロフ(夏美 よう)
    存在感を自在に操るところが本当に演技巧者!と唸りました。アギラールがアジトに踏み込んだ際に、やや離れた場所で表情を変化させた夏美さんにすぐに目線を移してしまいました。

  • フランシスコ・アギラール(桜木 みなと)
    悪い役なのに、なんだか自滅する小物感が拭えない。若さゆえの浅慮というか。従えているようで掌で転がされている感じとか。潤花キャサリンに執着する感情も理解が追い付かなくて嫌悪感がわく(これ脚本の問題かな)。
    一幕ではワンハートの叫びに心が呼応しているようにもみえて愛国心もあったのでしょうが、二幕では権力にとりつかれている愚者となり果てていました。失墜していくのは同情の余地がありません。好きになれない悪役を演じた演技力が素晴らしいと思います。
    また、歌も声量と感情がさらに達者になっていかれて仕上がりの良さを感じました。

  • アニータ(瀬戸花 まり)
    そうか、退団されるのですよね。存在感が素晴らしかった。このように実力がある人が抜けることは悲しくもありますがきっとこれからもご活躍なさるだろうと信じています。

  • ラ・パッショナリア(留依 蒔世)
    女役でも格好いい。圧倒的な芸達者。異動した和希そらさんとこの方は出てくるだけでわくわくしてしまう。歌もいいし踊りもキレキレで格好いい。重要な役という訳でもないけれど彼女が出てくるだけで存在感が大きくなります。

  • 市長(若翔 りつ)
    歌の圧がす!ご!い!!ずっと聴いていたい。

  • エレン・パーカー(天彩 峰里)
    女優で派手ないわゆるかませ犬的な役と書くと身も蓋もない。ただ、彼女の立場になって考えてみるとあれくらいの悪態は当然じゃないかしら。ギリギリのところで守ったプライドだったのかなと。彼女は彼女でジョルジュへの想いは本物だったよね…と思う。天彩さんが上手いので魅力的な役だった。「美しくて頭はからっぽ」というように女性を卑下するワードが男性視点で凄く嫌いなのは私だけなのかしら。そうそう、とても大切なことを最後に書かなくては、エトワールは圧巻でした。高音が突き抜けていくエトワールが好きなので(全部がそうじゃないって気付いたよ)感動で締めくくれました。

他に気になる人達

ビル・グラント(瑠風 輝)、ビョルン(鷹翔 千空)、ハンス(風色 日向)、イザベラ・ベティ(小春乃 さよ)は安定の上手さ。母親(花菱 りず)のシーンは演技が丁寧で心が痛みました。





ストーリーの感想


※ネガティブなことを書きますので、大絶賛以外は苦手な方は読まないことをお勧めします。

実は、観劇終了後から色んな感情が自分を覆いつくしました。
極論を言ってしまうと、自分とは非常に相性が悪い作品であったと思います。
主演二人のラブロマンスに感情移入したりときめいたりする余裕も沸き上がりませんでした…(宝塚なのに悲しい)

市民が兵士となる凄惨な状況をカメラに納めて世界に真実を発信することを決意し多国籍の同志たちと一緒に過ごすようになりました。そして、根無し草だった自分の居場所を見つけることができて、本人曰く“人生の真実”を見つけ同志たちと最期の時を迎え爽やかに去っていくラストシーンでした。

カメラマンとして常に俯瞰で物事を捉えてきた主人公が、傍観者ではなく当事者に変容する過程は、この時勢とも重ねて“ただの悲観している傍観者である自分”を再認識して胸が詰まりました。
内戦で武器を持って立ち上がった市民の、勇気や哀しみや絶望感など余白の部分で昨今の情勢とリンクさせてしまい、この瞬間も苦しんでいる人たちがいることを思うとやりきれない気持ちになるのです。
観劇だからと切り分けができない不器用で集中力がないことに自己嫌悪します。
頑固なまでに「戦争や滅びの美学」とか「潔く仲間と散る美学」をどうしても理解というか受け入れ難いのです。
きっと感動するするシーンなのでしょうが、感動してはいけない気持ちが強く働いてしまうのでした。
そんな訳で、自分にはネバセイはしんどかったです。


余談ですが、フィナーレでB席の奥地(僻地という感覚)まで確りと熱いまなざしで朗々と歌い上げる芹香斗亜さんを観てはじめて熱い涙が零れました。
どれだけ真っ暗な気持ちになっても、夢を見せてくれる宝塚歌劇はありがたいと思いました。
B席にいて一度も目線など感じないことは多々あるのですが芹香さんは本当に全体をよく観ているんだなあとありがたい気持ちでいっぱいになります。

まとまりませんがお読み下さりありがとうございました。

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