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現実を蝕む星の願い:SCP-1425「星のシグナル」について

SCP-1425「星のシグナル」
要注意団体「第五教会」が関与する代表的なオブジェクトであり、第五教会系の報告書やTaleを読み進めるうえで避けては通れないオブジェクトですが、なかなかに報告書の分量が多く、また、第五教会そのものがそうであるように、複雑で難解です。

第五教会について理解を深めるための文献としては、以下の2つの解説記事が挙げられます。
なぜ、君?様の【解説】反ミーム部門と第五教会を体系的に学ぶ
よゆう様の第五教会を更に体系的に解説していく

どちらも興味深く、素晴らしい内容ですので、ぜひぜひご覧いただきたいのですが、この記事では初学者の立場からオブジェクトの解説を試みるとともに、黒幕である第五教会や、他のオブジェクトとの関連などをかみくだいて整理したいと思います。

なお、解説に当たっては、報告書の内容をその都度引用しながらコメントしていきますので、文字数が多く冗長な記事となっていますが、気になるところを参考書的に見ていただけますと幸いです。

また、個々の第五教会関連オブジェクトやtaleについては、以下の別記事にて紹介していますので、よろしければご覧ください。


概要

サムネイル画像の全体。
さあ、星々のようになりましょう!

SCP-1425は、アメリカ合衆国及び英国で大ベストセラーとなった自己啓発本です。読者に精神影響を及ぼすミーム的な性質を有しており、異常性に暴露した人物は「第五主義」という異常な思考法に取り憑かれ、心身(特に精神面)に深刻な影響を受けることになります。
また、オブジェクトは現実改変能力を有しています。この現実改変能力は、暴露者が増えれば増えるほど強力になるという、極めて厄介な性質を有しています。オブジェクトの感染拡大に伴い、現実が捻じ曲げられてしまうのです。
このような「ミーム性質で暴露者を増やしながら、現実改変を引き起こす」という異常性は、第五教会における典型的な手口の一つであり、他の多くの第五教会関連オブジェクトの性質と共通しています。

オブジェクトクラス

オブジェクトクラスはSafeです。現在のところは、安全に収容されているということになります。

特別収容プロトコル

ここからは、特別収容プロトコルを見ていきます。
報告書から内容を逐次引用していきますが、かなりの分量があるため、重要な個所は太字で強調しています。
報告書にはもともと太字の箇所があるため、少し紛らわしくなっているかもしれませんが、ご容赦ください。

SCP-1425の一次複製がサイト-40の二重ロックの掛けられた保管容器に維持されることになっています。文書へのアクセスは、サイト-40の管理官、EIDチーフ、CMA局長、O5のうち少なくとも二人の当局者の明確な書面による許可が得られた場合を除いて完全に制限されることになっています。二次複製がO5評議会のメンバーにのみ明かされた手順によって決定された非公開の場所に収容されます。

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425の複製は、二重ロックされた容器内に管理されているようです。オブジェクトへのアクセスは厳格に制限されており、サイト管理官やO5など、高位の管理者・監督者の承認が必要になっています。また、オブジェクトの二次複製であっても、収容場所を知るのはO5のみとされています。

ちなみに、特別収容プロトコル中には、複製物の取り扱いについては書かれているものの、原本についての言及は一切ありません。
複製物ですら厳重な収容が施されているくらいですから、原本については、情報が秘匿されているか、あるいは破壊・根絶されたか…いずれにせよ、一筋縄ではいかないオブジェクトであると考えるべきでしょう。

アメリカ合衆国全土で利用可能なあらゆる形式の印刷、放送メディアは、CMA文書 1428-Aに記載されたキーワード、キーシンボルが出現しないかどうか監視されることになっています。
発見されたいかなるSCP-1425の追加の複製も、破棄するためにCMAの管理下へと移譲して下さい。
第二のSCP-1425イベントが発生した、あるいは発生の徴候が見られた場合、上記の当局者に連絡し、即座にへびつかい座プロトコルを実行してください。

SCP-1425「星のシグナル」

財団は、印刷物や放送といった情報媒体に、CMA文書 1428-Aに記載されたキーワード、キーシンボルが出現していないかを監視しています。
また、SCP-1425は、情報を媒体として拡散することや、特徴的なキーワードやシンボルを有しているとの説明から、ミーム的なオブジェクトであることが伺えます。ミーム的なオブジェクトは人から人へと伝染して影響を拡大していくため、アウトブレイクが発生しないよう、常にモニタリングが行われているということですね。
なお、「CMA文書 1428-A」はこの後も何度か言及されますが、文書そのものの内容は登場しませんので、あまり気にしなくても大丈夫です。

発見されたSCP-1425の複製は、破棄が行われます。異常性の拡散を防ぐためでしょう。

SCP-1425に関連するイベントの発生やその兆候に対しては、「へびつかい座プロトコル」が実行されるとあります。へびつかい座プロトコルとは、SCP-1425の収容違反・アウトブレイクが発生した時の対処手順のことです。詳しくは後述します。

説明

SCP-1425は[編集済み]社(現存せず。オペレーション・スターゲイザー関連ファイルを参照)により2005年に出版された20cm×35cm×5cmのハードカバーの本です。表紙には「星のシグナル」というタイトルが記されています。裏表紙には、以下の説明があります。

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425は「星のシグナル」というタイトルのハードカバー本です。SCP-1425のメタタイトルです。出版社はすでに現存していないとのことで、その名称は伏せられています。
表紙には、メタタイトルである「星のシグナル」というタイトルが示されています。

空にある星の幾つかは既に死んでいて、私たちが見ているのは星の古代のイメージだということを貴方は知っていましたか?
四カ国でベストセラーになり、数百カ国語に翻訳された小説「星のシグナル」なら、あなたも天上の周波数にチャンネルを合わせることが出来ます! さあ、星々のようになりましょう!

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425のイントロダクションは、よく知られた天文学的な事実から始まります。夜空に輝く星の光は、遥か彼方の宇宙から、長い年月を旅して私たちのもとへと届きます。こう書くと宇宙のロマンや広大さを感じなくもないですが、この本の場合は「星の幾つかはすでに死んでいて」など、書き出しの部分からすでに不吉さを感じさせます。

また、「天上の周波数にチャンネルを合わせる」「さあ、星々のようになりましょう!」という宣伝文句もオカルト的であり、不気味な雰囲気を漂わせています。

なお、SCP-1425は「世界中で翻訳されたベストセラー小説」を自称していますが、後々わかるように、実際は自己啓発本形式であるとされています。

SCP-1425の全ての文章を対象の人物が読むと、この本は、この効果は対象の欲望(これはSCP-1425によって次々に影響を受けます。下記参照)の影響を受けた穏やかな現実歪曲効果を及ぼします。
この影響に露出した対象の数が十分に多くなると、精神衛生と時空の整合性において更なる混乱が発生します。イベントログ SCP-1425-05を参照してください。

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425を読むことで、現実歪曲(現実改変)が発現します。現実歪曲効果は、本を読んだ人物の欲望の影響を受けると記されていますが、簡単に言えば、現実を捻じ曲げてその人の欲望や夢が実現してしまうということです。加えて、読者の欲望自体も、SCP-1425の影響を受けて変質・変貌していくようです。

また、影響に曝露した人物の増加は、精神影響のさらなる深刻化と現実歪曲の拡大をもたらします。暴露者が多ければ多いほど、オブジェクトは読者の精神と現実をより強力に蝕んでいくのです。

「イベントログ SCP-1425-05」は、後ほど登場する文書です。SCP-1425に関するタイムラインが掲載されています。

この文書は"自己啓発"ジャンルのノンフィクション本です。読者の夢と野心を成し遂げるための"5ステップの星のシグナルメソッド"として広告されています。その方法とは、マントラと自己肯定によって補強される視覚化プログラムです。
"自己啓発"本のほとんどすべてとは異なり、SCP-1425は対象者が彼/彼女自身の目標を達成するのを助ける直接的な効果を持っています。

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425は、自己啓発本の形式をとっていますが、中身は通常のそれとは大きく異なっています。
通常の自己啓発本は、能力の向上や成功・自己実現を目指すため心構えや作法が書かれているものですが、このオブジェクトは現実を捻じ曲げることで、読者の夢や欲望を直接的に実現してしまうという異常性を有しています。

星のシグナルのメソッドは「5つのステップ」によるものとされています。
後述のとおり、SCP-1425は要注意団体である第五教会に属するオブジェクトですが、第五教会はその名のとおり「5」を神聖視し、信奉する組織です。

この本では、目標を達成するための実際的な処置に対しては一切触れられていません。その代わりに、"星の焦点"とその他の"希望的観測"の儀式が書かれています。正しく実行された場合、これらの儀式は儀式に用いられた星の外見への直接的な影響をはじめとした、現実への明確な影響を及ぼします。宝くじに当選したいという願いを表す読者は、二週間以内に当選くじを受け取ります。目標が新しい車であるどんな読者も、自分自身が翌週その新車を運転していることに気づきます。目標を達成するのに必要な作業量は、規定の儀式を除けば副次効果だけです。欲望に対して集中し続ける努力をしなかった対象者でも、成功した確率は記録に残されたうちの80%に及びます。しかし、読む順序と頻度の指示を正しく守らなかった場合、異常な影響は大いに減少し、完全に失敗することも有ります。

