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#05 「愛しさ」が溢れる美しい映像はなぜ生まれるのか?

✔️誰もが楽しめる、美しくも優しい作風に込める想いとは?
✔️メキシコからカナダへ拠点を移したAVAが語る「最適な環境を選択する」ことの大切さ
✔️幅広い世代に愛される作品を生み出し続ける、彼らのルーツや想いに迫る

カラーズクリエーションによるインタビュー企画「CREATOR's INTERVIEW」。

第5弾となる今回は、カナダ・トロントを拠点に、プロジェクションマッピングをはじめとした様々な映像コンテンツを制作するAVA Animation & Visual Arts(アヴァ・アニメーション&ビジュアルアーツ)を招き、カラーズクリエーション代表 石多未知行との対談をお届けする。

AVA Animation & Visual Arts(アヴァ・アニメーション&ビジュアルアーツ)
Pedro、Emmaの2人による、世界的に高い評価を得ているビジュアルプロダクション。
メキシコからカナダに拠点を移し、映像制作のみならず、プロジェクションマッピングの企画制作、常設作品のコーディネートも担っている。
── 個性的でユーモアのあるキャラクターデザインを得意とし、且つ圧倒的に美しくクオリティの高い3DCGは優さや暖かさも感じさせる。
プロフィール:https://colors-creation.com/creator/ava/

写真左から Emma、Pedro、石多未知行。
毎年来ているという日本旅行の最中に、インタビューに協力してくれた。

可愛らしい作風と映像美に込める、クリエイターとしての想い

石多:今日はインタビューに応じてくれてありがとう。
早速だけど、AVAの映像作品といえば、決め細やかで美しい映像と子供たちが喜ぶような可愛らしいキャラクターデザインが特徴的だと思っています。
作品のスタイルとして、意識していることはある?

Pedro:見ている人の「幸せ」な気持ちを大事にしたいと常に思っています。
この世界には本当に様々な価値観が存在しているけれど、どんな人が見ても「幸福感」や、嬉しい気持ちを思い出せるような、そんな作品を作りたいと思って、今の作風にたどり着きました。
楽しく、愛おしく、優しい気持ちになれるようなキャラクター表現を目指したいですね。ただ可愛らしいだけでなく、時には刺激的な動きも織り交ぜて驚きを与えられるように意識しています。

Emma:実際に映像が流れて、子供たちが喜んでいる姿を見るときが本当に幸せですね。作っている段階でも、自分の子供達のリアクションを見ています。やっぱり子供たちの反応を見ると、作品がどんな印象を与えているか、効果的に魅せることができているかを判断しやすいです。
もちろんどの世代の人にも楽しんでほしいですし、作品を通して子供の頃に戻ったような楽しい気持ちを思い出してくれたら、クリエイター冥利に尽きます。

世界的なプロダクションを育てたのは「日本のサブカルチャー」だった?

石多:どういった経緯で2人は映像の道に進んだのですか?
できれば子供の頃の話から聞いてみたいです。

Pedro:子供の頃はファミコンやセガサターンといったビデオゲームが大好きでした。「バンパイア・ハンター」とかみんな知ってるかな?

Emma:当時から日本のアニメやゲームは人気で、今も家族ぐるみで見ています。
私はセーラームーンの大ファンで、メキシコではエヴァンゲリオンとかも有名でした。

Pedro:僕は聖闘士星矢とかドラゴンボールとか…。
あと、ミュージックビデオが好きで、学生時代はMTVをずっと見てました。
そういったものの影響で子供の頃から映像を学びたいと思ってたけど、当時のメキシコにはアニメーションをしっかり学べる場所がほとんどなかったんです。
なのでまずはグラフィックデザインを学べる学校を選んで、妻とはそこで出会いました。
学校は色々と自由な校風で、創作活動に集中できる環境でした。ただ学校のPCが頼りないから自分のMacを持ち込んだりして、個人的に映像制作に明け暮れていました。

Emma:私も当時から映像制作に強い興味がありました。
メキシコでは質の高い映像の勉強をできる環境に乏しくて、より深く学べる場所を求めてカナダの大学に行き、そこで映像の研鑽を積んできました。
メキシコの学校でデザインを学び、カナダで本格的に映像制作を学んだという流れですね。

石多:なるほど、どうやってプロジェクションマッピングに出会って、今の活動に繋がったんですか?

