きこえる。後編

ああ、猫の声がうるさい。

ふと気がつくと、部屋に夕暮れの光が差し込んでいた。そうか、私は仕事を休んで1日こうしていたのか。机の上のコンビニ弁当は、昨夜のままで手付かずだ。
時間を確かめようとして、携帯を手に取る。
無断欠勤をしたのだから、上司から着信が来ているであろうと思ったが、そんなことはなかった。
着信はありませんの文字を見て、ついに私は今世の中からはじき出されたと悟る。
携帯が手から落ちて床に転がると同時に、ごとんと無機質な音を立てた。

また、猫の声が聞こえた。どこかで誰かを呼んでいる。そう感じた。
私はベッドから起き上がって、その声に耳を澄ませる。そういえば昨日からずっと鳴いている。いや、一昨日から、いや、それともずっと前から?

声のする方へ歩く。隣の部屋なのか、それとも...。

私は気がついてた。この世の中の不平等さに。誰も認めてはくれない。誰からも頼られない。それは自分のせいだと思い込んでいた。けれど気づいた。悪いのは世の中で、会社の上司でもない。

そうだ、

私は気がついた。猫の声はまだしている。

きっとあれは私を呼んでいる。私を求めて、こちらへおいでと手招きしている。
ああなんて、なんて心地よいのだろう。足元は雲に乗っているかのように、ふわふわしている。

さあ行こう。この世のどこでもない場所へ。そこへ行けばこの声の主がいる。私を待っている。

私は足を踏み出した。
止まることなく、飛んだ。

ああもう、これで。

私の頭の中を、猫の声が支配して。
永遠に。

#小説 #短編小説

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