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425では、夢を叶えるための方法として「星の焦点」や「希望的観測」の儀式を紹介しています。
メルヘンチックに言えば「星に願いを」ということなのでしょうが、残念ながらそんな可愛らしいものではなく、先述のとおり「現実を捻じ曲げるための儀式」ということになります。

初期の章において、これらの儀式は二つの事に焦点が当てられています。読者が考える正確な目標と、空の特定の星への集中です。この活動は表題にもある"星のシグナル"と関連しています。SCP-1425は星から発せられる光が"現象学的周波数"を持っており、星々の持つ特有の"現象学的周波数"は人間それぞれの心のなかにある"現象学的周波数"と結びついていると主張しています。その本の10章それぞれが、"星への焦点"儀式で終わっています。これは、毎夜行われる天体を中心に焦点を結ぶための瞑想です。プロローグに書かれたカレンダーを使って決定された天体が儀式には用いられます。このカレンダーによって、いつでも、本のどのセクションを読んでいても読者が同じ位置に焦点を結ぶことを確実なものとします。第10章は例外です。ドキュメント 1425-Aを参照してください。

SCP-1425「星のシグナル」

儀式のポイントは「正確な目標=夢・欲望」と「特定の星への集中」の2つです。先ほど出てきた「星の焦点」と「希望的観測」の儀式を言い換えたものです。

SCP-1425は全10章で構成されており、各章では星への焦点に関する儀式が記されています。プロローグ部分にはカレンダーが付属しており、このカレンダーに基づいて一連の儀式を行うことで、読者がいつでも特定の星へと焦点を合わせることができるように設計されています。
なお、10章は例外とされていることから、他の章とは異なる内容のようです。

「ドキュメント 1425-A」は、後ほど登場する文書です。このドキュメントには、SCP-1425の本文の抜粋が掲載されています。

SCP-1425には儀式を行っている間、ページを通して読者の精神に影響を及ぼす言語学的装置が含まれています。これには、対象者が文章に記された考えを受け入れられるようにし、その異常な効果の結果を最適化するためのミーム的なトリガーと神経言語学的プログラミングの組み合わせが含まれています。一旦、本の中心的な考えが取り入れられ、影響を受ければ、視覚化儀式は政治的、哲学的なメッセージを含むその他の概念をインクルード処理し始めます。本の後半の章は、読者間の共通認識となった倫理観に従うように、使用者の思考や欲望を改変する役割を持ちます。 SCP-1425を読破した読者のうち約60%が"オーハイ症候群"と呼ばれる精神状態を示します。イベントログ SCP-1425-2005を参照して下さい。

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425は、ミーム的な性質を有しています。この性質は、読者の関心をSCP-1425へと引き入れるだけでなく、読者の精神に直接的な影響・改変を及ぼします。端的に言えば、SCP-1425の思想や概念を刷り込まれ、洗脳されてしまうということです。
その結果、読者の多くは「オーハイ症候群」と呼ばれる異常な精神状態に陥ることになります。

SCP-1425は第五教会(The Fifth Church)(俳優、ミュージシャン、作家、テレビ司会者、その他有名人を含む多数のセレブリティを会員として持つ有力なカルト団体)によって執筆、出版されたと考えられています。
その時、確認された第五教会信徒(Fifthist)のリストは███名を数え、信徒であるという疑惑を受けている者のリストは████名を超えました。これらのコネクションを第五教会は仲間意識として利用し、有名人の推奨やメディアの報道という形式を取って、SCP-1425をすみやかに、例外的に有名なものとしました。
これらの手段と同様に、相当の"口コミ"広告も用いられることで、星のシグナルは出版から二週間で国家的ベストセラーとなり、その本が財団のへびつかい座プロトコルによって公共の知識から排除されるまでベストセラーを保ちました。

SCP-1425「星のシグナル」

黒幕である第五教会に関する初めての言及です。
第五教会は、芸能人やセレブを中心としたカルト団体であると説明されていますが、後に財団が想定していた以上の規模と勢力を有していることが明らかとなります。

第五教会についての詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

芸能界を基盤とする第五教会は、そのネットワークやコネを活用し、有名人による推奨や口コミ効果を通じて、SCP-1425を短時間のうちに国家的なベストセラーへと押し上げることに成功しました。
これにより、精神異常と現実改変をもたらす異常なオブジェクトが、あっという間に社会に拡散してしまうこととなります。

ドキュメント 1425-A: SCP-1425の抜粋

以下の節はSCP-1425から直接抜粋したものです。これらの抜粋は認知災害的なミームのトリガーやその他の文章的異常への露出を最小限にするよう選択されています。

SCP-1425「星のシグナル」

怪しげな自己啓発本であるSCP-1425。いったいどんな内容が書かれているのでしょうか。ドキュメント 1425-Aには、その抜粋が掲載されています。
なお、ドキュメントには、閲覧者にミーム的な影響が及ばないよう対策が施されていますので、安心して読み進めることができます。

第二章 第三節:"あなたの周りにある穴"
あなたは、人生に空虚感を感じていませんか? 誰もがそれを感じています。知っていようといまいと、誰もがそれを感じています。その空虚感について考えてみて下さい。あなたの胸の中心にある重苦しい空虚感。それは量子もつれ状態の粒子のような、あなたの存在の反映です。あなたは、私たちがどのように量子もつれについて説明したか覚えていますか? うなずいて「はい」といってみて下さい。そうです。あなたには出来るのです。あなたは空虚を感じています。
これは良いことです。あなたの最も強い願い(deepest desire)があなたの喉元までせり上がってくるまで、その穴はあなたによって最も強い願いで満たされるのを待っているのです。あなたは自分自身の欲求を抑圧するでしょう。そして、あなたがそうするまで、そこは大聖堂で鳴り響くオルガンの音楽のような意志をつくり上げるための共振空間となるのです。この音楽を聞いて下さい。これは比喩ではありません。あなたの意志が強固なら、そこに音楽が現れるのです。思い出して下さい。この本に比喩は一切書かれていないということを。

SCP-1425「星のシグナル」

いきなりスピリチュアルな書きぶりです。誰もが有する胸の中心にある重苦しい空虚感・心の穴。それを満たすのは、あなた自身の強い願い・欲望である、と記されています。
この箇所は、これまでの説明の中で挙げられていた「正確な目標への集中」や「希望的観測の儀式」の作法を説明しています。

第三章 "開通", 第五節:"あなたは時間の中にいる"
星の焦点: さあ、あなたのナイトスポットを見つけて、あなたの星に集中して下さい
[プロローグ、第三節:"星の焦点カレンダー": "4月██日:射手座ε星 もしあなたが星図から射手座ε星を見つけられなかった場合は、弓の根本にある星座で一番明るい星を探して下さい。"]
あなたの星を見上げ、"目覚めの言葉"(mind-clearing word)を唱えましょう。あなたの瞑想は以下の通りです。「████、████。今こそが我らの時間。こここそが我らの空間。我らは汝の星を取る。我らは汝の債を持つ。汝、汝の債を支払え。████、████、████。」暗記できるかどうか心配する必要はありません。"目覚めの言葉"を唱えれば、あなたはただ一度読むだけで文言を思い出すことが出来るでしょう。もしこれが正しくなされれば、あなたの星は消滅します。あなたは、消えた星があなたの空虚感の中で反響しているのを感じるでしょう。

SCP-1425「星のシグナル」

この章では、「星への焦点」に関する作法が記されています。特定の星へと狙いを定めることが重要なようで、上述したとおり、カレンダーを用いることで、読者がこのプロセスを確実に行えるように設計されています。

第五章"第一幕の終わり", 第四節:"二日間"
もしあなたがこの文章を正しく読み、正しく実行したのであれば、明日から週末が始まります。休日を楽しんで下さい。週休二日制はあなたの世界の文化遺産です。(月曜日になればすべてが分かります) 次の二日間はこの本を置いたままにして下さい。手にとってはいけません。そう、これは二日間あなたが星の儀式を行わない事を意味しています。そう、これは二日間あなたの意志があなたから離れることを意味します。
この文章を読み終わったのならば、この文章についてさえ考えるのをやめて下さい。あなたの意志はあなたのために使われています。

SCP-1425「星のシグナル」

星への儀式はいったんお休みのようです。
意図は不明ですが、この章は全十章のうちちょうど半分の第五章であることから、ここまで読み進めてきた読者は、既にSCP-1425の影響下・支配下にあるものと推察できます。