Emma:映像を手がけ出した当時はプロジェクションマッピングのことも全然知らなくて、カナダの大学に在学していた頃にアメリカの映像コンペでセミファイナリストに残ったり、とにかく映像制作の活動に力を入れていましたね。
カナダでモーショングラフィックスを勉強した後は、TVの映像制作会社に4年くらい勤めていました。

その後独立して、制作会社AVA Animation & Visual Artsとしてデビューしたのですが、当時私たちはシャイだったというか、ガツガツ営業をして仕事をとる意識が薄くて…。
「良い作品を作れば、言葉を尽くさなくても仕事が入る」という状態を目指して、プロモーションのための努力はあまりしていなかったんです。

Pedro:プロジェクションマッピングを初めて手がけたのは2010年ごろ、レバノンのテレビ番組での企画でした。
当時、プロジェクションマッピングを美しく見せるようなノウハウは全くといっていいほど持っていなくて、テクニカル的にも未知の領域でした。
だからこそ新しいものを扱っているという感覚があって、非常に面白かったです。

手探りで初めて作ったマッピングに自分たちで感動し、この表現にポテンシャルを感じたのが、今の活動につながるきっかけでした。

Emma:それからは、いろんな国のマッピングフェスティバルに参加しました。
日本はもちろん、ロシア、オランダをはじめ、いくつかのイベントに作品を出し、ポートフォリオを充実させることができて…。
その頃からやっと定期的に仕事が入ってくるようになってきたのを覚えています。

アート・生活の観点から見る「国の選択」の重要性

石多:AVAはメキシコからカナダに拠点を移したけど、どういった理由からですか?

Emma:シンプルに、映像の仕事で生活していく環境がより整っている場所を選びました。
2人の子供がいる中で拠点を移すのはとても大変でしたが、カナダに来てからの4年間はとても充実しています。
子供たちにとっても、カナダの方がいろんなチャンスを得やすい環境だと思っています。図書館などの教育施設が充実していて、安全に勉強ができる。

メキシコでの暮らしは、何より生活の安全を確保することの方が大事になってきます。
特に女性にとっては厳しい環境かもしれませんね。
着る服、行動の様式も違いますし、子供にもなるべく付き添わないと安心できない状態です。

メキシコは綺麗な国だし、素敵な場所も沢山あるものの、映像制作の世界で生きていく拠点としては色々な国を検討したほうがいいと思っていました。
特に子供たちにとって、生活環境が違うことはその後の人生を左右しますよね。

石多:そうですね、
それにアート的な意味でも、その国ならではの環境で生まれる作品やメッセージに違いが生まれますよね
そうした中で、自分の子供たちへ、何か大事にしていることはありますか?

Emma:やっぱり私たちが活動している分野に興味を持っていて、アプリなどを駆使して絵を描いたり映像を作っています。
ただ、必ずしもクリエイティブの道に将来を絞ってほしいとは思っていないので、親からプレッシャーをかけたり、本人の興味を無理やり作るようなことはしないようにしています。

Pedro:子供たちが色々なものに触れるチャンスを得られる環境というのも、カナダを選んだ理由の一つですね。

「アートの街」カナダ・トロントでの活動をスタート

Pedro:カナダで通っていた学校の中には、仕事のサポートをしてくれる機関(ビジネスアクセラレータ)がありました。
私たちはそこを通して、世界各地にいるフォロワーや地元の企業・自治体と連絡を取り、トロントの街とつながりを得ていきました。

この頃から私たちの活動は、メキシコからカナダへと拠点を移していくことになります。

カナダ最大級の都市トロント
文化的な取り組みが注目され「アートの街」との呼び声も高い

トロントの街がアートに染まる 「BigArtTO」

Emma:トロントを中心に活動する中で、周りの企業や自治体と協働することも増えていきました。
特に2021、2022年は「BigArtTO」というイベントをメインで手がけていました。トロントで始まった「アート週間」のようなイベントです。

2年開催した中で、計200以上の建物にアートが映し出されるイベントになりました。
美術館や学校など、様々な建物でプロジェクションマッピングを実施して、街の人にも、観光客にも認知されるくらいに成長しています。

私たちはBigArtTOでの映像制作に加え、街の行政や学校などとのコラボレーションも企画することで、ネットワークがどんどん大きくなっていきました。

OCAD大学(オンタリオ・カレッジ・オブ・アート&デザイン)の学生と共同で作成したマッピング作品

Pedro:実は、プロジェクションマッピングの制作会社として活動していても、建物レベルの巨大なマッピングを作る機会はしょっちゅう確保できるものでもなくて…。
トロントの街の文化が活発なおかげでこうしたイベントが生まれ、仕事につながるのはありがたいことだと感じています。

正直、国を移って活動を続けていくのは大変なことでしたが、現在は頼れるスタッフも集まり、カナダで5人のスタッフとともに活動しています。
メキシコ時代の同僚との繋がりも強く残っていて、プロジェクションマッピングの専門会社としてなんとかやっていけるようになりました。

クリエイター同士の繋がりを生む「コンペティション」の役割

石多:2人は毎年のように日本にも家族で来てくれますが、日本という国には何か想いがありますか?