第六章, "第五世界" ,第二節:"第五の理由"
現在あなたのいる社会では、あなたの望みを現実にするための鍵であるかのように"あなた自身である"ことが奨励されています。これはどういう意味なのでしょうか? それは何一つ意味していません。あなたはあなた以外の何物にもなりえないのです。もしあなたが別の誰かであったとしても、あなたはまだ"あなた"のままです。"あなた"のなる誰かというものは他者なのです。存在の下から出ることはできません。なぜなら、あなたは他の誰かになることはできないからです。
それならば、あなたが現実を変えることを望むのであれば、世界の方をあなたに都合よく変えなければなりません。あなたは現象学的な地形を、あなたの目標が全て達成できる場所へと彫琢しなければなりません。
今想像したあなたの望みが全て現実となった世界には名前があります。それは"第五世界(Fifth World)"と言います。第五世界はあなたの望む形であなたの周りに巻きつけられた宇宙です。それはこれまでありませんでした。しかし、あなたはそれを作ることができます。
現在の世界がぴっちりした襟のついたスーツのようであるのならば、第五世界は完全な運動の自由を許す流れるローブのようなものです。第五世界で動く前に、あなたは決して本当に動いたとはいえません。あなたは、紙片に書かれた正方形のようにただとらぉる[原文ママ]上下するように感じるでしょう。

SCP-1425「星のシグナル」

いよいよ、SCP-1425の本質へと入っていきます。
第二章では、自分の中の空虚感を欲望で満たすためのプロセスが説明されてきました。では、その欲望はどのように実現すればよいのか?答えは簡単、自分を取り巻く世界の方を都合よく変えてしまえばいい…そんなことができてしまうなんでもありの自由な世界こそ、「第五世界」である、と説いています。
そして、事件の黒幕である第五教会は、この「第五世界」の顕現を目的して暗躍する要注意団体です。

なお、最後の一文に文章がおかしい箇所があります。「原文ママ」と付されているように、これはSCP-1425に記されているそのままの内容です。誤植でしょうか?もちろん、そんなことはないのですが、ここでは先に進みます。

第九章, "この本から目を離さないで" , 第三節:"ここと今":
これからやってくる一週間であなたを助けるいくつかのアドバイス
・鏡は他の人々のためのものです。
・暗い部屋の中で少なくとも一日あたり一時間座っていて下さい。
・動かされるのと同じくらい動きまわって下さい。あなたの魂が発達していると感じたのならば、即座に外に出て、彼らに出会うまで煙の指示に従って下さい。
・常にとるぉる ぷらる むるぐん ずぇい の すろん の音を聴き続けて下さい。
・アルコーン達を愛して下さい。彼らを嫌えば、彼らと出会うことになります。

SCP-1425「星のシグナル」

アドバイスと称した5つの指示が記載されています。5つ、5…これまた聞き覚えのある数字ですね。

1つ目の指示には、鏡についての言及があります。詳細は割愛しますが、第五教会では「鏡」が特別な意味を持つことがあります。

3つ目の指示中の「煙」の箇所は、SCP-1523「アイツが魂」へのリンクとなっています。これも詳細は割愛しますが、第五教会において、煙は魂を意味する重要なキーワードです。

4つ目の指示はいきなり文章がバグっています。第六章でも文書の一部がおかしくなっていましたが、支離滅裂さが悪化している感じです。

5つ目にの指示には「アルコーン」に関する言及があります。
SCP財団の世界において、アルコーンという言葉は様々な意味を持っていますが、ここでは「第五教会における上位存在」を意味していると理解しておけば大丈夫です。

第十章, "あなたは起きることができません", 第一節:“████████”
すろん とりる な とれい おぶる 第五。とら すろん ████ ぷりる とりん とろ さくぷ とれい。 [以下編集済み]

SCP-1425「星のシグナル」

最終章である第十章は、もはや文章ですらなくなってしまいました。内容を読み取ることは不可能で、かろうじて「第五」というキーワードが確認できるのみです。

イベントログ 1425-05 [セキュリティクリアランスレベル 2 以上のみ閲覧可]

以下はSCP-1425が出版された2005年4月22日から公式にイベント1425の終了が宣言された2005年5月11日までに発生した出来事です。

SCP-1425「星のシグナル」

ここからは、SCP-1425に関するイベントログが時系列に沿って説明されます。
SCP-1425の発生とその鎮圧までの20日間の記録です。

第1日(4/22 月曜日): SCP-1425の第二版が3ヶ所で同時に完成しました。テキサス州[編集済み]にある[編集済み]出版の主印刷所、それよりも小さいメイン州[編集済み]の印刷所、第三支部であるイングランド、[編集済み]の印刷所です。
最初の二つの印刷所からはアメリカ全土の書店へと、第三の印刷所からは英国諸島へSCP-1425は出荷されました。
回収された文書によると、初版は第五教会のメンバーやその家族へと個人的に譲渡されました。

SCP-1425「星のシグナル」

アメリカとイギリスの印刷所においてSCP-1425が出版され、それぞれの国内に流通されました。
なお、これよりも前に出版されていたSCP-1425の初版は、流通を介すことなく、第五教会のコネクションを通じて構成員の手に渡っていたようです。

第8日(4/29 月曜日): テレビ司会者████████ ███████(オペレーション・スターゲイザー・プロトコル(Operation Stargazer protocol)により姓名は保留中)の昼のトークショー“████████”の毎月のコーナー"読書サークル"スペシャルが放送されました。このエピソードの全てがSCP-1425の宣伝に充てられました
司会者は、星のシグナルは「(彼女の)世界を揺さぶ」り「あなたはほとんど瞬間的に変化を感じるだろう」と主張しました。31分時点でゲスト(ヒュー・ローリー)は司会者の成功は本のアドバイスのおかげなのかと冗談を言います。彼は「誰もあなたを嫌わないといいね」と付け加えました。
司会者が「クソ(Fuck)、例の穴を見つけちゃったわ」と返す四秒前に手の中のSCP-1425を見ていました。
このくだりは西海岸に放送された録画分では無音にされましたが、生放送では無検閲であるように見えます。テレビにおける卑語について多くの論争が巻き起こりました。次週のSCP-1425の売上は50倍に跳ね上がりました

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425の第二版の流通から1週間後、昼のトークショーテレビ番組でSCP-1425が紹介・宣伝されました。
この生放送中、司会者の女性が不適切発言を行うという放送事故が発生しました。これは炎上騒ぎとなって大衆の関心を集め、その結果としてSCP-1425の売り上げは驚異的に増加しました。
これは今でいう「炎上マーケティング」のようなもので、後述のとおり、第五教会が放送事故を利用してSCP-1425の拡散を仕掛けたものと推察されています。

第12日(5/3 金曜日): 精神病の報告がアメリカ合衆国南西部において増加を始めます。カリフォルニア州オーハイにて、ボイヤー(Boyar)一家(45歳の父、50歳の母、24歳の娘)が、異言、暴力、妄想的振る舞いの三つを同時に発症したことでオーハイ精神病院に収容されました。
この三人は家から数マイル離れた路地で、大声で周囲の環境について話し合っていました。目撃者の証言によると、「私はこれ以上建物がまっすぐ並ばないほうが好きだな」、「私がうまく出来るようになったら、必要な時にあなたの舌を縫いつけてやるのに」という発言を立ち聞きしたそうです。通行人がボイヤー一家に近づくと、母親が「これじゃ外に出ていないみたい」と発言し、父親がポケットナイフで通行人に襲いかかりました。
地方警察機構が通報を受け警官が到着した時、24歳の娘は、目撃者の証言によると「意味不明な叫び」(SCP-1425の第10章にかかれていた文章に類似したものだと推測)を通行人に対して発しており、父と母は通行人を拘束していたそうです。通行人は彼らの発言を繰り返すよう強要されていました。通行人が句読点を誤ると、父親が彼の顔面に長い四本の切り傷を刻み、正方形を描いていました。三人は逮捕され、通行人は打撲症とひどい創傷の治療のために病院へ搬送されました。

SCP-1425「星のシグナル」

カリフォルニアのオーハイにて、異常な事件が発生します。
とある一家(ボイヤー一家)が、支離滅裂なことをわめきながら通行人を攻撃して逮捕され、精神病院へと収容されました。
異言(意味不明な言語を喋る)、暴力、妄想的な振る舞いという3つの症状を特徴とするこの精神病は、アメリカ合衆国南西部で相次いで報告されるようになり、後に「オーハイ症候群」と呼称されることになります。

第13日(5/4 土曜日): 財団のエージェントは、ボイヤー一家の事件を調査した結果、彼らの爆発的な行動と星のシグナルというタイトルの本に潜在的な関連性があると判断しました。ボイヤー一家のコピーだけではなく、地域の書店に陳列されていたものも実験のため没収されました。

二週間にわたって星のシグナルが市場に流通していたにもかかわらず、批判的な書評やその他の分析的報告が新聞、テレビに載ることがなく、およそ80%のネット上の書評もウェブサイトの管理者によって削除されたという点に研究者は注目しています。
SCP-1425の精神変容作用の一部により、出版物による公の場での議論は妨害されたこと、同様に有名人による推奨も、後に第五教会による故意の行為だと判断されています。

SCP-1425「星のシグナル」

財団の調査により、オーハイでのボイヤー一家の異常の振る舞いには「星のシグナル」が影響していることが判明しました。
この時、すでに「星のシグナル」の流通から2週間が経過し、アメリカとイギリスで大ベストセラーとなっていたのですが、不思議なことに、最初の炎上騒ぎ以降は、SCP-1425がメディアやネットで話題になることはなかったようです。
これはSCP-1425の精神影響によるものとされています。この作用によって、SCP-1425は、その拡散段階における財団の検出をかいくぐることに成功しました。すべては第五教会によって周到に仕組まれていたのです。

第14日(5/5 日曜日): 財団の研究者達の研究により、星のシグナルと最近の精神病院への入院不合理な行動による逮捕の増加が関連していることが証明されました。
ほとんどすべての影響を受けたことによる症候群は非暴力的なものでした。しかし、全ての特定されたケースで、異様で妄想的な声明解読不能で子音の多い言語を話す共通のパターンが含まれています。
徹底的な分析の後に、星のシグナルは異常な認知災害であると分類され、SCP-1425に指定されました。
研究者たちにより、以下の警告がサイト管理者に行われました。第一の警告は、星のシグナルがSCP指定を受けたことにより、財団は極めて大きな封じ込め違反を経験しつつあるということです。
第二の警告は、第19日 (5/10 金曜日)に症状の突出が起こると研究者たちは予測したということです。この予測は、以下の根拠から成り立ちます。
テレビ番組[編集済み]の"読書サークル"の放送によれば、SCP-1425は厳格な読み方(月曜日に読み始め、二週間もの間、平日は毎日一章ずつ読み進めなくてはならない)が要求されます。異常現象の発現はSCP-1425の全ての文章を対象者が読み終えた時に起こるとするのならば、放送が行われた4/29 月曜日に本を購入し読みはじめた読者が、5/10 金曜日にプログラムを完了することになるということです。

SCP-1425「星のシグナル」

ボイヤー一家に類似したケースが多発したことで、財団は「星のシグナル」をSCP-1425に指定しました。
SCP-1425による精神異常は、異様で妄想的な声明と解読不能で子音の多い言語が特徴です。星のシグナルの第九章や第十章でみられたような、支離滅裂な内容や言語のことです。

この時点でSCP-1425のアウトブレイクから2週間が経過しており、SCP-1425は大規模に拡散してしまっています。また、読者が星のシグナルを読み終えるであろう5/10に何らかの異常現象が発現するおそれが高いことが判明し、一刻を争う事態であることが発覚します。この日が5月5日であることから、タイムリミットまでの猶予はあと5日しかありません。

なお「5月5日」「残り5日間」と、ここでも5が登場しています。第五教会にとってはラッキーナンバーですが、財団にとっては不吉この上ない日付です。

15日(5/6 月曜日): 収容サイト40に属する財団の研究者、O5司令部の指揮下にあるエージェント、それに加え財団の小部門であるCMA(Communication Moderation Agency,報道調整局)、EID([編集済み])は可能な限り多くのSCP-1425の実例を回収し、収容し、破壊するプロセスの配置を行いました。この計画は、へびつかい座プロトコルと指定されました。

処置は即座に実行に移されました。以下がその処置です。
・[編集済み]出版は第五教会のフロント企業であると判断し、制圧されました。テキサス州、メイン州、イングランド(England)の印刷所にMTFシータ-11"Wranglers(論争者)"、MTFガンマ-4"Money Lenders(消費者金融)"、MTFラムダ-21"Cave-dweller(洞窟の住人)"が派遣されました。全ての機動部隊は武装抵抗を受け、交戦状態に入るも、機動部隊に殉職者は出ませんでした。SCP-1425の出版は終了しました。カリフォルニア州[編集済み]の出版社の本社は、MTFファイ-1"Hostile Takeover(敵対的買収)"によって徴発されます。
国際的なリコールが発せられました。以下は、EID諜報部による作戦行動です。まず、出版社から、第11章が落丁していること、そして第10章には多数の誤植があるとのプレスリリースを発表しました。購入者は星のシグナルを返本することで25ドルのインセンティブが支払われます。アメリカおよびイギリスの書店はSCP-1425の回収に応じました。以上が功を奏したため、財団のエージェントによって星のシグナルを報道管制(Blackout)せずに済みました。
・CMAは、SCP-1425に関連する異常が発生していないかどうか、全ての全国放送(特にネットワークテレビ)をモニターします。いかなる異常も、機密扱いの手段によって削除されることになっています。
・[以降の行動は編集済み]

SCP-1425「星のシグナル」

財団は、SCP-1425の回収と破壊を主目的とする収容計画「へびつかい座プロトコル」を開始します。
手始めにSCP-1425の出版社を制圧し、これ以上の出版を阻止することに成功します。流通済みのSCP-1425については、落丁や誤植を理由とする回収作業を進めていきます。さらに、前回のようなテレビ番組などでの感染拡大を防ぐため、全国放送を監視します。

これらの作戦の実動部隊として、財団の小部門であるCMAとEIDが割り当てられています。CMAは正式名称が付記されていますが、EIDはなぜか伏せられています。

さらに、最初の放送である昼のトークショー“████████”(この番組がSCP-1425の更なる販売促進につながった)がへびつかい座プロトコルにより差し止められました。テレビ司会者████████ ███████がベック(Beck)というミュージシャンをインタビューします。18分時点で以下のインシデントが発生しました。

████████: 私は、あなたが非常にスピリチュアルな方であると聞いています。このことがあなたの仕事に影響していますか?
ベック: ああ、むしろ影響を受けてないといけない。アレは全てに影響を与えるんだ。私がそれを地面に押さえつけようとしてもね。"そうしようと試みる"っていうのが重点なんだ。[笑って] なぜそうしなきゃいけないのかというと……そうだな、それは"教えにを実践する"という精神性と呼んでもいい。君たちには絶対にできないだろうな。アレは―
████████: [画面外でゲストをさえぎって] 何か断言するなんてことが私たちに出来るでしょうか? [カメラアングルが████████の顔のアップに切り替わる。司会者は視聴者を直接見つめている] 落ち着いて下さい。いい気分になって、深呼吸をして。その男が言ったことを思い出せ。三つ目で星が消えるかも。でも五つ目で世界が死ぬ。ウジを産み付けられた虫のように。 [ゲストに向き直って] 何の話でしたっけ?
ベック: よくわからないけど……ああ、思い出した。君は有名人と話をしてたんだ。
████████: そうでしたね。私が聞きたかったのは、あなたもご存知のように████████ █████ が最近亡くなられましたよね。 [観客が悲しげに溜息をつく] これはあなたに影響を与えましたか?
ベック: 言うまでもないことだよ。僕たちはずっと一緒だと思ってる。 [観客の喝采]

ネット局は財団の接触を受け、公式声明として████████が「過労であるということ」を発表し、その回は録画されない事になりました。████████を一箇所に引き止めておくことは出来ませんでした。

SCP-1425「星のシグナル」

このような状況下で、SCP-1425が拡大するきっかけとなった昼の生放送トーク番組で、再びインシデントが発生します。
財団は番組の再放送を阻止することはできましたが、司会者の女性は取り逃してしまったようです。
なお、彼女は放送において「星」「五つ」という第五教会のキーワードを口にしています。

ちなみに、第五主義者の言ってることは基本的に意味不明なので、インタビュー内容自体はあまり気にしないで大丈夫です。

第16日(5/7 火曜日): 12日目以来、ボイヤー一家のそれに類似した振る舞いが数ダース公式に報告されました。その不可解な精神病はテレビ、インターネット、新聞や一般市民に"オーハイ症候群"と呼ばれるようになりました。
オーハイ症候群患者に対する実験の結果、クラスB記憶処理を適切に行うことが効果的であると証明しました。

以下は、へびつかい座プロトコルによって差し止められた内容です。

24時間ニュースネットワーク、███で、評論家████████ ██████と下院議員[編集済み]のインタビューが行われました。
インタビューの内容は決して実際には起こらなかった事件が話題になっていました。例えば、議員は1921年のインドの革命について、「ボストン虐殺よりも短いが、その十倍の血が流れた」と言及しています。以下はインタビューの終了までの写しです。

インタビュアー: 御存知の通り、もし何かが起こらなかったと十分強く願えば、そのことが実際には起こらなかったと信じている人々が世の中にはいます。
下院議員: そして、彼らは正しい。あなたもご存知のようにね。
インタビュアー: その量についての問題ですよ。わかってるでしょう? 彼らはそこまで強く願う必要はない。それには大量のカモ(sucker)が必要です。
下院議員: それは両方に言えることですよ。私のアシスタントたちはガンジーが公開自殺したかどうか私に教えることが出来ないということに気づきました。彼らは本当に思い出せないのです。これはひどい教育が行われているというような問題ではありません。大学時代は完全に当時何が起きたのかわかっていたのだから。
インタビュアー: 彼らに機械小妖精(machine elves)について尋ねてみて下さい。どれだけたくさんの名前をつけたやら。
下院議員: そこですか? いえ、彼らも自分たちの両親を殺したDeroという名前は付けられないでしょう。 
インタビュアー: [笑い] ねえ、なぜあなたの首相をまだ食べさせていないんですか?
下院議員: 一週間ください。 [笑い] まあ、金曜日までには食べさせておきますよ。
インタビュアー: あなたと会うのはいつだって素晴らしいですね。もし来週外側に居られるのだったら、また戻ってきてくださいね。
下院議員: [笑い] ありがとう。お言葉に甘えさせていただきます。
インタビュアー: とにかく、戻りましょう‥‥ █████? [インタビュアーの副司会が目に見えて不快そうにしている] 予定通りだよな?