Emma:先にも触れたように日本の文化が本当に大好きです。多大なインスピレーションを感じているし、決して自分たちからは出てこない固有のものとしてリスペクトしています。
キャラクターも可愛いものばかりだし、うちの子供たちにも大人気です。

Pedro:これまで作ってきたプロジェクションマッピング作品の中でも、日本でやったプロジェクトが一番のお気に入りですね。
特に、「1minute Projection Mapping Competition」での経験は貴重な財産として残っています。
短い時間の中に様々な試みを盛り込むことができる「1分台の作品」というルールは、クリエイターにとって刺激的なコンペティションだと感じますし、ここへ世界中のクリエイターが集まり、出会いや対話が生まれるコミュニティのあり方にも大きな意味を感じています。

AVAは石多未知行が総合プロデュースを務める「1minute Projection Mapping Competition」にも最多出場し、出場した全てでファイナリストとして上映され、賞も多数受賞している。映像クリエイターにとってのコンペティションは、様々な繋がりや機会を生み出す場として大きな役割を果たしているといえる。

AIによる変革期を迎えるクリエイティブ業界。AVAの展望とは?

石多:今日は本当にありがとう、2人のこと、そしてAVA Animation & Visual Artsを深く知られるインタビューになりました。
最後に、2人がいま興味ある表現や、これからの展望はある?

Emma:これまでプロジェクションマッピングをメインに活動してきましたが、観客が鑑賞を超えて、体験できるようなインタラクティブ作品に取り組んでみたいです。
近年、AI技術がアートとどう関わるかよく議論されているけど、私たちとしては作品全てがテクノロジーに振り切らないよう、個々人のポテンシャルや人間の内から出てくる物、感情に訴えるものをもっとピックアップしていきたいです。

Pedro:アートは人間にとって「生命活動の中心」と考えてもいいと思っています。AIはあくまでツールですから、私たちの表現したいものや世界に伝えたい想いは変えることなく、共存の道を歩んでいきたいです。

もちろんマッピングも組み合わせながら、よりスケールの大きなプロジェクトを仕掛けていけるように頑張っていきたいですね。
トロントの街や、カナダ自体を盛り上げていけるように頑張ります。

インタビューを終えて

我々が2012年から手掛けるプロジェクションマッピングの国際大会では、2014年以降毎回エントリーし、そして毎回本当に素晴らしい作品を出してくれる常連であり、大会の質を上げてくれる頼りになる存在の彼ら。
そんな彼らの作品はいつもクオリティが高いだけではなく、魅力的なキャラクターデザインの可愛らしさがあり、そして美しくみんなに愛される作品です。

すでに10年ほどの長い付き合いになっている彼らですが、素敵な作品を生み出し続けている作者の、その奥にあるものやルーツなど、普段聞けないことをより深く伺ってみたいと思い、今回のインタビューとなりました。

僕はもちろん社員全員が彼らを大好きで、家族ぐるみの付き合いになっています。そんな彼らの柔和なパーソナリティからも見てとれた部分でありつつも、本当に自分達の子供や周囲の人々への愛が深く、作品にそれが滲み出していることを改めて理解することができました。

メキシコからカナダへ移住したのも、自分達の仕事のことだけではなく子供への教育や家族の環境を考えてのことが大きく、未来を見据えた大きな決断だったのだろうと思います。

クリエイターが作る作品や世界観というのは、どうしてもその人の環境や心の深い部分に影響されます。
そしてその奥に時間をかけて醸成された(大事に、または抑圧を受けたり、結果的なことも)ものがあって、そのクリエイターの作品の強さとなり、そして個性や魅力として表れてきます。
彼らの作品がいつも魅力的で愛おしい感覚を与えてくれるのは、大好きな映像を学びたいという渇望、表現できる喜び、そして子供たちへ明るい未来を提示したいという強い想いが表に出ているのだと思います。

日本はとても恵まれた国で、あまり深く考えたり日常へ疑問を持たなくても、ある程度幸せに暮らせてしまう国です。
しかしもう少し何か自分の信じるもの、愛するものに対して踏み込んでいくことは、創作する時のみならず、未来へ向かって生きていく人生の上でも重要であり、いまの日本に足りない(弱い)部分かもしれません。

いまだに戦争や争いも絶えず、技術や情報によって人間性が喪失されていくような今の時代には、本当に深い愛情が求められているし、より彼らのような作品が必要になると強く思いました。

石多未知行

インタビュアー:石多 未知行
文:坂井 博
記事内写真・通訳:Philippe Hayot

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