SCP-1425「星のシグナル」

ボイヤー一家のようなケースが全国的に多発したことで、一連の症状はメディアや市民の間で「オーハイ症候群」と呼ばれることになります。一般社会で話題になっていることから、既に相当の社会不安が生じているものと思われます。
なお、オーハイ症候群の治療には記憶処理が有効なようです。

財団は、またもニュース番組の放送差し止めに成功します。下院議員へのインタビューは、やっぱり妄想的で意味不明な内容になっており、その場に居合わせた副司会者は困惑しています。

第17日(5/8 水曜日): リコールは順調に進行しました。およそ200,000冊のSCP-1425が没収され焼却処分されました。
さらに、星のシグナルの複製が国内のテロリスト集団のテロ攻撃によりリシンにより汚染されているという発表を行いました。

様々なオーハイ症候群の対象者が財団によって集められ、管理された一連のクラスB記憶処理が処方されました。
症状が急激に低下した対象者は精神病院へと戻されました。財団は、CDCとNHSに対して、病気が寄生生物に寄るものだと表現した部分的に偽造されたプレゼンテーションを行い、オーハイ症候群による被害を受けた患者を治療する許可をCDCとNHSから受けました。いくつかの国際的なケースが報告されていますが、これらはあまりにまばらであったため、追跡は困難です。

以下はへびつかい座プロトコルにより差し止められた放送です。
これは、ノースカロライナの公共放送の子供向け番組「ペッピーの裏庭」です。司会の、うさぎの扮装をしたペッピーと呼ばれる男性が、セットのなかに半円形に座った子どもたちと話しています。

ペッピー: みんな!次のお客さんを知ったらきっと驚くよ。知ってることを何でも教えてくれるピエロと、何でも出してくれるお皿だ! こんなお客さんを嫌いな人なんていないよね!
プロデューサー: [画面外] 今日はゲストなんていないんだよ、ペッピー。
ペッピー: [プロデューサーの方を見て] それなら僕らは何をするんだい?
プロデューサー: 今回は工作の回だよ。
ペッピー: ほんとかい? ごめんね、ちょっと気が散っちゃった。みんな!こっちを見て! これから寝転がってる人からろうそくを作る方法を教えるよ!
プロデューサー: <判別不能>
ペッピー: 僕は何を持ってるかな? 何も持ってないよね! そんなに固くならないで!
プロデューサー: カット!

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425のリコールは順調に進んでいます。回収をさらに推し進めるべく、財団は星のシグナルが毒に汚染されているというストーリーを流布します。
オーハイ症候群を発症した影響者には、記憶処理を施して治療します。この日もテレビ番組の差し止めに成功。徐々にではあるものの、事態は収束へと向かい始めているように思われます。

第18日(5/9 木曜日): SCP-1425の没収率が下がり始めました。読み続けている読者のほとんどがSCP-1425の提案の影響下に有り、彼らには文書を放棄する意志はありませんでした。
アメリカの沿岸全域の大都市やブリテン島の都市と同様に、合衆国南部の財団施設近辺の町、"南部第五信徒"として知られる分派の根付いた町では、防護服を身にまとったエージェントたちが戸別に訪れました。
これには、星のシグナルがリシン粉末によって汚染されているというカバーストーリーが用いられました。占拠された家に住んでいた対象者で、SCP-1425の影響を適度に受け、エージェントに抵抗した者は僅かな割合でした。彼らには物理的な強制力を伴うSCP-1425の没収作業が行われました。

アメリカでは、第18日から第19日の個人介入作戦の間に、SCP-1425の影響を受けて、へびつかい座プロトコルの継続を妨害したことを理由に9人の対象者が処分されました。英国で起きた同様の事象は4件だけです。ブリテン島では第五教会の影響力はより少ないため、SCP-1425はほぼ完全に根絶されたものと考えられています。

SCP-1425「星のシグナル」

やはりそう簡単にはいかないようで、SCP-1425の没収率が低下し始めます。SCP-1425の精神影響効果に捕らわれた読者は、SCP-1425を手放そうとはしなかったためです。

そうした中で、第五教会の分派である「南部第五信徒(SCP-1982「第一南第五教会」の関連か?)」が根付いた地域が確認されたため、財団はエージェントを派遣して実力行使に打って出ました。幸いにも小競り合い程度で作業は完了したようです。

一方、イギリスでは第五教会の影響力が少ないためか、収容作戦は順調に進行し、SCP-1425はほぼ完全に根絶されたと考えられています。

以下の事象は合衆国政府によりすみやかに隠蔽されました。

三人の上院議員 [姓名編集済み] がジョージ・W・ブッシュ大統領をFBIへ通報しようとしました。
公式記録によると、その上院議員(the legislative officials)は、ブッシュ大統領は「ひと月前に処刑され」ているため「詐称者」であると主張しました。その上院議員は、テレビで処刑が生中継されるのを「確かに撮った」と示唆します。
彼ら三人の主張は一致していて、中継された処刑はコメディアンのダナ・カーヴィ司会で執り行われ、「彼(ブッシュ?)の指を彼に無理やり食べさせたのがツカミのネタ(opening sketch)だったはずだ」と主張しています。

SCP-1425「星のシグナル」

関連インシデントはさらに混沌とした内容になっています。上院議員3人がFBIに大統領が偽物であると通報し、本物はテレビで生中継されたはずだと主張しています。

以下はへびつかい座プロトコルによって差し止められた放送です。5/9の有名タレント番組、「アメリカン・アイドル」の放送は完全に削除されました。
約十分間のCMと予備説明の後、司会のライアン・シークレストが最初のアイドル候補を紹介した所で止まりました。以下がその写しです。

シークレスト
: さあ、残念な本題に入りましょう。みなさんは覚えているはずです。先週の一位の歌手、彼が彼のスタイルであの歌――ポーラ[審判員のポーラ・アブドゥル]、泣いてるのかい?
アブドゥル: [その審査員は手で顔を覆っている。彼女の声は震えている]病気かもしれない。
シークレスト: レディース・アンド・ジェントルメン。ポーラにとってはずいぶん長い一週間だったみたいですね。[観客の笑い声] 何か問題が起きたと思ってるのかな?
アブドゥル: 私は……あなたは行かなくちゃいけないと……いえ、番組を続けなくちゃいけないわ。
コーウェル: [サイモン・コーウェル。この番組の別の審査員。ポーラの左に座っている] いやいや、私たちはこの事について聞きたいね。
アブドゥル: 私は……それが起きてると思うの。
シークレスト: ポーラが私たちを見ることができない今こそ、私はみなさんにこの事をお知らせしたい。彼女の幻視は一匹の猫のように屠殺されている世界によって隠されている。それはその生肉が冷めるのを待ちたくないが故に、生きた空洞が吸い込む胃袋のように地球に空く。生きたまま火葬されたかのように彼らの歯は溶ける。[司会はカメラの方を見る] 来てくれジム、彼女の痛みを撮るんだ。私達には後々のためにそれが必要になるだろう。[観客の多くが笑う]
[ポーラ・アブドゥルは痙攣しているかのような動きで首を後ろに捻ると体をおこす。彼女の口は大きく開かれ、黒く濃い煙が前へ吹き出し始める]
シークレスト: そして君も行くんだ、ランディ。[言及されているのは左にいる三人目のパネリスト、ランディ・ジャクソン] 深呼吸をして。君は地獄で彼女と一緒になることができる。
ジャクソン: そういうクソは自分の家ですることにするよ。ライアン(シークレスト)、マスクを外すんだ。もう今は私達でさえ放送に乗ってはいないよ。
シークレスト: これかい?[司会者は自分の頬を左手で引っ張る] これは本物だよ。奴らがこれを外そうとするなら切り取らなきゃいけないだろうね。君はあの言葉で生きているんだろ。違うか?
ジャクソン: 私はその言葉で生きているよ。
[この後、司会も審判員も観客も全員が二分間沈黙する。その後、シークレスト、コーウェル、ジャクソンはポーラを模倣して、スタジオ内に彼らの口から煙を吹き上げる。この時点では観客は音声で判別できるような反応は示さない。この後、カメラは審判員たちを映し続け、時折恐怖で凍りついたりすすり泣いていたりする観客のクロースアップが散発的に見られる。これはこの回の終了まで続いた]

SCP-1425「星のシグナル」

「アメリカン・アイドル」は実在するオーディション番組ですが、こちらもまたカオスなことになっています。
会話内容は意味不明の一言なのですが、注目すべきは「煙」です。「星のシグナル」の第九章でも煙についての言及がありましたが、先述したとおり、第五教会では、煙は魂を意味しています。
被影響者が口から煙を噴き上げるなど、SCP-1425がもたらす精神異常や現実改変が深刻化しつつあることが伺えます。

第19日(5/10 金曜日): へびつかい座プロトコルを執行する努力は頂点を迎えます。オーハイ症候群の行動予測もここで天頂へと達します。財団のパトロールで文書で概説された「煙を追いかける」オーハイ症候群患者(ドキュメント 1425-A参照)が路上でも見られるようになりました。この事件は食物性寄生虫に因るものだと報道されました。
そして、個人は財団が記憶処理治療を行う地元の病院へと、個々人で報告するよう命令されました。
合衆国で400人、ブリテン島で300人がクラスB記憶処理を受けました。
注意:このブリテン島での数字は2005年5/10以前の努力が事前に考えられていたよりも効果的でなかったことを意味します。更なる疑問点を書くことは推奨されます。

SCP-1425「星のシグナル」

ついに19日目を迎えました。SCP-1425による異常現象が発生すると予測されている日であり、財団の収容作戦も正念場を迎えます。

オーハイ症候群の患者が、あちこちで煙を追いかけている様子が観測されました。第九章の「煙の指示に従ってください」という箇所に関連した行動であると思われます。繰り返しになりますが、第五教会では煙は魂を意味しています。

また、イギリスではSCP-1425は根絶されたと思われていましたが、実際はそうではなく、財団の目をかいくぐって収用から逃れていたようです。
これだけの大規模ミーム感染を引き起こしながら、なかなか尻尾をつかませない、厄介なオブジェクトです。

以下は、へびつかい座プロトコルによって差し止められた放送です。

昼のトークショー“████████”を、司会の████████ ███████は、この回を司会者だけで撮影しました。スタジオは暗く、明らかに観客が存在しません。司会者は、照明のために灯されたろうそくを持っています。二つのカメラが使われていますが、未知の方法でそれらは運用されています。一つのカメラは███████を撮るよう彼女の向かいの席にセットされ、もう一つは彼女の直接目の前にあります。
███████は視聴者に挨拶をします。彼女の顔は下から蝋燭の灯に照らされています。彼女の顔は紅潮して化粧が落ち、彼女が直前まで泣いていたことを示しています。彼女が単調な声で説明を始めると、スタジオの明かりが落ちます。彼女が「ここにあるものを見たくない」ため、これは彼女の望んだ行為です。
彼女は、彼女がデイヴ・シャペル(Dave Chappelle)だと主張する人物にインタビューを始めます。しかし、彼は見えず、彼が座っていると主張される椅子もありません。さらに、彼女の質問にはいかなる音声による返答も聞き取ることができません。彼女は返答を聞いたかのように反応しますが、時々、急に笑い始めたり涙を拭ったりして反応を中断することがあります。
話題は平凡なもの(コント(sketch)シリーズ、シャペルズ・ショウの最新シリーズについて)からより異常な話題、例えばSCP-1425に書かれている天体現象や[削除済み]まで多岐にわたります。
20分時点で、███████は直接カメラに向かって話し始めますが、黒い手袋を着けた手に後ろから口を抑えつけられて発言が遮られます。抑えられた悲鳴が司会者から発せられると、彼女は座っていた座席から後ろへと引きずられ、蝋燭の灯は画面外から消されました。
███████の生放送していたこの番組が実際に起こっていると考えた財団のエージェントがスタジオに到着したのはこの事件から6分後でした。スタジオは完全に空であり、いかなる直前の活動の痕跡も見つかりませんでした。

SCP-1425「星のシグナル」

財団の監視下にもかかわらず、全ての発端となった昼のトークショー番組の生放送がまたしても行われました。姿をくらましていた司会者の女性が登場し、無人のスタジオ内でインタビューを行っていますが、相手の姿や声は確認できません。
やがて、司会者の女性は黒い手袋を着けた何者かに背後から口をふさがれ、引きずられて画面外へと消えていきます。

第20日(5/11 土曜日)以降: 第五教会の手に直接握られているものを除いて、██以下のSCP-1425が社会に存在していると考えられます。その翌週までに、200人以上のオーハイ症候群の患者が回復し、解放されました。そして、24名の有名人たちが、このSCP-1425事件の最中の奇行について謝罪を申し出ました。
注意して欲しいのは、テレビ放送された事件に巻き込まれた全ての個人が、事件の最中の記憶が無いと主張していることです。これにはスタッフや観客も含まれます。
オーハイ症候群として扱われた対象者の継続監視は、外見に表れる長期的な影響が無いことを示しています。

へびつかい座プロトコルは最終段階に入りました。
第一段階は、SCP-1425関連事象の国際的な監視の継続と[編集済み]を含みます。それ以降、一つの放送だけがプロトコルにより差し止められました。それは、英国の(British)有名人ニュース番組が放送した場面で、ヘンリー皇太子[データ削除]は5/10の放送と一致しました
第二段階はシステマチックな星のシグナル、オーハイ症候群、そして全ての関連する事象を公的記録及び正史から排除することからなります。SCP-1425に関連する全てのフィルム、印刷物、記録が根絶されました。記録処理プログラム1425-LETHEが[データ削除]。

財団の目的に対する脅威の一つとして第五教会を無力化するための手段が計画段階に入っています。この作戦は後にオペレーション・スターゲイザーとして指定されることとなっています。(オペレーション・スターゲイザー文書を参照)

SCP-1425「星のシグナル」

SCP-1425の発生から20日目。19日目を過ぎてもイベントが起こることはなく、財団はなんとか鎮圧に成功したようです。
さらなるインシデントの防止と事態の収拾のために、財団は国際的な監視を継続しています。これにより、イギリスでの何らかの番組が差し止められたようです。皇太子の名前が掲載されていますが、その詳細は不明です。

また、財団は事態の隠蔽を図るため、SCP-1425に関する事象を歴史から抹消します。SCP-1425に関する情報記録は破棄されるとともに、LETHEと呼ばれる記憶処理プログラムにより、事件は人々の記憶からも消し去られました。

一連の事件により、財団は事件の元凶である第五教会を危険視し、無力化作戦「オペレーション・スターゲイザー」に着手するところで、イベントログは幕を閉じます。

補遺 1425-A [セキュリティクリアランスレベル 3 以上のみ閲覧可]

最後に、セキュリティクリアランスレベル3以上のみ閲覧が可能な補遺が掲載されています。これは事態の対応に当たった財団の小部門であるEIDのディレクターが記した、SCP-1425インシデントに関する覚書です。

もしあなたがイベント1425について学んだのであれば、ここで報告されている詳細は思いもかけないものと感じられるかもしれません。三週間の記憶と歴史を西洋文化から切り落とす事ができたということは、財団の研究者にとってさえ飲み込むのが難しい概念です。その疑いはもっともです。

公式にはSCP財団は全能で全てに対し準備を整えているということになっています。しかし、これを読むことであなたは少し率直さを得る事になります。イベント1425の論争の余地のない真実とは、私たちが幸運だったということです。
いくつかの理由から、私達は状況を勝利に導きました。これらの理由はイベントログには記載されません。全てではないにせよ、いくつかの有用だがささやかな注意点をここに残しておきます。

SCP-1425「星のシグナル」

EIDのディレクターは、インシデントを振り返り、SCP-1425に対する勝利は、財団の実力によるものではなく、幸運によるものだ、と結論付けています。その理由は以下に記されています。

1:その状況は私たちが理解していたよりもっと悪い
あなたが行間を読むということを学ぶだけ長く財団で働いていなかったケースに備えて、ここに書き記すことにします。
これは、ただの封じ込め違反ではありません。
現実改変を行い、ミーム汚染を引き起こす幻想的な本が、一冊だけ財団の管理下になかったのであれば、それは一つの封じ込め違反です。百万冊のそのような対象が、収容されることなく流通していたとしたならば……ええ、それは公式用語における"差し迫ったCK-クラス現実改変イベント"です。そして彼らはそれをやってのけました。それが、私が今説明していることです。

SCP-1425「星のシグナル」

「行間を読む」とあるとおり、SCP-1425の報告書には、それが意識的にせよ、そうでないにせよ、記載されていない事柄があります。その一つが「世界終焉シナリオの危険性」です。
SCP-1425は、ミーム汚染と現実改変を引き起こす危険なオブジェクトでした。それが財団の目をかいくぐり、アメリカとイギリスで100万冊も流通していたのです。
これは紛れもなく「差し迫ったCK-クラス現実改変イベント」であり、財団はかろうじて危機を回避したものの、現実改変による世界終焉の一歩手前まで追い込まれていたことを意味しています。

2:イギリス(England)での一掃は失敗に終わった
英国本土からのSCP-1425の根絶は実質的に失敗しました。そして、その事実に私たちが気づいた時にはほとんど手遅れでした。
イベントが公式に終了したとされる日の翌日、日曜日、数千の英国臣民が見守る英国王室のパレードの中で実存的改変が起こりました。11:00から11:45の間、ロンドンにいて注意を払っている者はだれでも、切断され、グラスゴースマイルを貼り付けられ、肌の下で何かがうごめいているかのような気分を味わいました。 私でさえ彼らが女王に何をしたかを述べるつもりはありません。もちろん、誰もそのことを思い出すことはありません。ただひとつの古いベータマックス・カムコーダだけがそれを捉えています。
はい、私達はそのテープを持っています。それは、私たちがもっと早く、より効果的な行動をできなかったこと、そして助けられなかったという経験の味がします。

SCP-1425「星のシグナル」

イギリスでは、アメリカと比較して収容は順調に進行し、一時はSCP-1425の根絶が完了したとさえ思われていました。しかし、実際は想像以上の暴露者が財団の目から逃れていました。
その結果、21日目に英国王室にまつわる重大な現実改変インシデントが発生してしまったようです。これはイベントログの20日目に記載されていた、英国皇太子が関連する放送の差し止めのことを指していると思われます。
インシデントの詳細は伏せられており、隠ぺい工作により歴史からも消し去られましたが、財団はインシデントを阻止することができなかったのです。

3:私達は助けを必要としている
私達にはたくさんの助けが必要です。第五教会は私達からその行動を隠しています。特に、彼らはかつての世界の再構築からダメージの限定とPRの完全性に活動の焦点を移しています。
私達は、彼らがどうやって誰にでもSCP-1425の実際の内容を議論させることができたのか(マインドコントロールだと指摘されています)も、どうやってスタジオの観客たちも含めた目撃者の記憶を消したのかも(現実改変によるものだと指摘されています。私もそう疑っています)わかっていません。ですが、彼らの秘密性が私達の仕事を半分にしてくれています。
私はあの[以下の行動は編集済み]が大量の汚れ仕事を隠蔽しているということを付け加えるべきでしょう。
(ほとんどのケースでは第五教会の手が情報に及ばないようにするために行われました――とはいえ、私が先走り過ぎたケースも有るでしょうが)私たちが求める時にいつでも放送を遮断(kill)できるよう連邦通信委員会(FCC)と英国情報通信庁(Ofcom)に対する全面的な協力が必要だという指摘がなされています。そのような好意は、私のクリアランスですら超えるような借りを彼らに作る事になります。

SCP-1425「星のシグナル」

第五教会は秘密主義的な傾向が強く、SCP-1425インシデントが発生するまで、財団はその存在すら把握していませんでした。インシデントにおいても、暴露者の意識や記憶を操ることで、第五教会へと続く手掛かりを抜かりなく隠蔽しています。
後に実行される、財団の第五教会無力化作戦「オペレーション・スターゲイザー」がその目的を十分に果たせていないのも、このような自己隠蔽傾向が影響しているものと推察されます。

4:それでも十分ではない
へびつかい座プロトコル――幽霊ショーの中でも最も気味の悪いもの(spookiest of all spookshows)――は多大な労力を要しましたが、大きな成果をあげました。ですが、完全な成功とはいえません。
星のシグナルを公共の意識から消滅させるための我々の巧妙な処置は、主要な民衆の間で予想通りに機能し、カバーストーリーは受け入れられ、控えめに表現しても、いくらかの隔たりを残しました。
もうひとつの点は、プロトコルにおいて、あるSCPが必要不可欠な事態に直面した場合にそれが使用されることで、私たちは既にそのSCPを使いました。私たちは未だに、プロジェクトLETHEの起動が招いた結果の処理に追われています。しかし、その決定を悔やんではいません。時には感染症を防ぐために、より深い切除を行わなければならないのです。

SCP-1425「星のシグナル」

20日目の記録にて、事態の収束のため、財団が「プロジェクトLETHE」により大規模な記憶処理を実行したことが記されていました。LETHEは、とあるSCPオブジェクトを使用した記憶処理のようで、財団はその後始末に追われてるようです。
そのような危険性や副作用を承知の上で、特殊なSCPを持ち出さなければならなかったほど、事態は切迫していたということになります。

5(これは明らかにEIDのラッキーナンバー):私達は裏切られていた
イングランドのサイトで行われた調査により、へびつかい座プロトコルがここでは効果的でなかった理由が明らかになった。第五信徒の浸透だよ。もう一つの教会の秘密は一年かそれ以上私らからノーマークだった侍祭から漏れてた。言うまでもないことだが、英国のサイトに居たどんなモグラも頭をくらくらさせるほど手早く一掃させてもらった。つまり、君が"南部第五信徒"でないなら、もう過去の話だ。
警告とともに私は筆を置くことにする。この話題における上層部のスタンスはスリーパーはもう根絶されたということになっている。だが、私はこの作戦が地方的なものではないと確信している。
もし君がどんなものでもいい、卑劣な糞野郎どもの(煙でも何でもいいが)匂いをかぐことがあったら、君のディレクターに報告してほしい。ああ、くそ、つまり私にだ。もし君が第五信徒であり、これを読んでいるというのなら、私には君の成功を称賛する他ない
だが、私には聞くべきことがある。"A * A *"、というフレーズは君に取ってどんな意味だろうか? 私には分かっている(It does to me)。必ず君の助祭に聞くように。
J. アルレンマイヤーDirector, EIDリヴァプール, 8/15/2006

SCP-1425「星のシグナル」

調査の結果、驚くべき事実が明らかになりました。イギリスの財団サイトを調査した結果、内部に第五教会のスリーパー(スパイ)が潜り込んでいたことが判明し、財団の収容作戦は第五教会に筒抜けになっていたのです。イギリスにおけるへびつかい座プロトコルが効果を十分に発揮していなかったのは、このためです。
内通者を察知した財団は即座に行動し、イギリスのスリーパーは一掃されました。このこともって、財団は事後処理を完了したとみなしています。

しかし、この文書の作成者であるEIDのディレクターはそうは考えていません。このような妨害工作や情報流出はイギリスに限った話ではなく、アメリカ方面、それも実動を担当したEIDにも内通者が存在していると考えています。
ディレクターは裏切り者の目星もすでについているようで、文書の中でこれを読んでいるであろう財団内部の裏切り者に向けて、直接的な警告を突きつけています。

なお、文書の見出しに「5(これは明らかにEIDのラッキーナンバー)」とあることから、EIDがすでに第五教会の影響下にあったことを暗示していると思われます。

また、重要なキーワードとして"A * A *"というものが登場しています。
これが何を意味しているのかは不明ですが、*が「アスタリスク」「星印」であることから、星と関連した何かであることが推察できます。
似たフレーズがSCP-2456「壊れた世界の夢」にも登場していますが、結局のところ、詳細は不明なままです。

大規模なミーム災害と現実改変を引き起こすだけでなく、その過程で財団の内部にまで潜入し、作戦の妨害までやってみせた第五教会…財団にとって大きな脅威となることを予感させる終わり方です。

SCP-1425と第五教会の目的

SCP-1425は、ミーム災害による感染拡大と現実改変を引き起こす危険なオブジェクトでした。この現実改変は、オブジェクトの曝露者が増えるほどより強力になるという特性があります。
では、第五教会はいったい何が目的で、どのような現実改変を引き起こそうとしていたのでしょうか?

結論から言えば、第五教会の目的は、SCP-1425を通じて第五主義への暴露者を増加させて大規模な現実改変を引き起こし、彼らが信奉する第五世界(及び神であるSCP-3125「逃亡者」)を基底現実に顕現させることです。

第五世界については、SCP-1425の中で「思うがままの自由な世界」と評されていました。しかし、これは読者を誘引するための方便であり、実際は第五教会の異常性の根源であり、上位存在であるSCP-3125の根城である五次元空間を指しています。この五次元空間は、後にSCP-5800「第五の闇」としてオブジェクト指定されています。

第五主義という言葉はSCP-1425報告書内には登場しませんでしたが、一言でいえば「第五教会の本質となる教義」のことです。第五教会ハブにおいて、第五主義は「異常な思考法」「激毒」であり、現実を超越すると記されています。
実際、SCP-1425の読者は「オーハイ症候群」と呼ばれる支離滅裂な精神異常を発症していますし、曝露が進行すると煙を口から噴き出すなど、肉体にも影響が及んでいました。

このように、SCP-1425は、読者を第五主義に感染させ、心身を直接改変することで、第五主義者へと「作り変えて」しまうという、極めて有害で危険な洗脳書だったのです。

SCP-3125「逃亡者」についても少し解説します。
SCP-3125は、基底現実の外部にある5次元世界を起源とし、他の情報体(アイデア)との生存競争を勝ち抜いた、極めて暴力的なミームと反ミームの複合体です。第五教会の信奉する神であり、異常性の根源とされています。
また、後述のとおり、反ミーム部門ハブにおいては、SCP-1425はSCP-3125の一側面の可能性があると設定されています。

いくつかの補足

ここでは、報告書中に登場した用語などを補足します。これまでの解説と重複する部分がありますが、纏めておいたほうが参照しやすいと思いますので、ご容赦ください。

へびつかい座プロトコル

SCP-1425の収容手順です。財団は記憶処理、情報隠蔽、オブジェクトの回収など、様々な手段を用いてSCP-1425の収容に成功しました。今後、同様のアウトブレイクが発生した際には、このプロトコルに基づいて収容を行います。
なお、反ミーム部門ハブ「反ミーム部門年表」においては「財団は大きなコストを払いつつも、従来技術(i.e. 非-反ミーム的)を用いて、困難と思われた収容を達成する」と言及されています。

オペレーション・スターゲイザー

財団による第五教会の無力化作戦の名称です。
SCP-1425「星のシグナル」事件を経て、第五教会を脅威と判断した財団は、無力化作戦「オペレーション・スターゲイザー(星を見る人作戦)」を開始し、第五教会に対する監視や対策を進めています。
とは言え、第五教会は自らを周到に隠蔽しているためか、現状では直接的な無力化は実施されていない模様です。
なお、SCP-3519「静かなる日々」では、同作戦の失敗と、それに伴う世界終焉が描かれています。

煙、煙霧

煙は、肉体から離れた魂を意味しています。これは、肉体を捨てて魂を煙へと変えることで、現実を超越して第五世界へと到達すること目的としているためです。
SCP-1523「アイツが魂」の他、第五教会ハブ「あらまし」、SCP-3005「死んだ光」、SCP-4125「我らは帰る」、SCP-5982「煙が目に滲みる」 、SCP-5502「たなびく煙の断端」等、煙に関するものは枚挙にいとまがありません。

アルコーン

アルコーンは、第五教会における上位存在を意味しており、SCP-1425「星のシグナル」の他にも、SCP-2517「これが私がキノコの上に神を見た時」やSCP-4125「我らは帰る」など、多数の第五教会関連オブジェクトで言及されています。
アルコーンについて、SCP-2517「これが私がキノコの上に神を見た時」では「偏在する無性の力であり、アルコンの形をとって地上に具現化」と説明されています。これは第五教会の信奉する神であるSCP-3125「逃亡者」の性質に合致することから、第五教会の文脈では、アルコーンはSCP-3125(またはその一側面)を指すものと考えられます。

プロジェクトLETHE(レテ)

へびつかい座プロトコルにおいて実施された、大規模記憶処理計画の名称です。Letheは、古代ギリシア語で「忘却」を意味しています。報告書中では、LETHEにはとあるSCPを活用したことが示唆されています。
また、SCP-3002「思考抹殺計画」では、Letheはとある人型SCPを組み込んだプロジェクトであることが判明します。
なお、ディスカッションでは、反ミームオブジェクトであるSCP-055「正体不明」が用いられたのではないかという意見がありますが、SCP-055に能動的に特定の記憶を消し去る力があるかは不明であり、謎は残されたままです。

関連オブジェクト

SCP-1425は、第五教会に関する世界観の基礎となっていることから、数多くの報告書やtaleで言及されています。

SCP-2456「壊れた世界の夢」

SCP-2456は、潜在的ミーム存在です。宗教を通じて感染するミーム災害であり、曝露者の心身を直接的に改変するという極めて有害な性質を有しています。また、曝露者が増加するほど、強力な現実歪曲効果を引き起こす性質があります。
その特性から、SCP-1425「星のシグナル」の原型であるとされており、SCP-2456報告書においてもそのことが示唆されています。また、同報告書中には、SCP-1425のインシデントで重要な役割を果たし、姿を消したテレビ番組の女性司会者に関する言及もあります。

なお、SCP-2456については、以下の別記事にて紹介していますので、よろしければご覧ください。

反ミーム部門ハブ

反ミームハブにおいて、SCP-1425はたびたび言及されます。
反ミーム部門において、SCP-1425はSCP-3125「逃亡者」の一側面の可能性があると設定されており、「わすれられない、それがあなた」では、過去にもSCP-1425により異常なカルトが大流行したことが語られています。この際、財団は反ミーム爆弾を起爆し、事態の鎮圧に成功しますが、この影響か、後年のSCP-1425アウトブレイクについて「反ミーム部門は作戦に関与せず、感知すらしていなかった可能性がある。」と記述されています。
メタ的にも、SCP-1425は反ミーム部門ハブのtale執筆に大きな影響を与えた旨がハブページ中に記されています。

SCP-4982「冠に重圧あり。」

4段の本棚です。メタ要素を含んだオブジェクトであり、棚には13冊の本が収められているのですが、それらはSCP財団の世界観に大きな影響を与えた作品を示唆しています。その1冊がSCP-1425「星のシグナル」です。
また、別の段にはマリオン・ホイーラーを含む140,516名の詳細な死亡者リストがあり、反ミームとの戦いで消し去られた人々の記録であると考えられます。

SCP-2425「第五教会勧誘ロボ」

職業:俳優のロボットです。出演した映画に、第五教会に入会したくなるミームを挿入します。
「第五教会に関連する宗教ソングが発する周波数」を動力源していますが、「宗教っぽいけど露骨に宗教じゃない歌」やSCP-1425「星のシグナル」のレプリカを燃やすと、パワーダウンして沈静化することができます。

SCP-2608「異常性指標種」

太平洋岸北西部原産のカゲロウです。精神操作フィールド、異世界に由来する時空間、改変された時空間に対して脆弱であり、この性質を用いて各事象のセンサーとして財団に活用されています。SCP-1425のアウトブレイクにより、北米ではSCP-2608の大量死が発生し、これが財団の注意を惹くきっかけとなりました。

終わりに

第五教会関連オブジェクトの代表格であるSCP-1425を解説しました。

ごった煮な書き方になってしまいましたが、読み進める上での理解の一助になれば幸いですし、認識違いや他の解釈等がありましたら教えていただけますと嬉しいです。

さあ、星々のようになりましょう!

補遺.おすすめ解説動画

【ゆっくりSCP解説】第五教会 VS SCP財団【SCP-1425_星のシグナル】
よゆうさまの動画です。SCP-1425の異常性やインシデントが、動画により詳細に解説されています。
また、同チャンネルでは、SCP-1425の原型であるSCP-2456「壊れた世界の夢」や、その他の反ミームオブジェクトについての解説動画もあり、第五教会や反ミームについての理解を深めるのに最適です。ぜひご覧ください。

ライセンス

クリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承3.0ライセンスに従います。

CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-1425 - 星のシグナル 原語版タイトル: SCP-1425 - Star Signals 訳者: gnmaee 原語版作者: Silberescher ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-1425 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-1425 作成年: 2015 原語版作成年: 2012 ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-2425 - 第五教会勧誘ロボ 原語版タイトル: SCP-2425 - Fifth Church Recruitment Tool 訳者: gnmaee 原語版作者: Ihp ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2425 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2425 作成年: 2016 原語版作成年: 2014 ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: 反ミーム部門ハブ 原語版タイトル: Antimemetics Division Hub 訳者: C-Dives 原語版作者: qntm ソース: http://scp-jp.wikidot.com/antimemetics-division-hub 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/antimemetics-division-hub 作成年: 2017 原語版作成年: 2017 ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: 反ミーム部門年表 原語版タイトル: Antimemetics Division Timeline 訳者: (user deleted) 原語版作者: qntm ソース: http://scp-jp.wikidot.com/antimemetics-division-timeline 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/antimemetics-division-timeline 作成年: 2019 原語版作成年: 2018 ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-2456 - 壊れた世界の夢 原語版タイトル: SCP-2456 - Dreams of a Broken World 訳者: C-Dives 原語版作者: megalan ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2456 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2456 作成年: 2017 原語版作成年: 2017 ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-4982 - 冠に重圧あり。 原語版タイトル: SCP-4982 - Heavy lies the crown. 訳者: C-Dives 原語版作者: Uncle Nicolini ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-4982 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-4982 作成年: 2019 原語版作成年: 2019 ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-3125 - 逃亡者 原語版タイトル: SCP-3125 - The Escapee 訳者: C-Dives 原語版作者: qntm ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-3125 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-3125 作成年: 2017 原語版作成年: 2017 ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル: SCP-2608 - 異常性指標種 原語版タイトル: SCP-2608 - Anomalous Indicator Species 訳者: gnmaee 原語版作者: gemcuttlefish ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2608 原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-2608 作成年: 2016 原語版作成年: 2016 ライセンス: CC BY-SA 3.0

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